第7話 やはり俺だけ凄いことに!
「こんなところじゃ、眠れな~い!! 絶対、ダニとかいるよ~」
目黒桜子の悲鳴が轟くがみんな無視する。今日のところは屋根がある場所で寝られただけで満足するべきだと、多くの者が思った。
目黒のパーティメンバーの新代田、川崎、九十九も同じ建物の中で、一枚板で仕切られた部屋に横になっていた。
寝台しかない、古くて隙間風の吹き込む簡素な兵舎である。
エバグル王国に招かれた2年A組であったが、客間が十分にないために、三分の一がこのオンボロ兵舎を割り当てられた。
エバグル王国で転移者たちの神託を受けたのは、王国の正教でも火の神・ミツボエルに仕える神官であった。
神官は突如脳内に「〈碧の森〉に現れる転移者をもてなせ。転移者は基本自由にさせよ」との神託を受けたそうだ。
神託を受けること自体珍しかったので、エバグル王国側も2年A組をどう扱ってよいのか戸惑っていた。
雲雀丘ら2年A組で話し合った結果、エバグル王国の世話になることを決めたのだった。
九十九は事の流れに反応を示さず、ただただ大人しくしてやり過ごした。
一人になるのをひたすら耐えて待ったのだ。
九十九は横になりながら、自分を褒めていた。
静かにぐっとこらえ、よくぞ平静を保った! 俺、成長したな~。最高だわ!
九十九は寝たまま目を閉じ、ウキウキしながら次の行動に出る。声も出さずに心の中で語り出す。
「MIA、状況はどうだ?」
MIAは機械による理知的な行動を加速させるシステムである。Mechanized Intelligence Acceleratorの頭文字を取ったもので、九十九達、〈
「はい、マスター。ここから20キロの地点に脱出ポッドを発見しました。やはりマスターは遭難した模様です!」
「おおそうか! そういう設定になったか、よしよし」
「そういう設定? 意味は分かりませんが危機的状況なので、喜ぶべきではないのでは? 脱出ポッドには〈
「上等上等! 〈
「ございます。〈
その声の後、九十九の頭に脱出ポッドにある備品・装備がデータ処理され、表示された。
九十九は自分の脳とコンピュータが直結されている現実に、感嘆を漏らし、思わず拍手した。
自分が〈
「俺だけ、〈ライト&ライオット〉のキャラクターじゃなくて、〈テラープラネット〉のキャラになったのか! よし、これは最高だ!! まさに〈
九十九は悪魔ジェスガインに転移される際、自分が〈ライト&ライオット〉をプレイしていないのに選ばれて驚いた。
だがすぐに、自分が〈テラープラネット〉のキャラになっていることに気づき、納得がいった。
九十九は他人には〈ライト&ライオット〉を勧めておきながら、自分自身は〈テラープラネット〉を始めていたのだ。
〈テラープラネット〉は〈ライト&ライオット〉を元に作られた海賊版ゲームである。
世界最高の物理演算エンジン〈ネメシス〉が使われている〈ライト&ライオット〉を丸ごとパクって作られたのが〈テラープラネット〉だ。
〈テラープラネット〉は基本SF系FPSゲームで、〈ライト&ライオット〉とキャラメイクが大きく異なる。
プレイヤーは基本〈
〈
九十九がこの世界に来た時に全裸だったのはそういう理由であった。開始いきなりキャラクター設定画面で始まる〈テラープラネット〉は、全裸スタートが基本なのだ。
そのため、九十九は転移した直後に、隣にいた仙川玲菜にクロークを借りて急場をしのぐ羽目になったのだ。
仙川は今もなお、九十九の理解者で協力者でいてくれてるようだった。
「それにしても、あの悪魔、間抜けだったな!」
九十九は悪魔ジェスガインをあざ笑った。〈ライト&ライオット〉が現実化する時に、ひそかに連結してあった〈テラープラネット〉も一緒に現実化したに違いなかった。〈テラープラネット〉内のどこかの星の一つが〈ライト&ライオット〉の舞台という噂があり、それを探す者は少なくなかった。
〈テラープラネット〉は複数の銀河を扱った世界なので、そ
れを現実化すれば、〈ライト&ライオット〉のリソースの何億倍にもなるだろうと推理した。
九十九の想像が正しければ、ジェスガインはゲーム世界をリアルに変換させた際に全ての力を注いでしまい、廃人寸前にまで陥ってしまったことになる。
「俺だけ、この世界での生存率が爆上がりだろう。魔法は使えなくても〈
本来ならば異物である九十九はジェスガインに除外されるだろう。だがそのジェスガインは当分は復帰する見込みはなさそうだ。
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