エピソード3「疑義の冒険者ギルド」

第24話 無敗の三日月

 兵舎の朝食が出る時間直前に九十九は薬師ガズ翁たちの助けを借りて、リエエミカ達の潜伏先を用意することができた。

 当然アフターケアも必須で先のことを考えると気が重くなる。すぐにリエエミカ達の生活必需品と食糧の用意をせざるを得えなかったり、九十九には明らかに面倒事でしかない。


 こうなったらアンライトのおっぱいを揉ませてもらおう!


 馬鹿なことを考えると少しだけ気が楽になった。 


 昼過ぎには、目黒達と〈無敗の三日月〉は、ブロズローンの町から北東にある〈黒樫の森〉と呼ばれる場所に向かって徒歩で進んでいた。

 冒険者ギルドでレオドに「モンスター討伐の手ほどきをしてやる」という言葉に目黒らが飛びついて、それが実施された形で街を出ていた。

 合計八名が木々が濃い森を進む。


「いまだ、メグロ! 正面のコボルトを撃て!」


「はい! ファイヤーアロ~!!」


 レオドの声にすでに詠唱を終えていた目黒が、手の平から拳大の炎を放つ。

 次に川崎の背を、盗賊のアキネイがとんと短く叩く。


「殴りに行きな! あんたが突進すれば向こうも回避行動ができないから!」


「はひぃっ!!」


 ガチガチに震えながら川崎が突進すると、コボルトが視線を川崎に移した。

 コボルト――それは犬の頭部をもった人型のモンスターである。身長は130センチほどで全身に茶色の毛を生やしている。外見的に地球の犬では秋田犬に近い。大概は棍棒などの武器を持ち、場合によっては噛みつき攻撃を行う。

 直後、目黒のファイヤーアローがコボルトに直撃する。

 のけぞるコボルトに川崎が拳を叩き込む。


「ウォォオォ~ッ!!」


 気合が大きいが、フラフラのコボルトに4回に1回しかパンチは当たらない。

 今度はレオドが回し蹴りで吹き飛ばしたコボルトが新代田の方によろめいていく。


「シ、シールドバッシュ!!」


 そう叫びながら新代田がコボルトを盾で殴ろうとするが、まるで当たらない。


「そうじゃねえ! 剣で突け!!」


「りょ・りょぅかぃっ!!」


 新代田はレオドの言葉に反射して、剣を闇雲に突き出す。すると剣はコボルトの喉元に突き刺さる。


 ガボルゴモォゥ……


 コボルトはくぐもる様に悲鳴を上げると、新代田の方向に倒れていく。

 これで6匹いたコボルトは全滅した。


「よし! 誰か怪我しているようなら治しますよ。でもいなさそうだね」


 そう僧侶のジャネコがいう。確かに負傷した者はいない。

 ジャネコもアキネイも〈無敗の三日月〉の正規のパーティメンバーである。レオド以外の3人とも女性で、外見もレベルが高い。冒険者としての立ち振る舞いも堂に入っている。

 クリムゾが目黒達を見回し、柔和にほほ笑む。


「正直、いい立ち回りじゃなかったけど、戦いの手順はわかっただろう? 臨機応変、素早さが第一だと!」


「はいっ!!!」


 目黒達は興奮しきった様子で返答した。

 九十九も返事をしたが、先ほどから強い疎外感を覚えていた。〈無敗の三日月〉はほとんど九十九を視界に入れないのだ。

 やはり職業がはっきりしない者をどう扱っていいのかわからないようだった。

 九十九はコボルト4匹に1回ずつ、〈照準サイト〉を使わずに投げた石を当てていたので、そこは誰かに評価してほしかったのだ。


「それじゃあ、魔石の取り出し方をやるから見てな? 魔石っていうのは魔獣が持っている魔力の結晶で金銭で取引される価値がある。魔石は9割、魔獣の心臓の横にあるから。ゴブリンやコボルトは背中から取り出す方が楽だよ」


 そういうとアキネイはコボルトの死体にあっさりとナイフを差し込み、グリグリと動かす。

 ゲームとは違い、倒したら魔石が落ちることはないのだ。

 この後、九十九達も魔石の取り出しにチャレンジしたが、6匹から取り出すのに20分も掛かったのだった。





 〈黒樫の森〉を目黒達と〈無敗の三日月〉が進み、さらに1時間が経過した。その間に1回4匹のゴブリンに接触して、ものの4分で撃滅させていた。


「あぁん? そろそろオークが出てくるから気をつけろよ!」

 

 金ぴかの装備のレオドが堂々と歩きながら目黒達に言った。


「は~い、わかりました~! でも皆さんと一緒なので安心で~す」


 目黒らがホクホク顔で〈無敗の三日月〉に続いて歩く。

 すでにゴブリン、コボルトに遭遇したが、ベテランの〈無敗の三日月〉といることで、良い経験を積んだと思ってか、目黒らは満足げであった。

 レオドが先頭に立って相手の進行を止めてから、魔法を使うタイミング、攻撃を仕掛ける切っ掛けを〈無敗の三日月〉の面々は的確に言葉にしてくれたのだ。

 へっぴり腰の目黒達でも、指示された単純作業はこなすことができ、経験値を稼ぐことができたのである。

 しかも〈無敗の三日月〉を合わせて8人にも関わらず、なぜだか〈+5%〉のパーティー補正効果が表れているようであった。


「もうレベル3なんて凄いよな? えっと、これってクラスの中でトップじゃないか?」


 新代田の言葉に川崎も目黒も微笑む。

 目黒らの目は悦びに輝いていく。客観的に見ればダメダメなモンスター討伐デビューであったが、冒険のオープニングとしては悪くないと受け止めていた。

 目黒・新代田・川崎が軽口を叩きながら冒険を続ける。

 更に1時間経った後に〈無敗の三日月〉に変化があった。

 〈無敗の三日月〉のメンバーは話さなくなっていたのだ。

 町を離れて5時間、すっかり夕方になっていたので、引き返すとかなり夜が深くなる。更に言えば足はクタクタであった。九十九以外は――。

 帰るタイミングを知りたくなった目黒はレオドに尋ねる。


「レオドさん、いつ頃、町に引き返すんでしょうか?」


 レオドはつまらなそうな顔をして目黒を一瞥する。


「黙ってろ、すぐだ!」


 目黒らもレオドの異変に気付く。アキネイ、クリムゾ、ジャネコらからも親し気な雰囲気が消え、けだるそうな空気が漂っていた。

 目黒らは自分たちでは知らないベテラン冒険者の事情があるのかと考えた。

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