第34話 クルガナンという導火線・後半
使者が化けたカラスがたどり着いたのは、今九十九達がいるブロズローンよりも遥かに大きな町であった。西欧風で茶褐色の石材が町に多用されており、統一感がある。ブロズローンよりも3階建て以上の建物がはるかに多い。
カラスが高度を下げ、目指したのは不思議な屋敷だった。
高い建物が塀のように並び、その囲まれた敷地に建っていたのだ。堅牢そうな石造りの屋敷は、城塞のようでもある。
カラスは3階建ての建物の最高部の露台に降り立ち、すぐに人間の姿に戻る。
屋敷内に入り、そのままいくつもの廊下、階段、部屋を通って移動する。内部は剣を帯びた者が何人も警備についていた。
移動が6分ほど続いたところで、地下のある一室にたどり着く。
屈強な者3人で入り口を守る部屋に、使者は何のチェックもされずに通される。
「もどったぜ、オシロスよ。〈黒樫の森〉に進展はねえ。いや〈隷属の首輪〉を外して脱走した奴が出たらしい。あんたのブロズローンの知り合いに、ちいとばかり尻拭いをさせる必要があると思うぜ」
「それは厄介だな……。うむ、わかった――それで〈夜の鉤〉150名がブロズローンに向かったぞ」
「承知した。レオド達にも世話をするように云ってある。もっともレオドはちっとばかり処分を急いだほうがいいけどな」
「それよりもドゼルよ。間もなく、英主からのお言葉をいただく。同席することを許すぞ」
「いや……同席したくはねえが――チッ、しかたがねえな」
クルガナンの使者・ドゼルは、部屋にいた老人オシロスに不満を露わにしたが、隅の椅子におとなしく腰かけた。
オシロスは九十九には何とも印象的に見えた。髭も口も老人らしく白かったが眼光鋭く、全身から精力が感じられ、いかにも大物といった風格があった。
オシロスの前には幼児の頭大の水晶があり、しばらくすると浅く輝き出す。
水晶の中にフードを深くかぶった銀髪の者が、ぼんやりと陽炎のように浮かび出る。九十九にはどこか人とは違って見えた。
耳の端が鋭く伸び、リエエミカを思い出させる輪郭をしており、ゲームでよく見るエルフのようだった。
「オシロス――エバグル王国へのかく乱工作はどこまで進んでおる? 進捗を述べよ」
それにオシロスが頭を下げてから答える。
「英主よ――新たに2つの冒険者ギルド、4つの商工会、2つの犯罪組織が我らに組み伏しました。ですが王都ブロズローンへの工作は進んでおりません」
同意を求めるようにオシロスがドゼルに目配せすると、ドゼルも頷きを返す。
その報告に英主は口元を歪める。
「もはや悠長なことをいう時間はないと知れ。帝国の方の工作は順調でエバグル王国侵攻への口実が間もなく整う。そして10日内にゲモ共和国がオーガ達に落とされる。そこを考えてどうすべきか策を練るのだ」
英主の言葉にオシロスもドゼルも激しく動揺する。英主は淡々と言葉を続ける。
「エバグル王国を内部から弱体化させることができぬようならば、エバグル王国攻略後、貴様らを見捨てる。そのことを息子のクルガナンに伝えておけ」
そういうと水晶の中のフードの者が不意に消える。
それにオシロスは頭を深く下げる。その顔には多量の汗が浮かんでいた。
しばし沈黙するオシロスにドゼルが語り掛ける。
「どうすんだよ? 俺的にはちいとばかり限界まで頑張っている自負はあるぜ? それこそ伝令係を務めたりとよぉ。暗殺者ギルドのトップだというのに」
「ああ――おまえは問題ない。だがこのままでは我々は落第の烙印を押される」
「ケッ――ゲモ共和国の件が本当なら、あんたも息子をキチンと説得しなよ。でないとエルフ野郎は本気で俺たちを切り捨てるぞ」
「これ、めったなことを言うな。英主様に聞かれたらそれだけであの世行きだぞ」
オシロスの厳しい忠告にドゼルは思わず自分の口を手で閉じた。
九十九はすぐにMIAに命じる。オシロス、ドゼルの情報を記録するためにそれぞれ100機のドローンを追加派遣するように指示を出す。
「どうもここエバブル王国で陰謀が渦巻いていることが確定だな。悪魔ジェスガインの陰謀かどうかはわからんけど――」
九十九は調査対象を増やしながら、王国と取り巻く闇を負う覚悟を決めていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます