第31話 衛星から見た世界

 ポーションでの回復を実感した目黒はずんぐりとした体を揺らして、ふんと鼻息を荒く吐く。


「痛みも引いたところであの〈無敗の三日月〉の悪行を冒険者ギルドに報告しましょう~! 連中を牢獄に叩き込まないと~気が済まないし!」


 それにドローンで冒険者ギルドも〈無敗の三日月〉とグルと知る九十九が反対する。


「いや……冒険者ギルドは俺たちより〈無敗の三日月〉を信用するんじゃないかな?」


 その言葉に目黒、新代田がギョッとした顔をする。川崎は苦い顔をしながらつぶやく。


「それをいうならだいたいこの王国の連中も怪しいよ。〈無敗の三日月〉がぼくらのことを知っていたみたいだけど、それって情報が伝わるのが早すぎると思う。〈無敗の三日月〉と仲の良い者が王国の人にいるんじゃない?」


「な、なるほど」


 川崎の言葉に九十九も驚いた。その可能性に九十九は気づいていなかった。確かに王国の者がもらさなければレオドに情報が届くわけがないのだ。

 4人は押し黙ったが、新代田がおずおずと口を開く。


「となると、傭兵ギルドに言うのはどうだろう? えっと、まあ、消去法になるけど。〈隷属の首輪〉も証拠になるかもだし」 

 

 その川崎の提案以外これといってアイデアが出なかった。なのでとりあえず傭兵ギルドに向かうこととなった。

 空腹と疲労とショッキングな体験で、目黒達は目覚めたばかりだがフラフラだった。

 町の城門はまだ閉ざされていたが、開門を待つ者が30人ほどいる。

 九十九はダンビス商会が残した金銭で目黒らに何か買ってあげたいと思うが止める。金貨をザクザク持っているのは明らかに不自然であるからだ。

 では少し狩りでもして金を持っていても自然なように装うことにする。


「よし! 俺は少しウサギやらイノシシでも取ってくるよ。みんなは傭兵ギルドでの報告よろしく!」


 そういって、九十九は証拠となる〈隷属の首輪〉を強引に押し付けると、目黒達の返答を待たずに駆け出す。

 すでに目黒達にはドローンが張り付いているので、九十九は単独で動いても問題ないと判断した。



 15分で〈黒樫の森〉に入ると32分の間に2匹のイノシシを投石で仕留めた。

 九十九は町の南側が〈黒樫の森〉で、北側が〈碧の森〉であるのをここにきてぼんやり理解する。

 イノシシを見て思う。これを売れば4人でも一週間の宿代と飲み食いはできるだろうと。喉を裂いて、木の高い場所に括り付けて血抜きを行う。


 ここでMIAが報告してくる。


「衛星システムの構築が一応のレベルに達しました。画像だけならばいつでも見ることができます」


「えっ? この星の地表をいつでも見ることができるの?」


「はい。まだ地上にいる者の顔を判別するなどの細密なレベルには達していません。今後もハード的な限界で難しいですが」


「いやそれだけでも凄いな。ドローンと連動すれば色々出来ることが増えるよね」


「おっしゃる通りです。油田や鉱脈などの資源の大規模発見に取り組みます。様々な耕作地の選定も並列して進めます。〈ピピン〉ともデータを共有することで開発規模の拡大が可能です」


「素晴らしい。そういえばピピンは今何をしているの?」


 〈不時着時自動システム〉を要であり、九十九をバックアップするために地中の潜ったマシン〈ピピン〉が3日前から何をしたのか聞いていなかった。


「熱水鉱床、堆積鉱床に接触し金・白金・鉄・銅・鉛・亜鉛・金・銀・ガリウムなど、54種類の素材を獲得し、現在は原始的な製鉄炉を40つ稼働させております。シリコンを形成できる油層と樹脂も見つけています」


「ひしゃ~、何を言っているの全然わかんねえや。でも結構凄いことになっている気がする」


「更に未知の素材も採掘してもおります。興味深いのはカルデェン粒子の伝導率が高い金属の存在です」


「そ、それはすごいね。これからもピピンには頑張ってもらおう!」


 一介の高校生には〈不時着時自動システム〉を把握するのは不可能だと判断した九十九は関心を衛星に向ける。


「取り合えず、この星の表面をざっと見てみるか」


 九十九の中に地球によく似た星が現れる。ぐるりと見まわすと7つの大陸が海の中に浮いているように伺える。よく見るとまるでバラバラに割かれたように細かく分断された元大陸だったようなモノを発見した。


「うわっ、とんでもなくデカい火山があるな」


 一部の大陸の左端に衛星軌道上からも大きいとわかる火山が映る。活火山なのか噴煙もいくつか見える。


「大きな都市は確認できた?」


「現在いるブロズローン級だと752。100万人都市が15。最大で450万人都市が存在します」


「ああ、そういう感じか……」


 正直それがわかったところで何をしようかという考えは浮かばない。

 九十九自身に衛星からの映像を利用するアイデアはないのだ。MIAには〈テラープラネット〉を作った驚異的な天才たちの見識が流用されているようだから、そこを頼るしかないと思う。

 また例えばリエエミカ達と一部情報を共有した方がいいだろうとも考える。

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