第11話 レベルアップ
「ゴブリンの耐久のデータは十分取れたので、次は近距離での戦闘をお願いします」
「へいへい、お許しが出たのでやってみますか!」
九十九は石を捨てるとゴブリンに走り、接近していく。
慌てたゴブリンは全速力で逃げ出していく。まだ息のあるホブゴブリンを完全に見捨てる形で。
そこで九十九も戦意を喪失する。
「なんだよ、追っかけてまで全滅させるのも面倒だな」
「ではホブゴブリンの止めを刺してください。まだ活動する可能性があります」
「わかっていますよ!」
九十九はホブゴブリンに接近すると、ホブゴブリンの木の棒を手にした。そしてまだ悶え苦しむホブゴブリンに木の棒を振り上げ、その頭部目掛けて慎重に振り下ろした。
直後、九十九の体が浅く輝き出す。
「異常事態!! 何か体に変化が起きています。発生した要因と現象が不明!!」
MIAが緊急性を感じさせる警告音を脳内で鳴らすが、九十九は慌てない。
「もしやと思ったが、やっぱり起きたか……」
そう思った九十九は、倒れているゴブリン達も木の棒で止めを刺した。
すると、その後2回、体が浅く輝いた。
「未だに原因不明――ですがマスターの身体性能が向上したように計測できます。筋肉が増加し、前例のない組織が体で形成・発生しています。異常事態です。ただちに精査いたします」
九十九はMIAの言葉に頷きながら、ステータスウィンドウを開く。相変わらず文字化けしていることと、卵のマークが変化していないことを確認した。卵の孵化はまだだった。
九十九はMIAに報告する。
「おそらくレベルアップしたんだと思う。まあこの星特有の現象だと仮定してみればいい」
「レベルアップ? それは何ですか? 事象が分析できません。何なのでしょう?」
「モンスターを殺した時に発生するようだから、観察して測定してみたら?」
「なるほど。了解しました。レベルアップを検証します」
MIAに理解できないことは九十九にはどうでもいいことだった。自分がきちんと〈ライト&ライオット〉のゲームシステムに組み込まれているとわかり興奮した。
〈テラープラネット〉のプレイヤーには通常レベルアップはない。体をカスタマイズし、装備をグレードアップさせることがレベルアップに該当するのだ。
〈ライト&ライオット〉はモンスターを倒したり、ミッションをクリアするとキャラクターの能力を底上げするレベルアップが発生するのだ。
「……体の組織が変化って、たぶん魔力が溜まったり、使えるようになる変化だろう。ってことは魔法使えちゃう?」
背中にぞくりと熱い興奮を覚える。魔法が自分にも使える可能性に身震いしたのだ。
九十九にも人並みにファンタジー世界への憧れがある。だから魔法を使って戦ってみたいという願望があるのだ。
「ようし、こうなったらレベルアップ、しまくってやるぜ!!」
九十九はこの世界での明確な目的をこの時、手に入れた。
レベルアップにからむ妄想を頭に浮かべたところでMIAに尋ねられる。
「〈BEMコレクト〉は自動モードにしますか? それとも部位ごとに採取・保存しますか?」
〈BEMコレクト〉とは遭遇した未知の動物の情報を採取するモードである。場合によっては貴重モンスターのDNAで大金が動くこともあるのだ。
〈BEMコレクト〉にはさほど興味のない九十九はドローンによる自動情報採取でいいと判断する。
「標準のおまかせで。髪の毛なり、細胞を採取して保存でいいよ」
「了解しました。周辺の追加情報をお伝えします。先ほどすれ違った子供たちに複数の傷がありました。もし気になるようであれば、再接近することを推奨します」
「ああ……そうか。うん、そうだね」
九十九はすっかりすれ違った子供たちのことを忘れていた。が、後でどうなったか気がかりになる可能性は高い。
子供たちはそう離れておらず、49秒で接触できた。
「ゴブリンは何とかしたよ。えっと、君たちは大丈夫? 怪我してない?」
するとまだ息が整わない少年が、ゼイゼイ言いながら答える。
「おい……子ども扱いすんなよ――オレは……そんなにガキじゃねえぞい。これでも――27歳、リリパットっていう種族なんだよ」
「ええ? 27歳?」
そう言われたが、九十九にはやはり子供にしか見えない。
その九十九の反応に女性の方がクスリと笑う。
「この人の言うことは……本当。まあ――リリパットとバレると面倒だから……ブロズローンの町とかじゃあ――人間の子供のふりをしているけどね」
確かに話しぶりから成人していそうだと九十九は感じた。しばし驚いたが、怪我の方に意識を向ける。
「ああ、それで怪我の具合はどうだい? 少しなら回復薬は融通できるぞ?」
少年風の男は顔を横に振る。
「のこぎり草の群生を走ったから傷だらけだが、心配には及ばないぞい。傷・打撲の塗り薬は用意しているから。そうそう、名乗らねえと――オレはノドルだぞい。こっちはベキンナだ」
ノドルは少女風の女性をベキンナだと紹介した。
それに九十九は答える。
「ノドルとベキンナだな。俺はツクモだ。ブロズローンの町から来た傭兵だ、出身は違うが。それで2人で帰れそうか?」
「ああ、そ、それだが、ここから歩いて1時間半の林に仲間と隠れ住んでいるぞい。……確かに今、熊にでも襲われたら、一たまりもないな……」
ノドルの暗い顔を見て、九十九は考える。
このノドルとベキンナという人物は、情報を得るのにちょうど良さそうだ。
世俗には明るいが隠遁したような生活を送るノドル達ならば、自分のことを詮索されないと予測した。
万が一、自分のことを色々知られても、恩を着せればしつこく詮索されまい。
「そうか。それなら家まで送ろうか? それぐらいは構わないぞ」
「それは助かる。恩に着るぞい」
それを聞いた九十九は2人に近づくと、左右の手で掴み上げ、自分の肩に乗せた。
ノドルとベキンナは戸惑う。
「これは……どういうつもりなんだぞい?」
「家まで運ぶ。方向だけは指示してくれよ」
九十九は2人を乗せたまま走り出す。恩は着せるが、時間をかける気はなかったのだ。
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