第5話 悪魔の誤算
意識が完全に寸断された後に、皆一斉に覚醒した。
「ここが『ライト&ライオット』の世界?」
益唐学院2年A組の生徒が一斉に目を開いた。周囲は木々に囲まれた草原で、一見地球と大差ないように映る。
皆がざわついていると、空に人影が現れた。
誰もがジェスガインが再び現れ、過酷な試練を告げてくるだろうと想像する。
だが、再び空に現れた悪魔ジェスガインはボロボロだった。
まるで断食と徹夜を一週間続けたかのようであった。病的にやつれ、紫の髪は白くなり、目は白目をむいていた。
明確な死相が浮いている。
「し……しくじった――。どうして、こんなにゲームをリアル化するだけでこんな消耗を……わからん――わたしは永い眠りにつく」
それだけいうと悪魔の映像は消滅した。
何が起きたのかわかる者は誰もいない。
だが、ジェスガインに何か致命的なトラブルが起きたことは理解できた。
2年A組は全員5分間驚いたまま硬直した。
一番先に立ち直ったのは雲雀丘龍児だった。
雲雀丘はその2メートルの長身を優雅に翻し、大きなジェスチャーでクラス全員に語り掛ける。
「予想外に次ぐ予想外に皆も動揺が隠せないだろう。だがここは危険な世界、立ち止まっていては死があるのみだ。しかるにここから皆で足並みをそろえて行動に移ろう!!」
続いて巣文字侑真が獰猛にほほ笑み、同意する。オールバックの長髪を振り回し、唄うように語る。
「雲雀丘の言う通りだぜぇ!! 殺らなきゃ殺られる――これはどの世界に行っても共通しているぅ! 死にたくなきゃ腹を据えなぁ!!」
巣文字はそういうと、身幅が広いマチェテ型の剣を抜いて、豪快に振った。
雲雀丘は手を叩いた後に、みんなに語り掛けるように話す。
「状況を今一度把握しよう。まずここがゲーム『ライト&ライオット』の中だということ。しかるにゲームのシステムに従って行動するのが最も効率がいいであろう」
雲雀丘は丁寧に「ライト&ライオット」のシステム・概要をおさらいする。
・『ライト&ライオット』は職業を選んで、基本4人パーティで行動する。
・戦ったり、クエストをこなすと経験値を得て、レベルが上がる。レベルが上がると体力や魔力も増える。
・レベル2以上で従魔と呼ばれるモンスターの卵を神から授かる。従魔が孵化した際に特性スキル・専用スキルを得ることができる。
・職業に就いた冒険者はもれなく自分のステイタスボードを閲覧でき、〈保管空間〉を持つことができるようになる。
・前の世界にはいなかったモンスターが存在する。なお現代兵器でも倒せないであろう、強力なモンスターもいる。
・野外ではあまりないが、ダンジョンでモンスターを倒すとアイテムをドロップする。
・神が複数存在し、プレイヤーに加護を与えたり奇跡を起こすことがある。
概要が整理されると、みんなやはり従魔のことが気にかかる。強力な従魔を得ることも楽しみだが、特性スキルを得ることに最も関心が寄せられる。
特性スキルはピンからキリまで、有効性に幅があるが、中には〈不死身〉や〈魔力無限〉などがあり、得るだけで英雄になれる可能性を秘めていた。
浮かれる皆を軌道修正するように雲雀丘が言う。
「4人パーティはやはり前衛・盾役・魔法・回復が鉄板とされている。しかるに、クラス全員の職業を把握しあうのはどうだろう?」
それに猛然と抗議する女生徒がいた。腰まで伸びた黒い髪と長い睫毛が特徴的な仙川玲菜である。
仙川は冷淡にも映る厳しい表情で告げる。
「この過酷な世界で個人の情報の開示は、例えクラスメイトといえど良くないと判断します!」
芯のある言葉に空気が固まるが、巣文字が雲雀丘を支持する。
「まあ言いたいことはわかったけど、連帯感を生むためには必要だろうよぉ?」
巣文字の言葉で仙川を表立って支持する者は現れなくなった。
雲雀丘が鞄に入っていたペンと羊皮紙を取り出すと、クラスメイト全員に職業を聞いて回る。
17番目・三田九十九の前に雲雀丘が来た。
「えっ、君が九十九くん? 面影はあるけど、かなり違うね。この中では一番違う!」
「はははっ、まあ、自分でもびっくりだけどね」
192センチの体に逞しい肉体、灰色の髪の九十九を見て、クラスメイト全員が驚きを示した。
九十九は全身をクローク一枚で覆っていた。
「しかるに、九十九くんの職業は何だい? クロークをまとっているということは魔法使いみたいだけど」
「職業はわかりません。それがステイタスボードがバグっていて……」
「見ていい?」
「……うん、まあ」
ゲームと同様に、同パーティ以外は他人がステイタスボードを見れない。そこで一回雲雀丘を九十九はパーティ申請をし合って一時的にパーティを結ぶ。
それから雲雀丘は九十九のステイタスボードが文字化けしているのを確認した。
「本当だ……これは困ったね」
すると九十九の背後に立っていた巣文字が爆発したように笑う。
「ぎゃははは! 久しぶりに見たと思ったら、外見がかなり違った上に不良品にぃ? 九十九、おまえって本当に持っているよな?」
馬鹿笑いする巣文字を九十九は無表情にじっと見る。
「んだよぉ? ……とにかく腕が治ったようでよかったな?」
その巣文字の言葉を聞いて、心の中で「ひどい奴だ」と思った者は数人いた。九十九の腕を事故で折ったのは巣文字達一派であると皆知っていた。
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