エピソード2「冒険者生活の始まり」

第14話 傭兵ギルドに登録

 夜明け直後に兵舎に戻ると少しずつ起きだす者が現れていた。

 九十九は〈機械化服メカナイゼイションスーツ〉を身に着けていたが、〈立体迷彩3Dカモフラージュ〉でキトンを着ているように偽装している。

 そして夜明けから1時間すると完全に2年A組の全員が起床した。

 その頃に食事の配給が始まる。パンとナンの中間くらいな小麦を焼いたもの1つと、カップに入った野菜スープだった。


「うわっ~、固い~。スープに浸さないと食べられな~い」


 目黒が明らかに寝不足な顔でそういった。

 九十九も口にしたが、スープは美味しくなかった。ハムと野菜を煮ただけのようなスープだが、肉の姿はどこにもない。

 更に30分経ったところでエバグル王国の兵が転移者――2年A組の者に語り掛ける。


「間もなく皆を傭兵ギルドに案内します。そこで登録をし、腕を磨いてください!」


 驚いた目黒を始めとする数名が王国兵に詰め寄る。


「傭兵? そんないきなり戦争なんか危険すぎるでしょう!」


「冒険者ギルドはないの? モンスターと戦ったり、薬草を採取するとか」


 それに王国兵が答える。


「落ち着き給え! 傭兵ギルドのあっせんする仕事は主には用心棒だが、普通にモンスター討伐の仕事もある! 冒険者ギルドだが王国府と関係が上手くいっていないのだ。だから冒険者ギルドでは初心者に仕事が回せるか保証できないのだ」


 王国兵への質問は続く。


「では自己責任なら冒険者ギルドに行ってもいいんですね?」


「その通りだ。だが最近冒険者ギルドでトラブルが多く、大勢の者が傭兵ギルドに鞍替えしている。そういう背景を頭に入れてほしい!」


 ここで目黒はパーティを組んでいる新代田、川崎、九十九に集合をかける。


「みんなはどう思う~? やっぱり冒険者ギルドの方がよくな~い?」


 新代田が大きく頷いて同意する。


「えっと、言わせてもらえば、冒険者ギルドかなって思う。やっぱりファンタジーの王道は冒険者ギルドだと思うよ」


 川崎も意見を口にする。


「だいたいみんなと同じ意見。まあ取り合えずテイムモンスターを孵化させるのが最優先ですけどね!」


 そこで目黒は手を打って頷く。


「じゃあ、決まりね~! 我々は冒険者ギルド一択ってことで~!」


 九十九がそこで手を挙げていう。


「取り合えず、両方登録してみるのは? 両方はいるのはダメとは言ってなかったし」


 その九十九の言葉で目黒らはしばし黙った後で、若干悔しそうな様子で同意した。



 王宮に泊まれなかった2年A組の12名の者はエバグル王国の引率で、傭兵ギルドに行った。

 傭兵ギルドの施設は老朽化した木造建築であった。更に全体的にいびつな印象を九十九は受けた。

 異なる木材で強引に組んだ粗さが所々見て取れる。

 中に入るとやはり粗雑な内装であった。だが受付嬢やカウンター、掲示板などは整然としており、事務的な機能は充実しているようだ。


「傭兵というから、だいたい大雑把でワイルドな感じかと思ったけど、そうでもなさそうだね!」


 川崎がそう言ってはにかむ。

 皆の前に傭兵ギルドの人間が応対に現れる。


「王宮の伝令でおめえらのことは聞いているぜ? 俺は傭兵ギルドのギルド長のディガギンだぜ! ざっと傭兵ギルドの概要を説明するぜ」


 ギルド長のディガギンは柔らかく微笑んだが、2年A組のほとんどがすくみ上がった。九十九も例外ではない。

 ディガギンは角ばった面長のいかめしい顔つきな上に、アイパッチをしていた。身長は2メートルをゆうに超え、筋骨逞しい肉体をしている。

 皆が驚いたのはディガギンの傷だらけの体だった。ノースリーブのシャツから露出した太い腕も、険しい顔にも全て切り傷が浮いていたのだ。

 2年A組のほとんどの者がアメリカの〈悪役ヒール〉レスラーを連想した、凶相のディガギンであったが、ギルド長としては申し分のないパフォーマンスを皆に示す。


「傭兵ってだけで切ったはったの喧嘩みてえな仕事ばっかりだと思うだろうが、そうじゃないぜ? 隣町に行く人を護衛したり、人里に近づきすぎたモンスターを討伐したりと多岐にわたるぜ~」


 傭兵ギルドの仕事の種類や、仕事の受注の仕方、依頼金の受け取り方を淀みなく、分かりやすく説明してくれた。

 皆がディガギンの容姿に慣れた頃に二十歳ぐらいの若者が現れた。

 ディガギンが若者の肩を叩いて、後ろに下がって若者に2年A組の前を譲った。

 若者に目黒ら数名の女子が黄色い吐息を漏らす。若者はタレ目だが、なかなかの男前だった。

 戦士然とした格好をし、バランスの取れた肉体は前衛を務めるタイプであると予想させる。


「おらはパーティ〈蒼ぎ鷲〉のリーダーのサンドックだ! みんながモンスター討伐体験すたぇって話だがら、これがらモンスター倒すとぎの諸注意教えっから心すて聞いでけろ! 実は傭兵ギルドば受げ持つ〈黒樫の森〉は急速さモンスター増えで困ってっから、是非討伐すて欲すいんだ」


 〈自動翻訳〉のせいとは言えサンドックの訛りはかなり強烈だった。


「まずは初心者はぜってぇ初めはゴブリン1匹がら討伐するようにするんだ。すかも複数で1匹だ。ピンどごねぇと思うだろうけんど、ゴブリン1匹でもおっかね程生命力さ強い。そご実感でぎねどコボルト、オークなど更に強いモンスターさ倒すのは到底無理だ」


 サンドックは熱心に後輩に助言をしたが、どうにも言葉が頭に入ってこない。

 だがゴブリンを倒した九十九だけはサンドックの言葉に熱心に耳を傾け、食い入るように聞いた。 


「あど、この町にはドラゴン飛来すっから気付げで! とでづもなぐ強いがら絶対さ戦わねえでけろ!」


「えっ!? ドラゴンが飛んでくるんですか!!」


 思わず身を乗り出して尋ねる九十九にサンドックが答える。


「その通り。こご半年で人が8人、馬っこが3頭、べごが2頭、連れ去られでるんだ」


 目黒らは顔を引きつらせたが、九十九は逆に目を輝かす。倒しがいのある獲物がいることに、九十九は心を躍らせた。

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