エピソード1「ゲームの中にクラスメイト達と丸ごと飛ばされた」
第4話 悪魔ジェスガイン
三田九十九はゆっくり目を覚ました。
深い眠りから目を覚ましたような感覚が残る中、目にした光景に愕然とした。
「んだよ、これは……」
全てが濃紺に支配された空間だった。そこに大勢の人間が並んでおり、自分もそこに配列されているのがわかった。
前や隣を見ると、皆ローブや甲冑を身に着け、ファンタジーロールプレイングゲームの登場人物風の格好をしている。
しかもその衣装を着ているのはクラスメイトだった。
「中山、壬生、何だよ。その恰好は!」
九十九は思わず笑う。だが全員が全員クラスメイトではない。見知らぬ人物が複数いるのに気づく。
やはり夢か――脈略がないのは夢の特徴だと割り切り、現状に興味を失いかける。
「あっ、そうだ!? 俺の今の格好は?」
ほぼ視界が動かない中、何とか下を見ると衝撃を受ける。
「全裸? お、俺だけ全裸かよ!!」
見える体には一切の布が見えない。男の裸の下半身が見えるだけだった。
九十九はショックを受けるが、やはり夢なのだと思う。見えた下半身が自分のものとは思えなかったのだ。
太く逞しい筋肉、完全にトップアスリートのそれだった。
何だ? どういうことなんだ?
と思った直後に思い当たる。FPSゲームで愛用しているゲームキャラクターの外見であると察する。
つまり全員ゲームのキャラになっているのか?
九十九がそう思っていると大きな変化が起きる。
並べられた者たちの正面の上空に人物の映像が現れた。
その者は肩まで伸びた髪が紫で、肌は黒に近い。そして額には大きなサイの様な角を生やしていた。瞳の色も金色で通常の人類とはかなり離れて映る。
何より美しい。まさに悪魔のように美しく、女子のほとんどが黄色い声を上げ、男子のほとんどが舌打ちをするレベルだった。
「召喚されし者たちよ、挨拶しよう。わたしは君たちの言うところの悪魔だ。悪魔のジェスガインだと覚えてもらおう」
悪魔と名乗る者の登場にクラスメイトら全員がほぼ驚嘆する。そんな様子にかまわずにジェスガインが説明を始める。
「わたしが招集した君たちは、わたしが意図的に選んだ人物たちだ。というよりわたしが決めた条件に当てはまった者たちである。条件とは『一クラス全員がライト&ライオットのゲームを自主的に始めた』というものだ。誰もが心当たりがあるだろう?」
その言葉に大勢の者が動揺の声を漏らす。ジェスガインの発言が当たっているのだ。
オンラインVR体感ゲーム「ライト&ライオット」は、1年前からそのリアルな体感から爆発的な人気を得ていた。モンスターを必ず1体従魔にできるシステムも人気に一役買っていた。
ジェスガインはなおも語る。
「ここにクラス全員でライト&ライオットを始めた組を6つ集めた。計150人の少年少女だ。君たちはクラスごとに、それぞれ離れた土地で第二の人生を始めてもらう。全員がライト&ライオットの世界へ向かうのだ!」
ここで150人の者の半分が歓喜の声を上げ、半分が悲鳴を漏らした。半分がゲーム内への転移を喜び、半分が過酷な世界に投げ込まれることに恐怖したのだ。
悪魔ジェスガインはそんな反応を見てから、ニヤリと悪意を覚える笑みを浮かべる。
「君たちクラスは簡単には接近できない距離で配置するが、敵対することも共闘することも可能だ。前の世界へ帰れるチャンスをめぐって、ポイントをやり取りする仕掛けを用意している! 元の世界に帰るには一定のポイントが必要になる。わかりやすく、帰還できるポイント、〈Rポイント〉と呼ぼう。〈Rポイント〉を巡る駆け引きを大きく楽しんでもらいたい!」
ジェスガインの説明は今一つ要領を得ない――皆がそんな反応を示すと説明が続く。
「詳しく言うと前の世界に帰るために1人5000〈Rポイント〉貯めなくてはならない。巨大なドラゴンを1匹倒すと800〈Rポイント〉もらえると思ってほしい。かなり条件が厳しいと思うだろうが、他のクラスの者を1人倒すとそれだけで1000〈Rポイント〉に設定している。つまり5人倒せば元の世界に戻れるというわけさ」
ジェスガインが喜悦を隠さずにそう言い切った。
150人は青ざめながら悪魔の意図を察した。
「殺し合え」と言っているのだ。
悲鳴がもれる中、数名の者が異なる反応を示す。
「おもしれえ!! 他の学校の奴をぶっ殺して帰れるなら簡単だぜ」
「殺ってやるぜ!! 勝つのは俺たちで間違いねえ」
巣文字侑真も好戦的な声を上げる。
「くくくっ! いいねぇ、ここは一つ正々堂々殺し合いをしようじゃねえかよぅ!!」
そんな様々な反応にジェスガインは満足げにほほ笑む。
「間もなく、君たちをゲームの中に送り込む。まずは生き残りたまえ。従魔を育てスキルを開花するのだ! ゲーム内に完全に転移した後、もう一度会おう」
そう悪魔が言い終えると視界は徐々に暗くなっていく。同時に周囲に悲鳴が渦巻く。
九十九は意識が希薄になる中、まったく納得できていなかった。
「おい! 待てよ、俺『ライト&ライオット』でキャラビルドなんかしていないんだけど!?」
九十九の叫びに反応する者も答える者も誰もいなかった。
そして全てが再び闇に飲まれた。
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