第10話 ゴブリン討伐始めてみました

 さらに4分が経過したところで、MIAから声がかかる。


「アクシデントです。ここから東南3キロのところで、人間が何者かに襲われています。人間が2人、謎の生物が14匹です」


「えっ! モ、モンスターってこと?」


「人間を襲っているのは、人間に近い体形をしています。身長が1メートルで全身が緑で頭髪のない生物です。時速7キロで移動しています」


「たぶんゴブリンだな」


 と思っていると九十九の視界に、人間の子供サイズで全身が緑色で、鼻と口が異様に大きい生物が表示される。ドローンの撮影した映像だ。


「やはりゴブリンか。時速7キロで移動か……襲われても逃げきることは可能だな。そういえば50倍の速度で動ける〈最速時剋ファストタイム〉を使うって手もあるよね?」


「〈最速時剋ファストタイム〉は一度使うと7時間半のクールタイムが発生するので今は推奨できません。それより接近しますか? その場合、4分ほどで交戦が可能となります」


「MIA的にはどう? ゴブリンに勝てそうだと思う?」


「申し訳ありませんがゴブリンと仮称した生物のデータが不足しています。ですからエネミー分析はできません。チンパンジーやゴリラほどであると仮定するならば十分に掃討できると予測します」


 MIAのいうエネミー分析とはその対象物の脅威度を示すものである。攻撃性や生息する星の環境・武力・生命力・知力、そして内在するエネルギーなどを総合して、分析・診断するものだ。


「へえ~14匹でも?」


「はい。つまりはエネミー分析ではレベル1に該当すると判断します」


「でも武器がないよ? 素手で戦うのかな」


「投石を推奨します。距離を取りながらの投石で十分に撃退可能だと予測します。手頃な石を自動で拾います。よろしいですか?」


「ああ、お願いします」


 九十九は少し考えたがゴブリンとの接近を選択した。

 直後、九十九は走りながら自動で手ごろな石を拾い、駆ける。石の大きさはだいたい鶏の卵大である。

 走りながらも片手に4つずつ確保したのを見て九十九は思わず笑う。


「凄い器用だな? 普段の俺だったら絶対できないよ」


「間もなく〈戦闘地域ウォーゾーン〉に入ります。準備を!」


「え~っ、戦闘も自動にMIAがやってくれよ」


「それはできません。戦闘中に意識を喪失した時に限って、マスターに代わって〈戦闘地域ウォーゾーン〉からの脱出を試みることは可能ですが」


「そうなんだ!」


 九十九はMIAの万能ぶりに浮かれていたが、これから命のやり取りをすることを唐突に覚悟する。


「〈熱感知視界サーマルビジョン〉起動!」


 いうと、九十九の視界は熱源がくっきりと見えるようになった。


(逃走する人間大とそれ以外の奴が確かに14匹か! 人間の方も小さいな……。よし、そろそろ投擲可能距離か)


 見ると視界の端に〈敵との距離〉が表示されていた。残り距離94メートル。


「あと4秒後、70メートルから正確に投げれる距離となります」


「ええっ……70メートル、クラスの遠投の最高記録が56メートルだったのに70メートルで攻撃可能に? と、とにかく了解した」


 MIAの計測に従いながら、九十九が左手に全部の石を移し、4秒後に足を止める。

 刹那、九十九は他人に見られてもいい様に、〈機械化人間ハードワイヤード〉の能力を抑制しようかと考える。今は自分が特別だと知られたくない。


「肉体の限界値を常人レベルに設定――それじゃあ、行くぜ!」


 九十九がオーバースローで構えると、視界に十字マークが出た。〈照準サイト〉である。


「これじゃあ逆に外せないな!」


 といって石をゴブリンに向かって投げた。すると投げた石が一匹のゴブリンの胸に深々と命中する。


「頭を狙ったのに! 次!」


 左手から右手に石を移して投擲する。

 腕を振りかぶり、大きく腕をしならせて振う。

 今度はゴブリンの頭部にきっちり命中して陥没させた。


「命中! これそんなに速度は出てないよね?」


「時速110キロといったところです。ですが頭に喰らえばほとんどの生物は死にます」


「お、おう!」


 さらに3匹に石を投げたところで、逃走してきた2名が5メートルのところまで接近してきた。

 走っていた2人は子供であった。1メートル20センチほどの男女である。 

 2人ともリュックを背負い、肌に沢山の切り傷が伺える。

 少年・少女は九十九に気づくとぎょっとしたが、すぐに少し安心したような顔をする。

 それに九十九も応える。


「ゴブリンは俺に任せておけ!」


 その言葉を聞いた少年少女は地面に横たわり、激しく息をつく。肉体的に限界を迎えていたのがわかる。

 止まらずに進んで残り15メートル――7匹に当てたところでゴブリンは4匹が逃げ出し、残り3匹が足を止めた。

 九十九は足元に石を探しながらMIAに聞く。


「これで終わりかな? いや、近距離戦も体験するべきか」


「石を補充することを推奨します。急速に接近する大型のゴブリンがいます。データ習得のために投石を推奨します」


「大型? ホブゴブリンって奴かな。と、とにかく、わかった。石を拾おう」


 直後、視界の端にドローンが撮った巨躯のゴブリンの姿が浮かぶ。

 九十九は5メートル後退しながら7つの大きさの違う石を素早く拾う。

 すると間もなく、2メートルを超す影を目視できた。


「確かにデカいし、運動能力も違う気がする!」


 急接近する大型ゴブリンであったが体格も敏捷性も違う。手にした1メートルを超える木の棒も軽々と操っている。


「手前から撃退することを推奨します」


「はいよ!」


 九十九はまたも〈十文字照準クロスサイト〉を合わせて、投石を繰り返す。

 3匹撃退したところで、ホブゴブリンに照準を合わせる。

 直径8センチの石を50メートルの距離で時速90キロでぶつける。が、石は当たらなかった。

 九十九の石をホブゴブリンが木の棒で弾いたのだ。

 弾いてニヤリとホブゴブリンは笑う。


「ま、マジかよ! 動体視力もすげえ!」


「アドレナリン急上昇。落ち着いて、まだ2回投石の機会があります」


「お、おう! ビビってねえし!」


 九十九は残りの石を右手に移し、〈十文字照準クロスサイト〉をホブゴブリンの頭部に合わせる。

 そして石の握り方を変える。人差し指と中指で挟むように掴む。


「喰らえ、俺の魔球を!!」


 直径12センチの石を35メートルまで接近したホブゴブリンに投げつける。

 ホブゴブリンはまたも木の棒で頭に迫る石を弾こうと動く。

 が、九十九の石は木の棒を避けるように軌道を下げ、ホブゴブリンの喉元に激突した。


 ウギギャグゥギィッ!!


 ホブゴブリンは衝撃と喉元が大きく破損したことで悲鳴を張り上げる。

 激痛が消えずに激しくのたうち回る。

 それに九十九は満足げにほほ笑む。


「見たか、俺のフォークボールを!」


「軌道的にはスプリットが近いと思います」


「んだよ、野球まで詳しいのか?」

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