第56話 フギンご乱心

※※※グロ描写があります※※※



 ガランティス4匹の死体を前に、〈輝きの狼〉のクロカッドが笑顔のまま、ため息をつく。


「こんな綺麗な毛皮の怪物はこの辺でも見かけないぞ。いったいいくらで買い取ってくれるか……。高値で取引されるサファイアボアの蛇皮が金貨15枚だから――多分金貨20枚は行くんじゃないかな?」


 それに皆、ざわめく。

 川崎が細い目を更に狭くして指を折りつぶやく。


「えっと――4匹いるから金貨80枚。日本円で800万円……」


 若松が目を丸くして頭を振る。


信じられないOMG――いいや、史上最高GOATかよ」


 更にカトレナーサも参加する。


「いいや、帝国ではガランティスは金貨50枚で王家が買い取ったという記録がある。もう少し高値がつくだろう」

 

 その言葉に〈輝きの狼〉の面々の顔つきがシビアになる。盗賊のスパオなどはガタガタと震えだす。

 目黒がクロカッドに尋ねる。


「これをどう解体するんで~す? 美味く毛皮を剥がせる自信はないです~」


「俺達でできなくはないが、毛皮の値段が半分以下になってしまうだろう。でもとても運べないし――」


 ここでサーベルウルフが西に向かって唸り声を挙げ出す。

 フギンはガランティスに近づくと一気に〈アイテムボックス〉に収納する。


「拙僧が預かってやるから今は次の怪物に備えよ。今度の奴はデカいぞ! 心せよ」


 九十九はサーベルウルフよりも早くそれの接近に気づいていた。

 まだ13名に休息を取らせようと考えていた九十九だったが、レベルアップのチャンスだと思い、皆を促す。

 フギンが言って間もなく、振動が響く。

 とんでもない重量のモノが歩を進めてくるのをカトレナーサを含む13名は確かに感じた。

 モンスターが森の奥から出る前に、フギンが金剛杖・〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を使う。

 〈感電エレクトロ〉のレベル2を〈腰だめ射撃ヒップファイア〉で連射する。


 ギョエェィッ~!!


 大音量の悲鳴が響いて間もなく、木を倒しながら、紫の肌の一つ目巨人2匹が姿を現す。

 一つ目巨人は出現と同時に感電して派手に転倒し、指一つ動かせなくなっていた。


「ほら、しばらく動けないから止めを刺せ! 全員参加で一人一回は必ず攻撃するのだ!」


 とフギンは言うが反応が返ってこない。

 振り返ると、皆呆然として動けないでいた。〈輝きの狼〉にしても驚き、凍り付いている。

 身長が4メートル半、体重18トンという圧倒的質量の一つ目巨人の存在は、何もしなくても常人に強いショックを与えていたのだ。

 普段は能天気なアールセリアにしても今は大きく口を開け微動だにしない。

 サーベルウルフでさえも明らかにしり込みしていた。

 これにフギンはむかっ腹を立てる。


「ふざけんな、たわけが! 戯れではないぞ。せっかくの成長の機会を無駄にするというのか!? 戦わぬと、仏罰を食らわすぞ!」


 フギンが天に向け、レベル3の〈焼燬インセンディアリ〉を放つと、ようやくわらわらと動き出す。


「み、みんな行こう!!」


 北六条が仲間を手招くが反応が鈍い。


 そんなフギンにカトレナーサが近づき、恐る恐る問いかける。


「フギン殿、キュクロプスと戦わせるのは流石に無謀ではないですか?」


 フギンはその言葉がわからない。キュクロプスが恐ろしいモンスターであることはわかるが、所詮は〈感電エレクトロ〉レベル2で倒れてしまった程度である。

 反撃されることもないキュクロプスを警戒する理由がフギンにはない。


「拙僧が面倒を見る! 皆はただ怪物狩りに専念せよ!!」


 その檄で12名がキュクロプスを袋叩きにする。

 だが無抵抗でもキュクロプスの肌は剣さえ通さない。


超最悪FML!!」


 パワーに自信がある若松が叫び、〈両刃槍コルセスカ〉で力を込めて突くが肌を浅くへこませるだけだった。

 袋叩きが5分続いたところで再びフギンがいら立ちの声を上げる。


「急所を狙え! 目が大きいんだから、目から脳を狙え!」


 それに従い、北六条が素手でキュクロプスの瞼を引いて開き、〈曲細刀タルワール〉を突き込んだ。

 〈曲細刀タルワール〉は目玉に滑り込む。


「攻撃が通るぞ! てか全然抵抗がない!」


 北六条に続いて、皆も目に向かって攻撃する。

 順調だと思われたが、徐々にリタイアする者が現れた。

 リタイアした者は皆、残らず吐瀉した。

 目玉を貫通して脳を破壊するという行為はかなりグロテスクなビジュアルになっていたのだ。

 紫の体液と赤い脳漿が白い眼玉の中でまざりあうという地獄絵図に誰もが精神的に疲弊した。


 おええっ~!!


 ぼごぉぇっ~!!


 嘔吐の連鎖は止まらずクロカッドでさえ胃液を流した。

 キュクロプス2匹の死亡が確認されると、その遺体をフギンはまたも〈アイテムボックス〉に入れた。

 過酷過ぎるモンスター討伐に再び休憩が設けられた。皆はこのキュクロプス討伐から一気に疲労をあらわにする。

 皆がもう今日は充分ではないかと思ったが、フギンは違った。


「全員覚醒するまで、帰らせないぞ! 心して掛かれ!」


 九十九もここにきて精神的な疲労が極限まで達していた。強制的に多人数を鍛えるというストレスが重くのしかかっていたのだ。

 人を無理矢理窮地に立たせてしごく行為は、九十九にとってもとてつもない心労になっていた。


 もう集団でレベリングなんかうんざりだ。二度とごめんだ。今日で最後にするからとことんまでやるぜ!


 フギンの言葉に誰もが凍り付く。

 だが絶対に言葉通りに最後まで完遂されるであろうことはカトレナーサを含めた13名は薄々勘づき始めていた。

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