第3話 いざ、東口へ

 ダンジョン攻略の第一歩を踏み出した俺は、いきなり難題を突き付けられていた。


「くっ……俺は……一体どこへ向かえば良いというのだ!」


 地下迷宮の中では、太陽の位置を確認することができない。つまり、方角がわからないのだ。これでは東へ進むことなどできるはずがない。


「仕方ない。一度地上へ出てみるか」


 俺は近くにあった階段を駆け上がり、地上へと出た。太陽の光が燦々と照っていて、思わず眩しくて目を瞑る。ようやく目を開けられた時、俺は衝撃的な景色を目の当たりにした。世界樹の如き巨大な建築物が、無数にそびえ立っていたのだ!


「な、何なのだこの建物は!」


 すべての建築物が、大きい。あまりにも大きい。見上げれば首が痛くなるほど巨大な建築物群。想像を絶する光景に俺は圧倒されていた。不思議なことに、ほとんどの建物が恐ろしくも美しい、直方体の形をしていたのだ。


「人のなせる技なのだろうか。もしや、この世界の神が作ったのではあるまいか」


 その時、更なる衝撃が俺を襲った。他の巨大建築物とは全く違う、まるで昆虫の繭のような建築物が高くそびえ立っていたのだ。その足元には、もう1つの白く丸い繭もあった。


「あれほど巨大な繭から、一体どのような怪物が生まれるというのか……!」


 繭型の建物は、異世界の英雄たる俺の好奇心を強く刺激した。だが、今回の目的はダンジョンの攻略とだ。彼奴と対峙するのは、今ではない。

 俺は太陽の位置を確認し、方角を確認しようとした。だが、肝心の時間がわからぬ。やはり、方角も誰かに聞くしかあるまい。


 先ほどの階段を降り、俺は再び地下へと潜った。気のせいかもしれないが、先ほどよりも人の数が増えているような気がする。まあいい、その方が情報も集まりやすいというものだ。


「む、彼は迷宮を守護する兵士だろうか」


 俺が見つけたのは、“京王”と書かれた地下迷宮の壁付近に立つ、黒い服と黒い帽子を身に付けた真面目そうな男だった。京王――この異世界の君主のことだろうか。きっと、彼は君主を守護する衛兵なのだろう。


「失礼、少し訊ねたいのだが」


 俺が真面目そうな衛兵に話しかけると、彼は誠実に対応してくれた。


「どうされましたか?」


「俺はを探している冒険者なのだ。実は、方角がわからなくなってしまってな。東へ行きたいのだが、どう行けばいいだろうか?」


「……黒き巨獣、ですか。少々お待ちください、確認してまいります」


 そう言うと、兵士は壁に備え付けられていた扉を開け、中へ入っていった。その時、遠くから響いてきた謎の声を俺の鋭い聴覚が捉えた。


『2番線から各駅停車、京王八王子行きが発車いたします』


「ふむ、京王八王子……京王には8人の王子がいるということだろうか。やはり、王位は長兄が継ぐのだろうか、それとも……」


 俺が異世界の複雑な権力闘争に想いを馳せていた時、先ほどの衛兵がニコニコと笑顔を浮かべながら戻ってきた。


「どうだ、何かわかったか?」


「ええ、ここから反対方向に進んでいくと、東西自由通路があります。そちらを通っていただければ、すぐに東口方面へ出られますよ。東口から地上に出れば、きっとその黒き巨獣というのを見つけられますよ」


「そうか! 感謝する!」


 東へ行くまでに長く険しい冒険が必要かと思っていたが、まさか自由通路があるとは思っていなかった。きっと、歴代のダンジョン攻略者たちによる努力の結晶のような通路なのだろう。


 先人に感謝し、俺は東西自由通路を目指して歩き始めたのだった。

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