第27話 真夜中の森を駆ける

「〈隷属の首輪〉って簡単に扱っていいのかね。人間を強制的に束縛する道具は〈銀河第三連合〉の規定に反するだろう?」


「マスターが過去に使ったことのある 〈拘束片リストレイントチップ〉と基本同じです」


「ああ、あれと同じか。納得いった」


 〈拘束片リストレイントチップ〉とは捕獲・捕虜にした者に植え付けるナノマシーンである。体内で起動すると自由な行動ができなくなるのだ。また〈拘束片リストレイントチップ〉で自由を失った者への人権を保護する機能も備えている。


「〈拘束片リストレイントチップ〉と同じで〈銀河第三連合〉の規定では、知的生物に危害を加えようとした者や自殺の可能性の高い者に、行動を制御することは認められております。よって攻撃してきた〈無敗の三日月〉に〈隷属の首輪〉をつけて行動を制御・誘導することは連合規約には反しません」


「そうか。じゃあ〈拘束片リストレイントチップ〉のように使ってみるか」


 そう思った後に九十九は自分が〈拘束片リストレイントチップ〉を現在所有しているかチェックする。するとポーチに8片入っていた。あまり多くないので慎重に使おうと考える。

 ふと〈拘束片リストレイントチップ〉が起動している者に攻撃を加えた場合のペナルティのことも思い出す。

 攻撃してしまった場合、カルマバランスが加算されることになるのだ。

 カルマバランス――そう呼ばれる指数が〈テラープラネット〉ゲーム内に存在する。

 無意味な破壊・殺戮、裏切り、強盗――悪辣な行為をした際にカルマポイントが加算され、一定に達すると民事か軍事などの何らかの裁判に強制的に掛けられるのだ。

 裁判の結果によってはプレイキャラクターがロストすることさえある。

 とはいえ九十九は未だに人権やカルマバランスのことが今一つ理解できていない。カルマバランスに抵触しそうな場合は、いちいちMIAに確認すべきなのだろうと考えてみた。


 再び目黒らの解放に動く。次にナノメタル細胞を鍵穴に差し込んで開け、牢を静かに出る。

 周囲を〈音感知パッシブソナー〉や〈熱感知視界サーマルビジョン〉などで観察すると、牢の全員が寝ているのが確認できた。

 目黒達の牢の鍵を開けると、同様に〈隷属の首輪〉を無効化した。

 〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を〈アイテムボックス〉に戻し、MIAに告げる。


「ここで説明するのは面倒だな。MIA、目黒達の中にまだいるナノメタル細胞に全感覚を弱める細工をしてくれる? 睡眠を深めるのでもいい」

 

「了解しました。どうするおつもりで?」    


「取り上げられた荷物を回収してから、3人を担いでここを脱出する。だから町に戻るまで意識が戻らない方が望ましいな」


「わかりました。脳内分泌液を促して、深い睡眠状態になるよう誘導いたします」


「頼んだ!」


 いうと九十九はレオド達が出入りしていた事務所のような小屋を目指す。

 意外にも鍵がかかっておらず、開けると中は複数の棚がある。棚は武器や鎧、道具だらけだった。


「うへぇ~。これは目黒達の装備を探し出すのが一苦労だな!」


「判別可能です。マークしたモノを回収してください」


 すると視界の中に複数の赤い点が出現し、杖や剣に重なった。それはまさしく目黒達のものだった。


「おおっ、こんなことまでできるのか!?」


 感心しながら回収し、装備は目黒達に乱暴に着せておく。剣や杖も持ち主に蔦で強引に結びつけた。

 次に目黒を右肩に、新代田と川崎を左肩に担いだ。

 そして建物の鍵もあけるとそのまま静かに駆け出す。


「とりあえず、目が覚めるまでこのままでブロズローンの町を目指そう。誰かに目撃されたり魔法で索敵される可能性もあるからまだ〈移動板ボード〉は使わずにいく。徒歩で行くと何時間後に到着する?」


「現在時速8キロなので3時間強で到着します。ですが夜行性のモンスターが少なくない数うろついているので、計測が難しいです。ドローンを集めます」


「まあ、3人が気づかぬうちは、〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉で処理しよう」


 九十九が3人を抱えながら40分走ったところで回避するのに面倒な場所に、8匹のオークがやって来ていた。オークの接近は、九十九の全経700メートルを7機のドローンで探知済みだった。

 右肩の目黒も左肩に移しながら、〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を右手に持つ。


「MIA、〈短縮化ソードオフ〉で撃つ! モードは〈焼燬インセンディアリ〉。レベル2だ」


「了解しました」


 いうと、アサルトライフル型の〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉のグリップと銃身が変化し、片手で撃ちやすい状態となった。

 豚の顔をした人型のモンスターのオークが鼻を鳴らしながら、次々と姿を見せる。身長は180センチ、体重は120キロほどに映った。でっぷりと太っているが歩く速度も遅くない。目が血走って口からヨダレを垂らしており、獰猛さを覚える。

 九十九は見えたオークから〈単発セミ〉で撃っていく。

 赤い2センチ大の閃光がオークに走り、命中すると猛烈に燃え上がる。オークは悲鳴を上げる暇もなく、命中部分が炭化してボロボロと崩れる。

 近くにいた2匹のオークも肌のほとんどに火ぶくれが起き、悶絶して倒れる。

 九十九は大いに慌てた。


「マズい、火力が強すぎた! 明らかな〈過剰攻撃オーバーキル〉だ。レベル1に修正。弾が外れたら火災が起こるところだった」


「この周辺の木々ではレベル2では火災となる可能性が高いですね」


「……火力が強すぎて火災が起きそうな時は警告してくれると助かるんだけど?」


「了解しました。戦闘の副次的な要因で火災・崩落・倒壊・破損が発生しそうな場合は事前に警告します」


「お、おう……よろしく!」


 話している間に九十九は更にオーク2匹をレベル1の〈焼燬インセンディアリ〉で絶命させていた。レベル1でも火の玉はオークの胸を貫通して、直径5センチほどの穴を開けていた。

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