第58話 アールセリアの推薦
〈無敗の三日月〉に騙され、〈隷属の首輪〉をされた冒険者たちを収容所から助け出す。
九十九は収容所に着くなり透明になり、囚われの冒険者を全員〈
更に症状の重い者にはスキャニング診断を経て、抗菌薬、グリチルリチン酸、ビタミン各種などを個別にナノメタル細胞を使って注入する。これによって重症化は収まり、バイタルが改善されていくのが確認できた。
続いて〈隷属の首輪〉を無効化して、倒れている者達をまとめて縛る。
ロープで一くくりに縛って、8人まで〈
飛行に対応できるモンスターもおらず、輸送は安全に予定通りに消化される。
3往復、73分でブロズローンの貧民街・クロカッドの〈輝きの狼〉が拠点とする廃屋に運び込んだ。
そう、クロカッドやアールセリアを今回の救出に巻き込むことにしたのだ。
フギンの姿で冒険者たちを運び込んだ時はまだクロカッドらは帰宅して一時間しか経っていなかった。
当然、アールセリアも疲れで立っているのがやっとという状態だ。
フギンらが根城にしているのは、半壊した商館であった。屋根が抜けたらしく、木片を組み合わせて何とか雨風をしのいでいるという状態で16名の未成年が暮らしている。
フギンは吊るした冒険者たちを裏庭にまずはそっと降ろした。
様子を見に出てきたクロカッドやアールセリアにフギンは〈アイテムボックス〉から取り出した小瓶をそれぞれに差し出す。
「まずはこれを飲め!」
それはガズ翁から買った疲労回復薬だった。作り置きが6つしかなかったので目黒らには回せなかったが希少な薬草を使った一品である。
「うひっ、苦いのじゃ……」
アールセリアは顔をひそめたが、寿命を延ばす薬やらを作ってしまうガズ翁らしく効果は覿面だった。服薬して間もなく2人は生気を取り戻す。
「ぐははは! 何だかぐっすり一晩寝たみたいなのじゃ!」
「凄い効き目だ。さすがフギンさん――こんなもの普通は手に入らない」
フギンは早速冒険者達を運び込んだことに話を移す。
「こやつらが森で囚われているのを見つけた。悪いがおまえ達であとはよろしく頼む」
これにはクロカッドもポカンとなってしまう。
「ま、待ってください。これはあまりに突然で対処できません。冒険者が囚われていたというならば、冒険者ギルドに救済を求めるべきではないのですか?」
「うむ、しかし監禁していた者の話を盗み聞きしたところ、冒険者ギルドも今回の監禁に関与しているようなのだ。つまり冒険者ギルドも悪事に手を染めているかも知れんのだ」
「そ、そんな……こっちは今、町のゴロツキからみなしごを守ることで手いっぱいで……とてもではないが、冒険者ギルドと事を構えるなど無理です」
クロカッドらも冒険者ギルドに所属していたが冷遇が続き、嫌気がさして傭兵ギルドでかつどうをはじめた口だった。
フギンは理解を示すように云う。
「ああ、そうらしいな。九十九からそのような話を聞いておる。それ故に貧民街のことも拙僧は今、千里眼などで調べておるぞ! 悪党から子供を守るのに一肌脱ぐ覚悟はあるぞ」
「ほ、本当ですか!」
クロカッドはフギンの助力を得られるかもしれないと知り、喜ぶ。その顔に貧民街の悪党たちにこれで武力で負けることはないという考えが現れていた。
九十九はドローンから集まる情報で新たな事実を把握している。MIAが目星を付けた貧民街の顔役には全員ドローンが張り付いているのだが、そこでとんでもないことがわかってきた。
30分前に入手した情報で盗賊ギルド〈夜の鉤〉が貧民街の悪党に協力を促していたのだ。そして貧民街の悪党はそれに肯定的に反応している。〈夜の鉤〉の影響力の大きさを九十九は思い知らされた。
とてもではないがクロカッド達だけでは子供たちを守り切るのは不可能で、九十九もことに介入することを決断した。
九十九の話を聞いていたアールセリアの形相も変わる。
「冒険者が集団で誘拐され〈隷属の首輪〉を掛けられたとなると大問題である! これは我が国の騎士団に報告するのが筋であるぞ! 冒険者ギルドの不正、怪物たちの大発生も含め、国が介入すべき事態なのじゃ!」
九十九はアールセリアがちゃんと理解していることに軽く驚く。やはりきちんと英才教育を受けているのは間違いがないと思う。
「さすがは元王女。で騎士団とはなんだ? そういえば聞き覚えがあるな」
巣文字や雲雀丘らを面倒見ていたのがエバグル王国騎士団であったと思う。だが、自分たちの面倒も放棄したことや、町の治安などを見ると九十九は信用ができない気がした。
「騎士団は3つあり、このブロズローンの治安を守る要じゃ! 総勢250名を超える精鋭の集まりである!」
「騎士団に任せるのが一番だという意見、あいわかった。今も思い出したが拙僧の伝え聞いたところ騎士団の評価はいまひとつという感じがするがな?」
その言葉にアールセリアは頷きを返す。
「そういう意見はわかる。第一騎士団のテッカガスなどは選民意識の強い男で、平民を馬鹿にするところがあるからのう。しかし、第三騎士団のマースクは違うぞ。マースクは元奴隷から騎士にまで上り詰めた気骨のある男である! 奴に任せるとよいのじゃ」
「ほほう! そんな逸材がいるのか」
フギンはアールセリアは基本ポンコツだが、そこそこの知性と審美眼はあるように思う。
「そのマースクにはどこに行けば会えるかな?」
「えっと……その、すまん。2か月前ほどに軍馬の育成を行っていると聞いたが、今は正確なことはわからない」
アールセリアは正直にそう答えた。
そこでフギン九十九はMIAと思考で話す。
「MIA、ドローンが採取した町の人々の会話に『マースク』『騎士』のワードで検索をかけ、ヒットしたものはないか?」
「この2日で124ありました。集中して発生している地域があります。正確さを上げるために追加のドローンを向かわせますか?」
「そうしてくれ」
九十九はアールセリアの推薦する者が何とか役に立ってくれるように切に願う。自分でできることの限界がすぐそこまで迫っているのを着実に感じ取っていたからだ。
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