第33話 クルガナンという導火線・前半
引き続き雲雀丘らの監視を継続しながら、〈無敗の三日月〉からの情報もぬかりなく集めていた。
今、〈無敗の三日月〉の連中は、九十九達を監禁した場所から数キロ離れた屋敷で、クルガナンの部下と接触していた。
〈無敗の三日月〉と冒険者ギルドの面々が恐れ従うクルガナンの正体は、街中でドローンが無差別に録音した市井の人々の会話から判明する。王都から西に30キロ離れた町・ガゼロンに住む商人だということだ。
彼は〈無敗の三日月〉ら冒険者を通じて、〈黒樫の森〉からブロズローンの町にモンスターを誘導しているようだった。
黒いフード付きローブを着たクルガナンの使者がレオド達を恫喝するように叫ぶ。
「捕らえた奴らに何故か逃げられただと? しかも〈隷属の首輪〉を4つも失くしたのか!? ちいとヘマが多すぎないか?」
その剣幕に〈無敗の三日月〉の面々が震えあがる。
レオド達は今朝になって九十九達の脱走を知ったのだ。監禁施設にいた〈隷属の首輪〉をした者に聞いても脱走を目撃した者は誰もいなかった。
周囲を探しても見つからなかったので、レオド達はことの重大さからクルガナンに報告したのだ。
すると使者はすぐにやってきて、レオド達を叱責した。
「ちと仕事をなめてないか? ここ〈黒樫の森〉のモンスター定着率がまだまだ低い! もっともっとモンスターを呼び込まないとクルガナン様は満足されないと知れ!」
それにレオドは大きな体を縮こまらせ、おずおずと返答する。
「そこんとこはよくわかっているつもりだけど、モンスターを定着させるどころか、呼び込むのだって一苦労なんだぜ? あんたらのくれた撒き餌だって効果はいま一つだしよ!」
すると使者が激しく机を叩く。
「俺は本当はクルガナンに雇われているだけの術師で、本来はクルガナンに『様』など付ける立場じゃねえ! だがそれでもおまえらの仕事は、ちいとばかり効率が悪いと断言できるぜ! 〈隷属の首輪〉を今までいくつ失くした?」
「そ、それは……〈隷属の首輪〉をした奴が食われちまったから――」
「食われたんじゃねえよ。おまえのミスで食われちまったんだよ! 今日の4つも含めてな!! それで逃げた連中をどうする? 策があるならちいと言ってみろ!」
「み、見つけたらぶっ殺しますが――町に戻られて冒険者を監禁していることをチクられたら……」
「チッ、相変わらず覚悟がちいと足りねえな。クルガナンの息がかかったエバグル王国の者に報告し、何とか口封じするように伝えておく。それができなかったら監禁している連中は皆殺しで処分しろよ」
そういうと使者は立ち上がり、退席に移る。
「次までに成果を上げろ。時間はないとちいとは自覚しろよ。あと予告通り、数日中に〈夜の鉤〉が来るから案内を頼むぞ?」
そう吐き捨てクルガナンの使者は外に出た。
〈無敗の三日月〉の一行は使者の態度に狼狽する。
「まずい……ここまでの危険を犯したのにクルガナンさんに見捨てられるぞ? こうなったら最後の手段に出るしかねえ」
そういうレオドに魔術師クリムゾが眉を顰める。
「最後の手段って何よ? まさか、〈夜の鉤〉に加わるってことじゃないでしょうね?」
「それ以外ねえだろう!? 盗賊ギルドといって毛嫌いしている場合じゃねえだろう!! あそこは軍にも匹敵する大所帯だぞ!」
レオドが机を蹴散らして吠えるが、他のメンバーは全員反対だった。
クルガナンの使者は外ですぐに変化の呪文を唱える。周囲に発生した黒い靄に全身が包まれると、大きなカラスに姿を変えた。
そのカラス化した使者の肩に灰色のコウモリが突然しがみつく。使者の従魔であろう。
カラスは正午近くの空に舞い上がり、一気に西に飛ぶ。
カラスの飛行速度はなかなかで、時速60キロは出ていた。もちろんドローンを突き放すことはできない。
30分ほどでいくつもの森を超え、大きな町にたどり着く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます