第49話 トライアル&エラー

「よし、取り合えず一旦落ち着こう。てか仕切り直しだ。フギンさんがいるんだから落ち着いて戦おう。んで、具体的には俺ができるだけ素早く分析してフォーメーションをざっと口にする! んでマズかったら若松が修正点を挙げて欲しい。万代、日立中も気づいた点があったらすぐに口で知らせてくれ」


 という北六条の言葉に他の三人も冷静になり、分担を確認する。

 目黒もそれをほぼ丸パクりして仲間に伝えた。

 そこから8人は〈衝撃波ショックウェーブ〉のダメージが浅いモノから次々と仕留めていく。

 ゴブリンが機敏ではなく非力なことも、初心者には幸いした。

 13名の動きは時間とともに良くなり、5分ほどで、皆一人でゴブリンを2匹以上倒すことに成功していた。

 九十九が見る限り、クロカッドの次に北六条が一番いい働きをしているように思える。

 「残念」というあだ名は付けたが北六条は頭一つ抜けた存在であった。スロースターターではあるが北六条には間違いなくリーダーの資質はあるだろうと思う。

 実家は10店舗を超える支店を持つ餃子チェーン店を経営しており、北六条は長男であることもあり早くから後を継ぐことを本人が公言している。

 小学生の時はとにかくハチャメチャな子供だったようで、喧嘩・器物損壊・怪我のエピソードに事欠かなかったという。考えずにすぐ行動という癖は中学生から鳴りを潜めたようで、派手な出来事は一切起こしていない。

 状況を見定めてから動くタイプとなった北六条は、このサバイバル下では案外に皆を導く存在になるのではないかと、九十九はひそかに期待している。

 ただ、転移者達はゴブリンの魔石を取り出すことに、全員難色を示す。


「躊躇せずに一気に裂けば魔石は取れる! ここで尻込みするなら冒険者では食えないぞ!」


 クロカッドはやはり面倒見がよく、魔石の取り方をレクチャーして回る。

 一度経験している川崎もまだ及び腰だった。

 新代田と日立中は血と内臓に強く反応し、嗚咽し、吐瀉する。

 それでも全員が魔石取り出しから逃げ出さないのは元王女の存在が大きかった

 中学生未満に見えるアールセリアが震えながらも懸命にゴブリンをさばく姿を見て、逃げるわけにはいかなかったのだ。

 アールセリアが皆の視線に気づき、顔をあげる。


「みどももクロカッドに教わるまで知らなかったが、ゴブリンの魔石も1つで小さいパンなら2つは買えるのじゃぞ? いらぬならみどもがもらうぞ。がはは!」


 そんなアールセリアの健気さに打たれたかのように数人が拍手を送る。するとアールセリアは胸をそらしてまんざらでもない顔をした。

 九十九にはクロカッドがアールセリアを支持する理由がわかる気がした。

 魔石回収を終え、ひと段落すると目黒や北六条らが笑顔でハイタッチをして回る。〈レベルアップ〉と初勝利に高揚したのだ。

 その様子を見てフギンが苦言を口にする。


「気を抜くな! 今の騒ぎを聞いて、モンスター達がこっちにやってきている!」


 それでも目黒達の士気は落ちない。


「大丈夫で~す! フギンさんが協力してくれてみんなで連携を取れればいけますよ~!」


 フギンは呆れながらもドローンのデータをまとめる。


「毛がたくさん生えたゴブリンが11匹来る! こいつはゴブリンより少しだけ大きいな。小鬼とチンパンジーの中間って感じの化け物だな」


 フギンの報告をクロカッドが補足する。

 

「それはバグベアだ。ゴブリンの一種だがゴブリンより一回り大きく、体が毛皮で覆われているからさっきより力を込めて攻撃した方がいいぞ!」


 フギンはクロカッドに頼もしさを覚えながら、バグベアが姿を見せると再び〈衝撃波ショックウェーブ〉レベル1を〈掃射 フルオート〉する。

 2匹ばかり転倒しなかったので、ゴブリンより耐久度が高いのは確かだった。倒れないものにもしっかり追撃する。

 バグベアが残らず倒れると〈輝きの狼〉の魔術師メタロが声を上げる。


「魔術師・僧侶は群れの中心にいる者を、集中して攻撃して! まずは呪文ではなく、石を投げて!」


 フギンはなるほどと思う。呪文を操る者はこういう数をこなす戦いで経験値を稼ぐのは難しい。魔力の枯渇を考慮して、石を投げつけたり、杖で直接叩く手段も経験値を稼ぐには正解だろう。


「では術師たちが狙うモンスターを、できるだけ転倒するように調整しよう!」


 フギンはそういうと中心にいるバグベアに気を配り、立ち上がるのを阻止するように配慮した。

 ギャンッ!! という悲鳴が響くごとに討伐が進む。

 6分ほどでバグベアを駆逐し終えると、MIAが報告してくる。


「北北西からオークが8匹やってきます。そのうち5匹がこん棒で武装しています」


「はあ、連続してくるね~。MIAの仕事も凄いな」


「リクエスト通りにモンスターが多い場所に来ています。現在直径10キロ圏内に12グループ、141匹のモンスターがいます」


「それは多いな。まあ、何とかなるか!」


 フギンは情報を把握すると、皆に言葉にして伝える。


「次はオークがこっちに来ている! 燃やすから、自分に引火しないように十分に注意して攻撃してくれ」


 それを聞いたクロカッドが血相を変えて、すぐさま声を出す。


「ま、待った! オークはできるだけ損傷しないようにしてくれないか? 売れば一頭で金貨1枚になるし、食料としても一頭で40人が10日食えるから」


「お、おう。そうかそうか。では冷気を放つとしよう。寒さでオークの動きを止めるからそこを狙ってくれ!」

 

 フギンはそういうと〈凍結フリージング〉レベル1で〈狙撃スナイプ〉のモードに切り替える。

 オークは的が大きいので〈狙撃スナイプ〉で十分に当てることができると判断した。

 オークが13人の視界に入った順番から、動きを止めた。


 プギッ! ピギャッ! グギョッ!?


 顔に〈凍結フリージング〉を受けたオークは、鼻と口が凍り付いたことで呼吸困難に陥り、苦悶を漏らし悶絶する。


「おらっ、突っ込め!!」


 悶えるオークに戦士組が気合を入れて殺到し、心臓や鳩尾、首を容赦なく切りつける。

 拳僧・忍者・盗賊らも得物を駆使し、オークに襲い掛かった。

 オークの大きさに動揺していた転移組も徐々に戦いに集中していく。冷静に急所をつき、短時間で命を刈り取っていった。

 少し前のゴブリン戦から格段の成長を見せる。

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