第53話 拙僧のは特別でな!
デバフ系とはなんぞ?――一連のやり取りがわからないフギンは、周りを見回す。
すると新代田風人がフギンに言う。
「えっと〈卵覚醒〉で出てくるキャラによって、どんなスキルが身につくのかわかるんですよ。〈爬虫類〉ならバフ、〈両生類〉ならデバフ、〈鳥類〉ならアビリティ増大とかです。えっと、フギンさんはまだ〈卵覚醒〉していないんですか?」
触れられたくないことを聞かれた、とフギンは思った。が傍にカトレナーサがいることで、情報収集のために少し内情を公開することにする。
「拙僧のは特別でな! 一回目の〈卵覚醒〉の後に、更なる大きな卵になったのだ!」
九十九は黒いドラゴン討伐の後にステイタスボード内の玉子アイコンが〈卵覚醒〉の兆候を見せたことを思い出す。touchという文字が点滅したので玉子アイコンに触れた。すると玉子アイコンは割れたが、すぐに前より大きい玉子アイコンが新たに出現していた。九十九はバグの影響がこんなところにも出たかとがっかりしていたのだ。
そのフギンの言葉にカトレナーサが瞳を輝かせる。
「す、素晴らしいです! 〈二段階覚醒〉は間違いなく希少な才能が確定している兆候です! 実はわたくしもそうだったのです!」
皆がその言葉に感嘆の声を漏らす。レアなユニークスキルとなると、やはり畏怖を抱かざるを得ないというところだった。
九十九=フギンも心の中でガッツポーズしていた。まだ〈卵覚醒〉に期待できるとわかったからだ。
日立中が顎に手をやり考えこむような仕草をする。
「〈二段階覚醒〉――ネットでも少し話題になったけどそういうのが本当にあるんですね。〈ライト&ライオット〉にはまだまだ知らない仕掛けや設定があるかもですね……」
九十九は〈テラープラネット〉に比べて〈ライト&ライオット〉では知らないことが多かったので、皆から色々聞きだしていかないといけないと考えた。
そんな中、川崎昴が恐る恐る手を上げる。
「自分がだいたい注目されていないのはわかっているけど、申告させてもらうね。自分は〈哺乳類〉、HP回復のスキルだね」
そういう川崎の肩には紫の子猫が乗っていた。みんな、その従魔の子猫をワッと囲み愛でた。
川崎はみんなの食いつきに戸惑ったあとにはにかみながら立ち上がる。
「〈回復〉を使えると思うんで、〈回復〉が必要な人がいったらいってください!」
川崎は初のスキルを試したいと言い出した。
北六条が手を挙げていう。
「できれば治療をお願いしたい。てか、モンスターにやられたんじゃなくて〈
そういって北六条は川崎に近寄る。川崎は自分のステイタスボードをいじり、北六条を治療しようとするが、途中で青ざめる。
「ご、ごめん、北六条くん、今のスキルポイントでは他人を治すに至らないみたい……。本当にごめん」
「そ、そっか……なんか俺こそゴメン」
気まずい雰囲気が流れると、カトレナーサが大きな声を出す。
「よかったら、私が診よう。私はこう見えて一通りの治癒魔法が使えるのだ!」
そういうカトレナーサの肩に、白銀の小さな竜が現れる。
九十九は自分以外の全員が息を呑むのを感じ取る。
「り、竜だ……竜は〈激レアユニークスキル〉だ……!!」
皆のカトレナーサを見る目が変わる。完全に畏怖の瞳になっていた。カトレナーサの美貌もあり、〈輝きの狼〉クロカッドらも露骨に羨望の眼差しを向ける。
するとカトレナーサはフギンを一瞥する。
フギンには「どうですか? 自分も捨てたものではないでしょう」とアピールしてきたように思えた。
「確かに私の従魔は竜だ。普段は見えないように隠している。わかると思うが従魔を見られることはスキルを他人にばらすことになるからである。皆も普段は隠しておくべきだと忠告する!」
と皆に教授するカトレナーサを凝視しているとMIAが語り掛けてくる。
「マスター、カトレナーサの〈治療〉を重点的に観察・解析する許可を――」
「あ、ああ。許可するよ」
カトレナーサは北六条の左手に手を重ねると、魔法を発動した。
途端に青白かった北六条の顔色に朱色が挿す。
「ありがとうございます! てか、マジで痛くないし、感謝しかない!!」
MIAは結果をすぐにフギンに伝える。
「有効なデータであると計測できます。再現に向け、以後も計測を継続します」
「ようはもっと〈治療〉を行っているところのデータが必要なんだろう?」
とフギンはMIAに云った後にカトレナーサに近づく。
「カトレナーサ、お見事だった。この者たちへの刺激にもなるし、〈治療〉の魔法をできるだけ行って欲しいんだがいかがだろう?」
フギンの言葉に白銀の聖剣聖が笑顔を返す。ようやく見せ場を得られたと言ったような顔をした。
「承知しました。手本になる様に振舞いましょう!」
フギンはカトレナーサが案外扱いやすいことに気づく。頼られると応えたくなるタイプのようだ。
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