第35話 シンキングタイム

 ここで一旦、九十九はドローンからの情報収集を休憩する。

 現在の九十九は〈機械化人間ハードワイヤード〉なので、思考も人間の40倍の速さで働く。それでもさすがに頭の中での情報整理が追い付かない。

 〈無敗の三日月〉のバックに誰かいると思ったが、それが隣町ガゼロンの大商人クルガナン――ではなく、どうもその父のオシロスであるらしかった。

 さらにはオシロスの背後に、英主と呼ばれるエルフらしき者がいる。

 付け加えると、ゲモ共和国に危機が迫っているという話である。

 レオド達は背後に「帝国」があるようなことを言っていたが、あの英主が帝国の者なのかどうかもわからない。英主が帝国の者を操っているようなことも口にしていたから、また別の勢力なのではないかと思える。


「えっと、これはどこから手を付ければいいんだ? え~と、MIA、あの水晶で通信していたエルフを追跡調査できる?」


「申し訳ありません。2つの蠅型ドローンではそこまで細密なデータを採取できませんでした。蜘蛛型ドローンの投入を推奨します。蜘蛛型ドローンならば魔法の計測を行えるスペックがあります」


「では運んで諜報を強化してくれ。となると……次は何をすべきなんだ?」


 九十九は懸命に考えたが、まだまだエバグル王国を含め周辺の情報が足りなすぎた。

 何とか信頼できる事情通を仲間にして、聞き込みをしないと誰が敵か味方かも目星さえつかない。リエエミカ達が知識人のようだが、この周辺のことに関してはまるで知らないようであった。3人が棲んでいた地域が県3つ離れているぐらいの印象がある。


「地名とか位置関係が全然わかんないんだよな~。どうしたもんだろうな……。MIA、なんかアイデアない?」


「地図や文献などを積極的に採取するのはいかがでしょうか?」


「ああ、本屋で片っ端から買っていくか。ブロズローンの街に本屋はある?」


「1軒ありますが蔵書の量は57冊ほどです」


「まあないよりマシか。早速買いに行くか」


「買わなくてもスキャンで本の内容は採取できます」


「えっ? ページを閉じている本をスキャンできるの?」


「蚊型ドローンでも行えます。100ページの本ならば40秒でスキャンできます」


「ふえ~っ――って考えてみればそうだよな。〈テラープラネット〉では敵の高性能な装備をスキャンしまくっていたし、本ぐらい軽いか」


「蔵書や地図ならば王宮の方が圧倒的な量があります。そこをスキャンすることも推奨します」


「そうか。考えてみればそうだな。よし、王宮の資料のスキャンにドローンを100機追加投入してくれ」


「かしこまりました。蔵書654冊、地図が47枚ありますが、王宮内の書類にもスキャンの対象を広げますか?」


「もう王宮自体をざっとスキャンしていたのね。はあ、え~と書類っていうと手紙とか税金の記録とかそういうもののこと?」


「はい行政の資料や公文書、議事録などですね」


「う~ん、使い道はわかんないけど何でもかんでも集めてみるか。では許可するよ」


「かしこまりました。ドローンの配置に取り掛かります」


 取り敢えずの目途がたってホッとしていると、目黒達にも動きがあった。

 傭兵ギルドの職員達が〈隷属の首輪〉を見せられ、ようやく冒険者たちが監禁されている事実を認識し始めたのだ。

 傭兵ギルド長のディガギンは健在の左目を見開き唸る。


「〈隷属の首輪〉なんて簡単に入手できるもんじゃねえぜ……。報告された話が本当となると、とんでもない大事になるぜ」


「んだな。すかも〈無敗の三日月〉が主犯どなるど下手するど死人さ沢山出るぞ? おらだでも捕らえるごどは難すい……」


 そういうサンドックの表情が渋い。

 2人は目黒達の前でしばし沈黙するが不意に立ち上がる。


「考えてても仕方ねえぜ。俺はちょっと王国軍に報告に行ってくる。サンドックは受付に行って手練れを集めて、〈黒樫の森〉に向かってくれ」


「んだな。今はそれすかでぎねな」


 傭兵ギルドがあわただしく動き出すと、目黒達はしかたなく隅に移動する。


「ど、どうする~? わたしたちの証言を受け付けてくれたけど、この後、どうする~?」


「えっと……取り合えずサンドックさん達の調査が終わるまでここで待ってないとマズいことになるんじゃ?」


「うん、そうだね……。だいたい、ここで三田くんと合流するってことになっているから、待つしかないんじゃないかな?」


 そう話し合った目黒ら三人は、ギルド施設内でじっとする。次第に目黒達のお腹が派手に鳴り出す。

 3人に必要とされていると知った九十九は、とりあえず傭兵ギルドに行ったほうがいいと考えた。

 だが、突然優先すべき情報がドローン経由で入ってきた。

 訓練後の昼食を素早く終えた巣文字達が、城から出て、モンスター狩りをすると息巻いていたのだ。

 すぐさま、九十九は動く。このチャンスを待っていたのだ。目黒達には申し訳ないが、この好機を逃す手はない。

 悪童どもにキツいお仕置きをすることが最優先になるのは当たり前だった。

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