第30話 ポーションの効果
結局、目黒達はブロズローンの町に着くまで寝ていた。それどころか到着しても1時間も起きない。
夜明けまでまだしばらくありそうで九十九はしばし何をするべきか迷う。
一番先に目が覚めたのは目黒だった。
「あっ、ここは?」
目黒の大声で新代田と川崎も目を覚ました。
九十九はドローンが採取した情報に夢中になっていたが、目黒達に意識を戻す。
「いや、ブロズローンの町だよ。俺たちは助けられたんだよ。〈隷属の首輪〉も外れたし……」
自分の首を撫でた新代田が薄い眉を上げ、安堵する。
「えっと――全然記憶がないんだけど、足を刺されて、首輪されたのは本当にあったことだよね?」
川崎が丸い体を丸めて、ナイフを突き立てられた太ももを撫でる。
「だいたい覚えている。刺された足も何か治っている。おかしいな……」
3人が驚愕と不安が混ざった顔で九十九を見る。
九十九はここで、逃げ出せたことを説明できる整合性のある嘘を考えていなかったことに気づく。
「え~と……助けられたんだよ。よくわからないけど、首輪を外して、足を治して、ここまで連れてきてくれた人がいたんだ」
「それって~、九十九はその人を見たってこと~?」
「いや……はっきりとは見ていないよ。何か意識の端々でそんなようだったかなって」
「九十九は観たのか! だいたいでいいけど、どんな人が助けてくれたんだ?」
興奮したように言う川崎に、九十九は即興で嘘を考える。
「な、なんというか……天狗みたいだったかな?」
「天狗? 鼻が長かったの?」
「いや、長かったのは口かな? 嘴があって烏天狗っぽかったよ」
九十九はリエエミカ達の前で化けた「烏天狗」に再び頼った。他につける嘘のアイデアがなかったのだ。
目黒が細い目を丸く見開いて唸る。
「烏天狗……それが私たちを救い出してくれたってことは~、運営が救済措置を取ってくれたってことじゃな~い?」
「えっと、救済措置って、あのジェスガインが大きくミスしたプレイヤーを助け出す手段を設けていたってこと?」
困惑顔で言った新代田に目黒がたぬきっぽい顔で微笑み頷く。
「でなきゃ説明がつかないでしょ~。悪魔もいきなり私たちが死んだら面白くないだろうし~」
それに川崎も少し考えて頷く。
「突拍子もないけどありうる話じゃないかな? だいたい悪魔だって馬鹿じゃないからそのぐらいの準備はしていたんじゃない?」
九十九は内心で首をひねる。あの悪魔ジェスガインは基本馬鹿だったような気がしていたからである。でなければ自分のキャパシティーを超えて、自滅するようなことはなかっただろう。しかし今はジェスガインの仕業ではないと否定するのは止めておく。
不意に新代田が手を上げる。
「えっと、まだ刺された腿が痛むんだけど――だからポーションを飲んでみないかい?」
各自のアイテムボックスに配布されていたポーションを服用すべきと新代田が提案する。
目黒も川崎も貴重なポーションを使うべきか考え込むが、九十九が賛成の意を示す。
「飲んでみようよ。どの程度聞くのか、確かめる必要があるでしょう。店で追加購入する必要性があるか検証する意味で――」
納得がいったそれぞれがアイテムボックスから青いポーションを取り出すと、蓋を取って口に運ぶ。ポーションは400ミリリットル大でガラス瓶に入っている。
「ではMIA、分析して俺達で再現が可能であるか。検証してくれ。もう一本あるので成分分析をしてくれてもいい」
「かしこまりました。ではできるだけゆっくり摂取してください。残りの1本は救援の宇宙船がやってくるか判断がつくまでとっておきましょう」
九十九はポーションがどこまでのものか興味があった。
ぐっと喉に流し込む。味はハーブティーに近いように思う。一番強いのはミントに似たハーブだと九十九は感じた。兎にも角にも非常に爽やかな味わいがある。
完飲してしばらくするとMIAが中継経過を報告してくる。
「驚きました。本当に体内の破損部がポーションによってゆっくり治されていっています。細胞再生を穏やかに促しています」
「なるほど――前の世界には存在しないモノであることは確定だね!」
九十九がポーションの存在に感動していると、目黒達も高評価を口にする。
「私この味好きかも~。これ普通に女子受けするよ~」
「えっと……正直、効果ありだと思うよ。太腿のジクジクした痛みも引いてきているし」
「魔法の薬が実感できて嬉しいな! だいたい信用してなかったけど悪くない。5日前にできた擦り傷が完全に消えたし本物だと思うよ」
ポーションの効果に別世界から来た者は一様に感動する。
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