第55話 聖剣聖の腕前
呪文組がまずは一斉に石を投げる。
が、大イタチ・ガランティスは4匹があっさり石を回避し距離を詰めてくる。
「早い!! てか、あのデカさであの身のこなしはヤバい!」
北六条が緊迫した声でそういった。
キキキキキッ――ガランティスの甲高い声も笑っているようで人を不安にさせる。
ガランティスの形相も恐ろしく、吊り上がった大きな瞳が真っ赤に燃えているように輝く。
撃つより〈
サーベルウルフは大きな顎で噛みつきを仕掛けるが、ガランティスは長い体をしなやかにしならせてかわしていく。更に隙あらば逆に噛みつこうとしてくる。
「ハァッ!!」
カトレナーサは〈
2匹のガランティスが目黒らを襲う。
一匹をクロカッドが前に出て迎え撃つ。
「俺が食い止めるから、一斉に殺ってくれ!」
「よし! てか気合入れるぞ!」
クロカッドが身を挺してガランティスにぶつかったが、あっさり豪快にぶっ飛ばされる。
それでも続くリッド、新代田、若松、北六条がガランティスに食らいつく隙が生まれ、7人対一匹の状態を築くのに成功した。
残り一匹は万代と川崎の攻撃を回避すると、大きく口を開いてアールセリアに迫る。
「ひぃっ!?」
一口でアールセリアの頭を丸のみしそうな勢いであったが、ガランティスの動きはぴたりと止まる。
一瞬でフギンがガランティスの四脚を全て切り離していた。〈
足をすべて失ったガランティスであったが、それでもなおアールセリアを噛もうとするので、フギンはその口を膝蹴りで牙ごと破砕させる。
「アールセリア、止めを!!」
とフギンが言ってもアールセリアは動かない。顔面蒼白となって10秒経過した処でようやく我に返った。
「お、おう! みどもに任すのじゃ!!」
完全に腰が引けた状態でアールセリアは
仕留め終えるとアールセリアも調子を取り戻す。
「がはは! みどもに掛かればざっとこんなもんじゃ。どれ、カトレナーサの助太刀でもいたそうか!」
そういって歩き出すアールセリアからは雫が垂れていたので、フギンは密かに〈
サーベルウルフも徐々に戦いの主導権を掴み、自身の障壁の優位性を生かし、ガランティスの首に食らいつき、粉砕する。
カトレナーサもガランティスの高速の身のこなしに適応していき、器用に戦いをリードする。中でも飛翔するブーツを巧みに取り入れた体さばきは見事であった。
青く発光する〈
最後は眉間に〈
「なかなかに見事であった。まるで舞いを見ているようであったぞ」
フギンがそう声をかけると、カトレナーサは兜を背中に戻しながら微笑む。
「いやはやここで活躍できなければ沽券にかかわると思い、必死で戦ったのです。最後まで一人で戦わせてくれて感謝いたしますです!」
そういって顔を上気させながら微笑むカトレナーサは、天性の美貌も相まって見る者を強く魅了した。
それには九十九も含まれていた。
九十九は剣技のことはよくわからなかったが、カトレナーサの腕前が相当な域にいるのだろうと察する。聖剣聖などいう仰々しい称号も案外伊達ではないのかも知れない。
ここで九十九はカトレナーサに、アンライトの故郷フォクランや魔王王国ビブリデシアについてやはり聞くことにした。カトレナーサへの信頼が上がったからに他ならない。
ドローンが録音して採取したデータによると「フォクラン」「ビブリデシア」のワードをこの街の人間は誰も口にしていないのだ。つまりは両国ともこの周辺にない可能性が高いと想像がつく。
東方八聖であり国と教会に身を置くカトレナーサならば広い見識を持っていることが期待できる。
「時にカトレナーサ、『フォクラン』もしくは『ビブリデシア』という名前を聞いたことがないか?」
九十九の問いにカトレナーサは頷く。
「いずれもここからは遠方の国なのです。ビブリデシアは距離的にはさほどではないですが、大きな山脈を超えなくてはならないのでこの周辺との交流はないといえますです」
「そうか。フォクランという国が滅びたと耳にしたがいかがか?」
「ここから遥か北西にある国なので存じないです。ですがフォクランが崇める神が廃神したという話を聞いた憶えがあるでございますです」
「……『廃神』とはなんだ?」
「いくつかの意味がありますが、主には神が人々に加護を授けるのを止めることを意味しますです」
「ほほう――そうか……」
やはりリエエミカ達の情報を集めるのはもう少し時間が必要だと九十九は思った。詳細な状況を掴むには時期尚早と結論付ける。
最後のガランティスも13人に取り囲まれてはどうしようもなく、討伐された。
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