第23話 Rポイント
馬車に戻ると九十九は1つレベルアップを果たす。
「鎖は利用価値がありそうだから全部いただこうか。武器も持てるだけ――あ、そうだ!」
九十九はここに来て〈アイテムボックス〉を開いていないことに気づいた。〈自動翻訳〉同様に悪魔ジェスガインにもらった機能だが〈
「使い方は――『〈アイテムボックス〉開け!』でいいかな?」
すると九十九の前に陽炎のような揺らめきが発生する。早速武器などを入れようと試みる。
武器や鎖を陽炎に突き込むと飲み込まれていく。
「ほう、便利だな!」
「マ、マスター、異常事態です! このような亜空間収納がどうやって発生しているのか解析できません!」
レベルアップ同様にMIAは〈アイテムボックス〉が使えることに大きく戸惑っていた。
〈テラープラネット〉内のシステムに過ぎないMIAに、〈ライト&ライオット〉のゲームシステムを解析・理解するのは難しいのだろうと想像がつく。
「レベルアップしたら使えるようになったんだよ。まあおいおい分析していこう」
「この星特有の現象ということでしょうか。魔法といい精霊といい、わからないことが多いですね」
感情がないはずのMIAが苦悶しているのが九十九には面白かった。
〈アイテムボックス〉に元から入っていたポーションなどをチェックしていると、突然雷鳴のような雄たけびを耳にする。
すると3人が血相を変えて馬車から飛び出す。
リエエミカの顔色が変わり、アンライトとレべリアも瞳孔を見開き、体を小刻みに震わせる。
「……二度も助けてくれたのは感謝するが、ここで我らを見捨てた方が良いかもしれんぞ、ツクモ?」
「ん? 何を突然言い出すんだ?」
リエエミカの狼狽に振り替えるとレべリアが答える。
「ダンビス商会を――ヒポグリフ達を八つ裂きにした奴が戻ってきたのだ。真剣な話……人間には到底太刀打ちできない存在だ……。兵士を残らず殺し、この空飛ぶ馬車を叩き落としたのだ」
「へえ、それほどのモノか。てかこの馬車、やはり浮けるのか」
こちらに急接近する存在はドローンを通じて、九十九はすでに把握している。
射程距離を計算して迎撃の調整に入っていた。
「ちなみにあの怪物と意思の疎通ができそうかわかる?」
「それは露ほども期待できないのです! 先ほども強襲してきて、一方的に殺戮を行ったのです!」
アンライトの悲痛交じりの返答を行う。九十九はすぐ撃つことを決める。
距離300メートルのところで、左の膝を地面に付けた〈
飛来したのは巨大な鷹の体に顔がライオンという奇怪な魔獣で、体長は3メートルを超えている。そこそこタフなモンスターなのだろうと予想する。
でも何というか強敵の気配は感じないな。〈
実際MIAも九十九と同じ分析をする。取り合えず〈
するとほとばしる雷撃は怪物に届いたところで霧散する。
ほほう――バリアを展開するのか。それはどれほどのものかな?
続けて〈
九十九達より200メートル離れた森に墜落し、派手な粉砕音を奏でた。少なくとも落下の衝撃で数本の木を横倒しにしたように映る。
まもなく九十九はレベルアップする感触を覚えた。
「チャラランララ~ン♪ おめでとう! 強力モンスター撃退で〈Rポイント〉600ゲットだよ!!」
「ジェスガインッ!?」
九十九は頭の中で響いた声を聴き、戦慄して思わず銃を握る手を震わせる。声は間違えなく悪魔のジェスガインのものであった。
自分たちをこのゲーム内に閉じ込めた本物の悪魔である。
「ジェスガインが復活したのか!?」
と九十九は身構えるが3分しても返事はない。どうも自動アナウンスする機能が働いただけのようだと思い至る。
〈Rポイント〉という言葉は意味が分からなかったが、やがて元の世界に帰る資格を得るポイントだと思い出す。
確か帰還するのに5000ポイントというから600は少なくない数値に思えた。今のような怪物をあと9匹倒せばいいのだから――。
「でもポイントが溜まっても肝心のジェスガインが廃人状態なんだけど、どうなるんだ?」
そうつぶやいた九十九だが〈Rポイント〉について考えるのを止めた。元々ポイントが貯まったとしても、ジェスガインが約束を守る保証がないのだ。
〈Rポイント〉で一喜一憂するなど完全に無駄な行為だと思える。〈Rポイント〉のことを頭から追い出し移動に意識を戻す。
「どうやら撃退できたようだ。では安息できる場所を探しに出かけよう!」
そういって九十九は歩き出すがアンライト達は続いてこない。
何度か催促するが、反応は芳しくなかった。
九十九はいらついたが、それが凶悪な怪物を簡単に撃退したことに関係すると気づくのはもう少し後であった。
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