第17話 愚者たちの黄昏・後半
悪びれない吉祥寺に九十九は告げる。
「吉祥寺さん、やはりクラス全体のことを考えて、パーティを機能させることを優先させるよ。そう赤羽さんに言っておいて」
「う~ん? 一緒に城に行かないの? それって無理してない?」
「はい。あと小杉さんが自分を嫌っているのでやはり合流するのは止めた方がいいでしょう」
「あ~小杉っちね……。はいはい確かに無理かもね」
「はい、あれだけ嫌悪させると小杉さんが安心して過ごせないでしょう」
「ツクモっちをいつも無視しているもんね。どうしてだろう? 心当たりある?」
「いいえ、ないですね」
「ミラナはツクモっちは側にいても大丈夫だよ? まったく全然気にならない! どうでもいいから!」
「ははっ。とにかく小杉さんに配慮すれば城に行くことはできませんね」
「そっかー。それにしてもツクモっちも無視されるの気にしていたんだね。そりゃそうか~」
「それでは今日はご苦労様でした」
「そっか! じゃあバイバイ~。無理しないで~」
吉祥寺は面倒が終わったとばかりにホッとした態度をして去っていく。
本人は天真爛漫を意識しているようだが、九十九にとっては吉祥寺はガサツで厚かましい少女でしかない。
最後の最後まで適当な奴だと更にあきれた。
しかしこうなるともう一組の奴も来そうだと九十九は思った。
「MIA、まだ俺に接近する奴がいるか?」
「はい。中山巳来が接近してきています」
「ちぇっ! 最後は手強いのがくるか」
巣文字の手下・中山は侮っていい存在ではない。巣文字の父が将来の幹部候補として引っ張ってきた千葉最大の暴走族のトップだった輩だ。
本人も将来は企業相手に黒い商売をする気満々で、根性をすえて巣文字親子につき従っている。
修羅場をくぐってきた数の差なのか、いつも九十九は中山に委縮してきた。
トレードマークのコーンロウの髪を揺らして中山が姿を現す。コーンロウとは髪の毛を縄のような状態に、10本ほどに分けて編み込んだものである。
九十九の前に立つ中山は体は大きくないが威圧感は充分だった。
「おい九十九、なんと巣文字さんがお呼びだ。一緒に来い」
口答えは許さんとばかりに中山は開口一番そう告げた。
だが九十九は返答する。
「それが先ほど神保町さんが来て、雲雀丘さんの要件をこなすことになりまして――すみませんが、巣文字さんと雲雀丘さんとで話し合って自分がどうすべきか決めてくれませんか?」
現在クラスのナンバー1を意識している巣文字と雲雀丘を巻き込んで、話をややこしくしてやろうと九十九は企んだ。
雲雀丘の命令を受けていると偽り、雲雀丘からの指示がある限りは巣文字のいうことを聞けないと嘘をついたのだ。
中山はそれに大きく舌打ちをする
「あっ? なんともはや、おめえは巣文字さんとボンボンの雲雀丘を天秤にかけようっていうのか?」
「いいえいいえ、とんでもない。ただ級友の多くが雲雀丘さんを頼りにしているようなんで……」
「ああ? てめえは雲雀丘を優先すんのかよ?」
「そうではなく、勝手に目黒さん達とのパーティを抜けるのは全体の士気に関わると思いまして。今はクラスが一丸となっているという体裁は大切ではないかと思います――」
九十九は弱点を突いた。現在は巣文字と雲雀丘の評価が違うということを利用したのだ。
嫌われ者の巣文字がこの異世界において、更に価値を下げていることは説明するまでもなかった。
敏感な中山ならば九十九の皮肉を理解できないはずはない。
それは中山の表情からも察しがついた。
「ちぇっ! わ~ったよ。雲雀丘に筋を通せばいいんだろう?」
中山は顔をしかめてそういった。そして背を向けて歩き出す。
去っていく背中を見つめる。
突如、中山が炸裂するかのように動く。振り返ると同時に距離を詰め、九十九の腹を蹴りに来たのだ。
野獣の如き、電光石火。
磨き上げられた暴力を、本能のままにまき散らす凶行であった。ラートルと呼ぶに相応しい凶暴性だった。
だが、〈
通常ならばえげつないキックも九十九にはひどくゆっくりに感じた。そこで手にしていた井戸の桶の底で足を痛めつけてやろうと考えた。
桶の底で中山の延ばしてきた足のくるぶしを叩く。
くるぶしを叩いた後で、さも蹴りで吹き飛んだように見せて、九十九は自ら後ろに背中から倒れて見せる。
「うわっ~!!」
もんどりをうつ九十九を中山が見下ろすとニヤリと笑う。
「巣文字さんや俺にナメた態度はなんとも許されねえ。そこをしっかり憶えておけよ?」
そういうと中山は今度は本当に背を向けて去っていく。
が、中山は途中で片足を引きずり出し、痛そうにしながら角を曲がっていった。
九十九はとりあえずの面倒は回避できただろうと判断しながら、勢いよく立ち上がった。
待っていろ、俺にした仕打ちは何倍にもして返してやる。泣いても許さん。
雲雀丘、赤羽、巣文字達への報復、嫌がらせは今は後回しにすると決めている。適切なタイミングでメンツと未来を潰すことには変更はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます