第51話 ネームドキャラ

 それでも九十九は理知的に聖剣聖と交渉しようと試みる。


「拙僧は異邦の者だからよくは知らぬがここエバグル王国とお主のイシュラ帝国は戦争を繰り返していると耳にした。ここにいていいのか?」


 フギンの言葉にアールセリアが口を開く。


「ハハハ、彼女の称号・東方八聖は伊達ではないのだ! ここ東方のどこにでも移動が許され、いくつもの特権を有している!」


 アールセリアに同意するようにカトレナーサは頷く。


「わたくしはこのエバグル王国、ブロズローンの周辺で不可解なことが頻発していると聞き、ここまで来たのです。このモンスターの大量徘徊も関係があると思い、調べておりました。わたくしの所属する教会も重大なことと捉え、イシュラ帝国の人間としてではなく東方八聖としてこの地に来ております」


「ふーん、『不可解なこと』 か…」


 フギン九十九は商人オシロスらが冒険者ギルドや〈無敗の三日月〉が、ブロズローンにモンスターを呼び寄せているという件と、カトレナーサが嗅ぎ付けた件と関係あるのではないかと推測する。

 少し鎌をかけてみることにする。


「一つカトレナーサに尋ねるが、そのモンスター大量徘徊がイシュラ帝国の人間の仕業だとした場合はどうするつもりだ? イシュラ帝国の策謀を阻止するかね?」


「ハ~ハハハ! 愚問であるぞ、東方八聖は――ぐももっ」


 またも口をはさむアールセリアの口をフギンは手で塞ぐ。

 カトレナーサは迷いのない顔をする。


「万が一、イシュラ帝国の仕業であった場合は、父に相談の上、阻止に努めます! モンスターの大異動は国を超えて取り扱う大事ですから!」


「その父が『しばし静観せよ』と言われたらどうするのだ?」


「……それは――その……」


 カトレナーサは一瞬で精悍な風貌を濁し、目を泳がし始める。

 やっぱりこの娘と関係を築くのは慎重にすべきだと九十九は思った。カトレナーサの存在は薬にも毒にもなりうるのだ。



「そちらにもそちらの事情があるのは理解した。だが今は訓練の邪魔はしないでくれ」


 フギンの一瞥に、カトレナーサはまた怯えたような顔をしたが、一歩下がってから頭を下げる。


「しょ、承知しました。その……できれば邪魔をしないので、しばし見学することを許可願えますか?」


「口出しは許さんが見る分には問題ない」


 それだけいうと、フギンは再びオーク討伐に意識を戻す。

 ようやく上位種オークは倒された。やはりクロカッドら〈輝きの狼〉が一番活躍していた。

 次に北六条ら4人が奮闘していたが疲弊が激しい。目黒らは目に見えて後手後手だったが、何故か生き生きとした顔をしていた。

 MIAの操る九十九は石投げで狩りに貢献している。モンスターの反撃を受けそうな者のサポートに専念し、目立たぬように立ち回っていた。

 戦いを終えた11名は誰もが見学していたカトレナーサにぎょっとし、くぎ付けとなる。

 特に転移組はカトレナーサに羨望と驚異の目を向けていた。

 九十九はこの劇的な反応を疑問に思う。万代の小さなつぶやきを聞き、納得することになる。


「めっちゃ綺麗……お人形みたい。これって要するにネームドキャラでしょ!」


 ネームドキャラ――確かにそんな感じに九十九も思えた。特定の役割を果たすためにワールドに配置されたキャラクターは「テラープラネット」にも存在する。

 改めてみるとカトレナーサは清楚な美少女で、その出で立ちも聖職者らしい武具で揃えられておりキャラが立っていた。

 ふと九十九は頭の中で聞き覚えのある音を耳にする。

 警戒を促す電子音――アラートBと呼ばれるもので、赤外線を放射されたことを意味する。つまりは第三者の索敵を受けた可能性が生まれたことになる。


「MIA、今IRSTを喰らった? 誰かがこっちを索敵しているのか?」


「おっしゃる通りです。ですがご安心を赤外線を放ったのは以前に接触した牙の長い白銀のオオカミです」


「ああ、あいつか。障壁張って再生出来て赤外線まで飛ばせるってスペック高すぎだろう。この辺でウロウロしててこっちに気が付いたか」


「こちらに来たがっているようですが、注入した〈拘束片リストレイントチップ〉で待機するように連絡できますがいかがします?」


「あ~っ、今こっちと合流するとしっちゃかめっちゃかになりそうだな。う~ん――面倒だけどいざということもあるから、目黒達と顔をつないでおくか」


 九十九はサーベルウルフを転移組のサポート役に使えないか考えていたのだ。

 フギンは14名に改まったように言う。


「え~、今ここに拙僧の配下になることを約束した魔物がやってくる。大きな狼系の魔物であるが、皆との連携もできるように躾ける予定なので仲良くしてくれ!」


 これにはカトレナーサがギョッとする。


「フギン殿は魔物を使役なさっているのですか? 魔物の使役は幻の一族ガオルなど一部のモノしかできないと聞きますのに!?」


「細かくは聞くな。成り行きで昵懇となっただけだ」


 間もなくサーベルウルフが姿を現す。体長5メートルという巨躯に初対面の者は全員、硬直した。


「おまえ、ひさしぶり! おれはよいこだったぞ!」


 サーベルウルフの声に転移組が仰天する。


「しゃべった……。驚天動地!!」


 若松の言葉に皆同意する。初期能力としてもらった〈自動翻訳〉でサーベルウルフの言葉がわかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る