第50話 聖剣聖乱入
8匹のオークを討伐した4分後に更に11匹のオークが急速接近してくる。そこには一際大きいオークが混じっていた。
ライオンの
「またすぐに別のが来るぞ! 今度のは今のよりも強い個体がいるから強めの支援をしておく!」
「うむ、よろしく頼むのじゃ! みどもも頑張るのじゃ!」
アールセリアが皆を激励するように叫ぶ。
新たに姿を見せたオークらへ、術師組のために30メートルの距離で動けなくなるように〈
「こちらに空を駆けて接近する者があります。黒いドラゴンを撃退した際に遭遇した少女です。227秒後に到着します」
「ああ、あの白銀が大好きな彼女か」
フギン九十九は先日遭遇した白銀髪の少女のことを思い出す。といっても特に記憶に残っていなかったので、皆のオーク討伐に意識を戻す。
上位種らしいオークは凍結していてもタフであった。術師グループまで参加して袋叩きで殴ったり、刺したがなかなか死なない。
それどころか2匹の上位種オークは凍結から復帰し、再び自由に動き出す。己を鼓舞するように叫ぶ。
グモモモオォッ!!
そのタイミングで白銀の少女がたどり着いた。鳩サイズの白い羽根を生やし白い革で、緩やかに空を滑るように移動していた。
「皆の者、一か所に集まって! わたしが斬り込むから、打ち漏らしをお願いしたい!」
そういって白銀の少女が上位種オークに斬りかかる。
その通る声に、13人の冒険者が反応した。が、白銀の少女はいきなり戦列から外れる。
「鍛錬の邪魔をするな! 部外者は去れ!」
素早く動いたフギンは白銀の少女の腰のベルトを掴むと、丈の低い木に向かって振り投げた。
「えええっ?」
銀の少女は背中から木々の枝に挟まり、身動きできなくなる。
フギンは動き出した2匹の上位種オークを再び〈
13名の動きを見守るフギンに、枝から脱した銀の少女が近づく。
「あなたはもしや黒きドラゴンから町を守った方ではございませぬか」
「ああ、フギンと呼んでくれ。先ほども言ったが、今は合同の鍛錬中だ。お主の手助けは不要だ」
「フギン殿ですな! わたくしは聖剣聖カトレナーサ・ダッカリーと申します。邪魔をして申し訳ありませんが、この周辺には現在とても多くのモンスターがおります。これは通常ありえないことなのです」
フギンは聖剣聖という言葉に突っ込みたかったが、今は控える。また冒険者ギルドがモンスターを呼び寄せる餌を撒いていることも把握しているが今は伏せておくことにする。
「わかっているさ。重ねて言うがカトレナーサ、邪魔をすれば容赦はせんぞ?」
「しょ、承知しました」
カトレナーサは露骨に怯えて返事をした。
そうしていると、オークの返り血をたっぷり浴びた元王女・アールセリアが近寄ってくる。
「おうおうカトレナーサではないか! 久しぶりであるな! お父上もご壮健かな?」
カトレナーサはアールセリアに膝を折り、跪く。
「これはアールセリア姫、父は大病を昨年患いましたが、どうにかやっております!」
「ああ、しかしみどもにもう敬語はいらぬ。王女を追放されてしまったからな!」
「えっ? ……風の噂で聞いていましたが、本当なのでございますか……」
フギンは二人が顔見知りであることに驚く。
「アールセリアはこのカトレナーサを知っているのか?」
アールセリアは大きく頷くと、フンと鼻息を荒く出して答える。
「もちろんだ! カトレナーサはイシュラ帝国のダッカリー公爵の令嬢にして、聖女にして剣聖で、東方八聖の一人だ。みどもなどよりずっと有名で、大物であるぞ! ガハ~ハハハ」
「ほう、帝国の公爵の娘ってだけでも確かに大物だというのはわかるな」
フギンはカトレナーサが予想もしない有名人であることを再認識する。イシュラ帝国の内情や英王というエルフの情報を引き出せるかもしれないと考える。
また名士となればリエエミカのこと、アンライトの故郷フォクランのことも知っている可能性が高い。
カトレナーサと親しくなった方がいいのだが、九十九は逡巡する。何か相性のようなモノが悪い気がしたのだ。周囲の人間を徹底的に調査してきた経験からか、カトレナーサがトラブルメーカーの資質を持っているような気がしてならない。
黒いドラゴンを狙撃した時も土壇場だというのに自分に執拗に避難勧告を繰り返し、こちらの状況をしろうとしなかったことからも厄介な気質であることが感じ取れた。
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