第28話 CQCを試してみよう


「どうせなら〈凍結フリージング〉も試すか」


 残り3体のオークはすでに慄き逃走しかかっていたが、その背中を九十九は撃つ。

 2匹は上半身を凍結させ、倒れたが、一匹は命中した左肩を凍らせながらも、走り去っていく。


「なるほど、相性のようなものはあるんだな」


 九十九が納得しながら再びブロズローンの町に向け、疾走しているとMIAがいう。


「北西の方角から大きな物体が急接近して来ています。1体ですがとても大きいです」


 接近を認識したドローンのカメラに九十九は視界を重ねる。すると小型トラック大の白い鳥が地を駆けていた。そしてその鳥の尻からは大蛇が生えている。


「コカトリスか。よし、今度は〈硬化ハード〉にして〈狙撃スナイプ〉でレベル2にして撃ってみよう」


 足を止めて九十九は〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を接近するコカトリスに向ける。

 〈硬化ハード〉は実は2種類のモードがあり単発弾スラッグ散発弾バックと使い分けができるのだ。しかし九十九は違いが良くわからないので単発弾スラッグしか使用しない。

 〈照準サイト〉をロックし、400メートルをきったところで命中確定ロックオンのサインが表示される。

 そして九十九が引き金を絞ると、直後、コカトリスの頭部は吹き飛び、そのまま盛大に倒れた。


「一撃か。うん、まあ正直、なんか物足りないな……」


 あっさりとモンスターを撃退できてしまうことで複雑な思いを抱いた。


 杉のような樹が群生したエリアに入ると、頭上からスライムが落下してくるようになった。大きさは様々でボーリングの玉のサイズから直径1メートルほどのモノがいた。

 まるで蛭のように獲物を待ち構えて捕食するためにダイブしてくる。半透明で手足顔はなく、這いずる様に距離を詰めてくるのだ。

 しかしスライムの存在をドローンですでに認識している九十九に捕まる理由がない。

 それでも草むらに潜んでいるタイプもおり、道をふさいてくる。

 目黒達を抱えていてもスライムの緩慢な動きに充分に対応できた。


「何か核のようなモノがあるとかいう話があるな。MIA、〈熱感知視界サーマルビジョン〉でスライムの一番温度が高い処を教えて」


「承知しました」


 直後目の前のスライムの左下に赤い光がともり点滅する。そこを九十九は好奇心で蹴りつける。

 途端にスライムは体の3分の1を飛散させ、溶けるように分解していく。


「あら、力加減が難しいから弱点を調べるのはまた今度だな……」


 スライム群生地を抜けて間もなく、MIAが報告をしてくる。


「マスターの移動を完全にトレースして急接近するモノがおります。白銀の狼です。体長が5メートル、長い牙を生やしています」


 直後、報告通りの映像を九十九は受け取る。

 太古の動物サーベルタイガーの狼版ともいうモンスターが猛スピードで疾駆していた。


「へえ、こいつはどうもひと味違う雰囲気を持っているな」


 サーベルウルフの顔には好奇心のようなものが浮かんでいるように思えた。ワクワクしたような顔は幼く、犬で言えば1歳前後のような感じを覚える。


「追いつきそうなの?」


「このままだと4分後に接触します」


「そうか……」


 九十九は足を止めると、枝ぶりの良い木を見つけるとそこに向けて次々と目黒達を投げていく。

 落下してこないか気を付けているとMIAが疑問を投げる。


「何をなさっているのですか?」


「戦闘になったらちょっと邪魔かと思ってね。木の枝の上なら大丈夫だろう」


「遠距離射撃での討伐を推奨しますが――」


「いいや、ちょっと近距離格闘、CQCを試してみようと思うんだ」


 Close-quarters CombatはイギリスSASで生まれた軍の戦闘技術の一つである。

 ハンドガンやナイフ等で非常に距離の近い相手と戦うことを主眼として構築されていた。

 九十九は〈石刃剣カラドボルグ〉を引き抜くと、シャドーボクシングを行う。


「射撃を行う方がリスクを軽減できますが――」


「今後のエネルギー残量を考えて〈CQC近距離格闘〉を磨いてみたいんだけどダメかな? 危険ならば〈最速時剋ファストタイム〉も使うし〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を使うさ」


「それならば問題はありません」


 と言ったが九十九は電磁短剣の〈石刃剣カラドボルグ〉しか使う気がなかった。ここまでの戦いがイージー過ぎたので〈CQC近距離格闘〉を挑みたくなったのだ。

 実のところ、この世界に転移する前に〈テラープラネット〉内で〈CQC近距離格闘〉のトレーニングを重ねていたのである。

 間もなく白銀の巨大狼が姿を見せる。

 九十九が戦闘距離を調整しようとすると、サーベルウルフは口角を挙げて声を出す。


「にんげんだ、にんげんだ! おれ、にんげんたべるのはじめてだー!」


 これには九十九もぎょっとした。悪魔ジェスガインがくれた〈自動翻訳〉が働いたのだろうが、サーベルウルフが話したことには間違いがない。


「なんだ、おまえ話せるのか?」


「えっ? おまえもしゃべれるの~? おもしろい~!」


「しゃべれるモンスターは初めてだ。それより俺と戦うつもりか?」


「ううん、たべるつもりだよ。いろいろたべたけどにんげんははじめて! おまえ、にんげんだよね?」


「そうだ。俺は食われるつもりがないからおまえをぶっ飛ばすが――おまえ見たいに話す怪物は他にもいるのか?」


「わかんなーい。おれはすこしまえにそとにでたばっか。くらくふかいところにいたけど、えらいやつが『そとであばれてこい』っていったからそうしたんだ!」


 そこで何故だかサーベルウルフは得意げな顔をした。

 九十九も意味は分からなかったが、ダンジョンのような処から湧いて出てきたのではないかと想像する。

 知性があるので殺すのが惜しい気がしたので交渉する。


「ところで俺と戦って、俺が勝ったら俺の言うことを聞いてくれないか? 断ったら殺すけど――」


 サーベルウルフは突然前傾姿勢になって腰を突き上げる。


「おれがくうだけだからどうでもいいよ!」


 そこからサーベルウルフは一気に距離を詰めて大きな顎をむき出しにする。

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