第26話 魔法とカルデェン粒子
これは王国に今起きていることを把握しないと、冒険どころじゃないぞ。下手するとすぐに戦争が起きる状況かもしれない……。
戦争が起きれば単なる冒険譚ではなくなるであろう。勿論九十九は逃げ出せば済む話だが、これが悪魔ジェスガインの仕組んだ状況なのかだけでも調べないといけない。
今朝の美少女たちとの邂逅は何だったんだ――とその落差に顔が引きつる。
それに目黒らもこのままほっておくのも流石に後味が悪い。
目黒達の運の悪さは俺以上だな。いや、俺も無関係とはいえないか。ともかくレオドのようなクズにカモにされるのは不愉快でしかない。
ちっ! 俺も甘いな。まあ自殺でもされたら夢見が悪くなりそうだし、やれることはしてやるか。
といっても九十九は今は〈無敗の三日月〉の連中を叩きのめすことは考えていない。
クルガナンとかいう奴の正体を確かめ、帝国とはどこの何なのか等を徹底して暴き出してから報復すればいいと考えていた。
でもとりあえず目黒達をここに留めておくのはまずいと判断する。
自分は〈
「MIA、とりあえず今のうちに目黒達の足を治してくれ」
「了解しました。500グラムほど、ナノメタル細胞を移植します。手を上に向けてください」
寝そべった九十九が左手を上に突き出すと、手の先からほぼ半透明の糸が三本生え、伸びていく。
三つの糸は、それぞれ目黒、新代田、川崎に伸びて、体に侵入する。3人は〈隷属の首輪〉の効果で寝たまま体をまるめていた。
半透明の糸は体に入るときは更に細くなり、痛みを一切感じさせない。
ナノメタル細胞が行うのは、傷の組織の縫合、血管の修復、白血球などの免疫調整、ES細胞の活性化と多岐にわたる。
先程アキネイが九十九を刺したが実は刺さってはいなかった。瞬時に〈
九十九はガズ翁の一件から学び、すでに他人をどこまで治せるのかをMIAから細かく確認していた。
〈隷属の首輪〉の解析も終了している。先ほどリエエミカらを運んでいたダンビス商会が所持していた〈隷属の首輪〉よりも単純な構造をしていたとMIAは語る。魔物で壊滅したダンビス商会の所持品の中に、マジックポーチに入った12つの〈隷属の首輪〉があり、MIAの解析に役立っていた。
先ほど、MIAは目黒やクリムゾが魔法を使った際に、面白いことを言っていた。
「重ねて報告しますが魔法というものは、我々のカルデェン粒子に関するテクノロジーにかなり似ています。またカルデェン粒子と魔力に類似点も多いことが計測できています。これはダンビス商会らが所持していた魔法に関する書籍からも確認できています」
九十九はカルデェン粒子と魔力が似ているということに驚きはない。〈テラープラネット〉と〈ライト&ライオット〉は基本同じゲームなのだから類似点が多いことが自然なのだ。いってしまえば同じ物理演算エンジンで動いているのだし。
MIAは発見した点をさらにあげる。
「ナイフに刺される前に掛けられた魔法はまさしく〈麻痺〉でした。コラッドル兵が好んで使う〈麻痺手りゅう弾〉が示す効果と酷似しています。ですので抵抗・対応することは簡単でした」
MIAの見解は九十九にも良くわかる。コラッドル兵は〈テラープラネット〉に出てくる、ハツカネズミに似た人工生命兵で、やたらに〈麻痺手りゅう弾〉を投げてくることで知られていた。
最近ではアップデートによって〈麻痺〉で動けなくなる〈
監禁されて5時間、日没から3時間半が経過したところで、九十九は行動を開始する。
〈
完全透明化したところで、〈アイテムボックス〉から〈
〈隷属の首輪〉を取り外すことのできるというMIAの言葉を信じて、〈
まあ首が吹き飛ぶことはないだろう。でも怖いな……
ぼやきながらも自らの〈隷属の首輪〉を撃つと、あっさり外れた。
「ふぅっ、無事だったな」
「問題がないと説明をしていますが」
「それはわかっているけど間違いが起きることを想像するのが人間なのよ。しかしまあ〈隷属の首輪〉って恐ろしいアイテムだな」
「内部構造的に複雑ではありません。また魔法の回路を上書きすればより汎用性の高いアイテムに改良できます。使い方も簡単で魔力を流しながら、相手の首に装着させるだけです」
「ええっ!? そんなことまでできるのかよ。魔法にまで詳しくなっていっているのかよ!」
「魔法に関する書籍とリエエミカさんの魔法講座で、魔法への理解度が上がっているのは確かです」
九十九らは奴隷であったハイエルフから通信講義を受け、早速魔法の勉強を開始していた。
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