第32話 仇敵たちの動向
衛星情報の確認を終えると、イノシシの血抜きを継続しながら次にドローンから入る複数の情報を精査していく。
脱出ポッドから引き連れた1000機を超えるドローンから伝わる情報は、まさに洪水のようだった。
九十九の気を一番引いたのは、王宮に残った雲雀丘、巣文字、吉祥寺らの動向である。
一行は今、王宮脇にある闘技場で、剣技や魔法を披露していた。
一人、雲雀丘は闘技場に降り立つ。すると雲雀丘の前方にある檻の扉が開かれ、3匹のゴブリンが解き放たれた。
雲雀丘が祝詞をあげたあとに、盾を構え、〈
ゴブリン達は一斉に雲雀丘に駆けだす。
雲雀丘は微動だにせず、ゴブリンが接近を1メートルを切るまで動かない。
が、ゴブリンの手が盾に触れる寸前に、剣を薙いだ。
「はあ~っ!!!」
肺から息を大量に吐きながら、雲雀丘は一太刀でゴブリン2匹に致命傷を与える。
残り一匹も盾で視界を塞がれ、困惑する。すぐに盾を回り込んでその鋭い爪を延ばす。
ゴブリンは雲雀丘の姿を見るが、顔の側面を盾で思いっきり弾かれ、たたらを踏んでよろける。
直後、心臓を突かれ、ゴブリンは絶命した。
それにエバグル王国の者たちが驚嘆した。
「さすがは〈聖騎士〉! 見事な戦い方である!」
王国の役人らしき者が絶賛した。
雲雀丘が一礼して闘技場を出た途端に、巣文字が入れ替わるように入る。
「俺は5匹出してくれよぉ! こんな雑魚なんざ、屁でもねえぜ!!」
巣文字が傲慢な態度で、〈
ゴブリンは巣文字の希望通り5匹が解放された。
ゴブリン達は巣文字に真っ直ぐに駆け、襲い掛かるがそこに砂が舞う。
巣文字が豪快に蹴り上げた砂がゴブリン達の視界を塞いだのだ。
「よそ見してんじゃねえぞぉ!!」
巣文字は砂から唯一回避できた一匹に自分のマントを投げつけると、目をこするゴブリン達に〈
技もへったくれもない強引な太刀であったが、剛腕でゴブリンの頭部や腹に深い傷を刻み付ける。
マントを頭にかけられたゴブリンは、自分以外が倒されたのを見て、慌てて逃げ出す。
だが巣文字は獣のように駆け、ゴブリンの背に深々と致命傷を負わせる。
その荒々しい戦いぶりに、見た者のほとんどが眉を顰める。
「これが〈狂戦士〉か……。野卑にして狡猾といった立ち回りをするな」
王国の者でひときわ豪華な軍服を着た初老の男性が、そういった。
その男性に、赤毛の少女・赤羽みちるが三角帽子を被った頭を下げる。
「ティガン将軍、2人の活躍はわたくしの付与魔術があってのことをお忘れなきようお願い申し上げますでございますわ」
ティガンと呼ばれた初老の男性が赤羽にむけて浅く頷く。
「わかっているのだ。君らが庇護するに値するのはわかったのだ。だが、我が国は今戦争に備えており、国庫も人材もカツカツなのだ。遊んでもらうようでは追放する場合もありうるのだ」
九十九は相変わらず赤羽は要点を抑えるのがうまいと思った。
大人の顔色を窺い、どう立ち振る舞うのがベストであるのかに常に気を配っているのだ。
九十九が一番付き合いが長く、深く知っているのは赤羽である。出会いは3歳からで幼稚園・小学校までは家族ぐるみで付き合っていた。
地元の大地主と新興の産業を興そうとする一家で三田ロボ電機とは円満な関係にあったのだ。
それこそ子供の九十九と異性と交流があったのが赤羽みちるだけである。
だから今後深く付き合うことはないと断言できた。みちるは社交術は長けているが、基本中身のない女性に思える。
恋愛話に目がなく、周囲で一番評価の高い異性を自動的に好きになるのだ。
九十九にも赤羽への執着は一切ない。小学校の時に自分が中の上だとわかってくると、赤羽はあっさり距離を開けてきたことをはっきりと覚えている。
みちるとはどんな人間かと言われれば、「裏表がはっきりあり自分の利益を素直に追及するタイプ」というつもりであった。
赤羽と入れ替わる様に雲雀丘がティガンに頭を下げる。
「承知しております。しかるに我々も森に出向き、魔物の討伐で腕を磨き、戦争の折には活躍する所存です!」
「うむ。あいわかったのだ。その言葉、ゆめゆめ忘れるでないのだ!」
そのティガンの背後に銀髪を肩まで伸ばした青年が近づく。
「ティガン将軍、〈異邦人〉の方々の腕前はいかがでしたか?」
「ソクソーン殿、まだ戦いの経験はないに等しいが、恐ろしいほどの素質・素養に恵まれた者たちがそろっていると断言できるのだ」
ティガンにソクソーンと呼ばれた青年は軍服を上半身だけつけていたが、下半身は黒い巻きスカートを履いており軍人らしくなかった。
雲雀丘・赤羽もソクソーンに恭しく頭を下げる。
「これは宮廷魔術師殿、今回は技量を披露する機会をいただいて感謝します。しかるに間もなく王国の為にこの力を使うことを約束します」
雲雀丘の言葉にソクソーンは鷹揚に頷く。
「そう急がなくても構いませんよ。馬鹿正直に答えると皆さんの力に頼るのはまだまだ先になると思いますから――」
このソクソーンというのも、エバグル王国政府の重鎮の一人なのだろうと九十九は把握する。
しかし彼は重鎮というにはどこか軽いというか、真剣みがないというか、違和感のようなものを抱いた。
さらにこのソクソーン以上の立場の存在が今のところ確認できていない。王様や宰相などはいったいどこにいるのだろうと疑問を持つ。
だが、九十九の関心はすぐに、うまく立ち回っている雲雀丘達に移る。
てめえらだけ上手くいきやがってと憮然としていたが、雲雀丘たちもモンスター討伐に出ると知り、嬉しくなってきた。
九十九は雲雀丘たちがパーティ単位で外に出てくるのを待ちわびていたのだ。
今時、10倍返しは普通だよね?
九十九はそう一人つぶやくと口の端を吊り上げ、ニヤリと微笑む。現世で自分を苦しめた報いをキッチリと支払ってもらう気満々だった。
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