第25話 隷属の首輪


 さらに30分経過したところで、灯りが見えてきた。

 森の中に木の柵で囲まれた建築物があり、篝火が焚かれていた。


「こんな処に人が棲んでいるんだね! えっと、野宿かと思ってビクビクしちゃった」


 新代田がほっとした顔で、川崎に言った直後であった。

 クリムゾが振り返ると波動を放った。


「えっ?」


 2年A組のメンバーは全身にしびれを覚えた。直後、立っていることができなくなり、その場でバタリと倒れた。

 倒れた目黒達にジャネコがさっと近寄り、全員に首輪を付けていく。

 レオドらが目黒らを見下ろして笑う。


「これからおまえらはここで働いてもらうぜ。まあ死ぬまでと思ってくれや。〈隷属の首輪〉をはめたからには逃げることもできねえぜっ!」


 目黒が強い痺れがある中、必死に口を動かす。


「……つ、つまり、騙したんですか?」


 その言葉を聞いた〈無敗の三日月〉らがニヤニヤと笑う。

 刹那、レオドが猫のように俊敏に駆け、目黒達に近寄ると一人一人を豪快に蹴りつける。


「ぎゃっ!!」

「ぐっ!!」

「ぎぎぎっ!!」

「い、痛い!」


 レオドが冷酷な目つきで見下ろす。


「あたりめえだろう! おめえらは死んで減った奴隷の補充だ。まあ、せいぜい長く生き残ってくれ!」


 アキネイがフンと鼻を鳴らすと、ナイフを取り出す。そしておもむろに川崎の太ももに突き刺す。


「いっ、痛っ!!」


明らかに5センチは深く刺さっていた。アキネイはすぐにナイフを引き抜くと次は目黒に手を振り上げる。


「止めてください止めてください、いうことを聞きますから、痛いのは止めてくださ~い!!」


 顔面蒼白の目黒の太ももにナイフが突き立つ。


「ひゃぐぃっぐふっ!!」


 声にならない悲鳴を聞いてアキネイは野性味のある美貌に笑みを浮かべる。


「明日の朝、治癒魔法を掛けてやる! とにかく逃げたりしたらこれ以上に酷い目にあうことを身をもって憶えておきな!」


 そういい、アキネイは新代田と九十九の腿も刺した。

 のたうつ4人を一通り笑って眺めた後、魔術師のクリムゾを残して〈無敗の三日月〉達は去っていく。

 クリムゾは紫の水晶球を取り出していう。


「立ち上がりな! 〈隷属の首輪〉をしたからにはこの球から遠くへは行けないよ。命令を聴かないと〈隷属の首輪〉はグイグイ絞まって窒息死するよ。わかったら施設に入って、自分で牢に入り、寝な!!」


 恐怖と痛みで震える目黒らは何とか立ち上がると、アキネイの指示のもとに木造建物の中に入った。

 木造建築は並んだ鉄製の檻を覆うように粗く建てられたモノであった。

 すえたような悪臭が全体的に漂っている。

 見ると檻には風呂に何日も入ってないような者が20人近くいた。服装を見る限り、一般人ではなく冒険者のようであった。当然全員〈隷属の首輪〉がついている。

 檻は一人ずつ入る仕様になっているが、その広さは畳半分ほどという狭いモノであった。横になっても寝返りも難しい広さだ。


「臭い臭い!! 私らに逆らった馬鹿どもがこんな目にあっていい気味だけどね。洗浄魔法はまた今度掛けるよ」


 クリムゾが目黒らを檻にほうり込み、鍵を掛ける。クリムゾは他の檻の中にいる者に話しかけられても無視して建物から出て行った。

 レオド達が去って20分後――九十九は刺された太ももに痛がる仕草をしながら、MIAを呼び出す。


「MIA、レオドたちはどこに向かった?」


 すると九十九の閉じた瞳に森の中に建つ石造りの民家が映る。


「ここから凡そ東に1キロいったところにある家のようです。中には現在6人います。この家の方へ4人で進んでいます」


「会話全部を記録して、移動したら追跡して」


「了解しました」


「さて……これからどうしたもんか」

 

 まさか刺されるまでになるとは予想していなかったが、こういう展開が起こることは九十九はほぼ予想していた。

 ドローンを駆使して採取したデータから、〈無敗の三日月〉が自分たちを騙していることは事前にわかっていたのだ。

 昨日の冒険者ギルド内での、自分たちが去ってからの会話でもそれははっきりとわかる。


「いくら何でもあの子供たちが補充になるんですかね? クルガナン様も納得しないでしょう」


 ギルド受付嬢の言葉だった。

 それに太いしわがれ声が返答する。


「時間稼ぎだろう。一昨日、3人――アボトロ、マギウレ、ガレがオークの誘導に失敗し、食われたらしいから苦肉の策だな」


 このドローンの盗聴で、九十九は自分たちを冒険者として勧誘したわけではないと把握した。

 次にレオド達の仲間同士のささやく会話も全部盗聴しており、悪意を感じ取っていた。


「クルガナン様が怒ったら俺たちまで誘導役をやらされる可能性があるぞ。それは嫌だろう?」


「もちろんだ。ここまで頑張っているのは王国が帝国に倒された後で、成り上がるためだ」


「でもガキなら2日にも持たずに、オークかコボルトに食い散らかされるぞ?」


「それまでに貧民街で、使える奴を拉致するんだ。〈隷属の首輪〉の数も残り少ないから失敗はできねえぞ」


 九十九は〈無敗の三日月〉の会話から帝国と王国のいざこざがあり、現在〈無敗の三日月〉はモンスターを誘導する作業をしているのだと推察する。更に背後にクルガナンという人物がいることも記憶した。

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