第3話 刑事たちの事情
この鑑識探偵は名前を岸辺さんという。皮肉と敬意をこめて、人によっては彼のことを、
「岸辺探偵」
と言っているが、本人も口では、
「照れる」
というが、まんざらでもない。
そのことを一番よく分かっているのは、ペアになることが一番多かった桜井刑事で、二人のコンビは、実際に何度か事件解決に大いに貢献してきたのだ。
二人の会話で一番気になったのは、敢えて触れなかったのか、死亡推定時刻が数日前だということだった。
鑑識の、とりあえずの初検は終了したことで、次には、第一発見者の尋問だった。普段なら、鑑識官は、遺体を引き上げるのと一緒に、ついていくのだが、岸部氏は、第一発見者の話だけは聴いていくことにした。
桜井刑事は、若い刑事に引率されるように、第一発見者のところに行くと、少し、なれなれしいくらいにへりくだった様子で、
「少しお話をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
と、やはり年配の人間に対しては、敬意を表するという意識があるからなのか、聞き込みなどでは、相手によって、結構態度が変わる桜井刑事を、若い刑事は、興味深く見ていたのだ。
この若い刑事は、名前を黒沢刑事という。
「すみませんが、お名前とご職業の方を教えていただけますか?」
と聞かれた第一発見者は、
「はい、私は佐川というもので、このお濠を挟んだ大通りの向こう側にある、当たりに住んでいるんですが、前は法曹関係の事務所で事務員をしていまして、今は定年退職しまして、無職です」
ということであった。
「ああ、そうですか。それで早朝は、こちらでお散歩されるのが、日課になっているわけですね?」
といって、桜井刑事は、ジャージ姿の佐川氏を上から下まで眺めていた。
しかし、そのあたりも失礼に当たらないようにという配慮の元だったので、決して怒りに触れるようなことはなかった。
「ええ、まあ、そういうことなんですよ。こちらのF城は昔から好きで、ここの門と櫓を見ながら、昔は天守台まで行ってみたり、その先の多門櫓を横目に見ながら、帰ってきたものです。時間にして、歩くだけで30分以上はかかりましたね」
というのを聞いて、
「それは結構なものですね、今も同じコースをずっと?」
と言われ、
「いやぁ、さすがにそこまではきついですので、天守台も近くまで行って引き返したり、別の時は、天守台に近寄らず、歩道を多門櫓あたりまで行って引き返す感じですね」
というのだった。
「じゃあ、時間にして、徒歩で20分もかからないくらいですか?」
と聞かれた佐川氏は、
「ええ、その通りですね。あんまり歩いてもきついだけですからね」
と答えた。
「じゃあ、お隣の外濠公園の方には行かないんですか?」
と聞かれたので、
「ええ、あちらはジョギングの人が多いでしょう? それに人が多くてですね。私も高齢者の仲間入りをしていますので、例のパンデミックの時から、なるべく、少しでも人が多いところは避けるようにしているんですよ。しかも、ジョギングですから、ノーマスクで、呼吸も荒いわけでしょう? わざわざそんなところに近づこうなんて思いませんよ」
というのだった。
それを聞いて、
「さすがは、法曹関係で事務員をしていただけのことはある」
と、桜井刑事は感じた。
同じことは、岸部鑑識官も案じていたようで、この、
「パンデミック」
という言葉を聞いた時、思わず桜井刑事は、岸部氏を見返したくらいだった。
というのも、岸部氏は、一度、ウイルスに感染したことがあった。
何度目かの波の時で、まだ、致死率の高いものだったので、数日間、集中治療室に入っていたことがあった。
今でこそ、完全復活してきたが、それでも、その後遺症のようなものがたまにあるのか、「頭痛がして、どうにも仕事が続けられない」
ということで、早退して、そのまま数日ほとんど動けず、仕事にならないということもあったりした。
後遺症の話は、警察でもよく聞いていたので、署長を始め、署の幹部もそのあたりは考慮していて。
「完全に治してから、復帰してくれ」
と、暖かい言葉をかけていた。
当時はまだ、なかなか、
「新型ウイルスに罹った」
といえば、偏見や誹謗中傷が多かった時代だったので、一度治ってしまうと、後遺症で悩まされている人に対して、会社などでは、
「何を甘えたことを言ってるんだ」
あるいは、
「伝染病を言い訳にして、仕事をさぼろうというのか?」
などと、偏見の目が激しかったものだ。
だから、無理して会社に行っても、頭痛が激しくて仕事にならないという地獄の状況に必死に耐えている人も少なくはなく、最近でこそ、それら後遺症のことをニュースで取り上げられるようになったので、世間的にも、
「パワハラ」
と言われるようになり、上司が部下を罵るということは減ってきたようだが、今だ、そんな、パワハラを繰り返している、
「ブラック企業」
も少なくないようだった。
ブラック企業というと、桜井刑事がこの間、担当していた事件で、一人の男が自殺したというものだったのだが、本当に自殺かどうか、疑問点が多かったことで、桜井刑事が中心になって、その疑惑を捜査していたのだが、その亡くなった人も、どうやら、会社からパワハラを受けていたようで、結果は自殺だったのだが、遺書もなく、
「自殺らしからぬ自殺だった」
ということで、どうやら、
「警察に捜査が及ぶような死に方」
だったようだ。
そのおかげで、パワハラが立証されることになり、その自殺者は、報われることになったのだが、どうにも、後味の悪い事件であった。
「確かに、パワハラなどが解明されたのは、彼の自殺のおかげなんだけど、他に手はなかったのかね。何も自殺をしなくてもいいのに」
と思うのだった。
昔であれば、
「死ぬ気になれば、何だってできる」
と言われ、自殺を思いとどまらせたものだが、最近は昔に比べ、
「死をもって、警察に捜査をさせる」
というようなことも多くなったと言われているような医がする。
「死んで花実が咲くものか」
という言葉があるが、少なくとも、刑事のような仕事をしていれば、その言葉は身に染みて感じる。
そもそも、自殺であろうが、他殺であろうが、
「人が死ぬ」
ということには変わりはない。
特に、一度、新型ウイルスに罹り、苦しんだ人間は余計にそう感じることであろう。
「俺は、本当にあの時の苦しみが忘れられない。今、マスクもしないで、まだまだ感染者が多い中で、まるで何もなかったかのように遊んでいる連中を見ると腹が立つ。確かに、あいつらは、重症化しにくいと言われる年齢なんだけど、あいつらが、ほとんど症状がないのをいいことに、遊びまわることで、他の人に迷惑がかかることになるんだ。そんなことが許されるのか?」
と、いかにも、
「実際に苦しんだ人間」
がいうのだから、これ以上の説得力はないだろう。
岸部氏の性格も人間性も分かっているだけに、桜井刑事も、その気持ちが多かった。
桜井刑事も、岸部氏も、立場は違えども、同じことを考えていたというのは、決して偶然というものではなかったのだ。
「ところで、あなたは、毎日お散歩をされているんですか?」
と聞かれた佐川氏は、
「ええ、そうですね、定年退職してから、そろそろ1年が経とうとしますが、毎日の行動パターンは変わりませんね」
という。
「それは、お散歩以外にもということですか?」
と聞かれた佐川は、
「ええ、そうですね。大差はないといって差し支えないと思います」
というではないか。
それを聞いて、桜井は急に羨ましくなった。
他の仕事についていれば、時間から時間の仕事で、適度な残業をするだけという平凡な毎日に憧れることが、最近はよくあった。
年齢的にも、完全に仕事をバリバリにこなしていて、顔が脂ぎって見えるのも、
「充実した仕事ができているからだ」
と自他ともに見えていた。
しかし、内心では、
「毎日毎日、24時間、365日、どこで何が起こるか分からないという緊張感は、そうずっと持っていられるものでもないな」
と感じていて、
「そのうち、身体のどこかが悪くなるのではないか?」
と思えてくるようで、そのあたりも気になってきていたのだ。
それこそ、気が弱くなってしまうと、いつ、新型ウイルスに侵入されるか分からないということで、しかも、その苦しみは、目の前で岸部氏が示してくれたではないか。それを思うと、
「そう甘くは考えていてはいけない」
と思うのだった。
「毎日、同じ行動ができるというのは、実に羨ましい」
と、軽く見えるように桜井刑事は言ったが、それが本音であることは、黒沢刑事も、岸部氏も十分に分かっていて、
「そのセリフは俺がいいたいくらいだ」
と、二人とも心の中で思っていたことだろう。
若い黒沢刑事の場合は、自分が伝染病に罹ったわけではなかったが、彼女が一度罹ったことがあった。
それまで、警察でも内緒にして付き合っていた相手だったが、彼女とは、高校時代の同級生で、
「同窓会で再会した」
というベタなことだったのだ。
当時の彼女は、横行時代とはかなり雰囲気が変わっていて、昔は目立たないおとなしい子だったのに、再会した時は、想像以上に可愛くなっていて、どこから見ても、めだつぃつぷだった。
もし、彼女が高校時代から目立つタイプの子だったら、スルーしていたかも知れない。しかし、彼女の豹変ぶりは、黒沢刑事を仰天させたのだ。
しかも、彼女の方から、
「黒沢君、久しぶりね」
と話かけてくれた時は、有頂天になっていたのだった。
彼女は、
「今だからいうけど、私、黒沢君に憧れていたのよ。でも、当時は地味な女の子だったので、とても告白する勇気もなかったんだけど、それから、一念発起して、大学に入ってから、目立つ友達のそばにいて、結構目立つことを覚えたの。それもこれも、こういう機会があれば、今度はちゃんと告白したいという一心でね」
というのだった。
これは、さすがに、
「有頂天になるな」
という方が無理というものだ。
その言葉を聞いて、ドキドキしながら黒沢刑事も、自然と、彼女にのめりこんでいく。
といっても、彼女が悪い女というわけではない。見た目は、
「魔性の女」
に見えなくもないが、何しろ高校時代の目立たない彼女を知っているのだから、それも無理もないことだろう。
黒沢が彼女と恋仲になるまでには、時間が掛からなかった。
「お互いに求め合う仲だったんだな」
と黒沢のこの言葉がすべてを表していた。
二人はすぐに結ばれ、一応、警察にはしばらくの間内緒にすることにした。
これは、黒沢の思いでもあったし、彼女の方の気持ちでもあったようで、そこに、わだかまりはまったくなかった。
そのうちに、パンデミックが起こり、結構最初の頃に彼女は感染した。
「濃厚接触者」
ということで、
「まさかこんなことで」
というようなことによって、二人の関係が警察に。
「バレた」
のだったが、それは、仕方のないことであり、別に誰が悪いわけでも、そもそも、二人の交際が悪いわけでもないだろう。
もっといえば、二人の交際は純愛だった。彼女の見た目が、少し、
「ケバい」
という程度で、彼女と話をした人は、皆彼女が誠実な女の子だということを分かってくれていたのだ。
桜井刑事も、部下のことなので、彼女とも会ったりした。
この時は、黒沢刑事が、仲を取り持つ形であったのだが、そんな堅苦しいこともなかった。
堅苦しいと思っていたのは、むしろ黒沢刑事の方で、
「そんなに固くならなくてもいいぞ」
と桜井刑事に言われて、恥ずかしがる黒沢刑事のその時の顔は、すっかり刑事の顔ではなかった。
「黒沢さんは、本当に学生時代から真面目な方だったので、ずっと憧れていたんです」
と、桜井刑事を前にして、彼女は、臆面もなくそう言い切るのだった。
それを見て桜井刑事も、
「黒沢君には、これくらいの女の子の方がいいかも知れないな」
と、思った。
そもそも、黒沢刑事は、彼女のいうように、真面目な性格であったので、それだけ前のめりなところが一切ない。引っ込み思案なところが欠点だといってもいい。刑事としては、マイナス面が多かったのだ。
だが、刑事が、皆が皆、最初から一人前だったわけではない。もちろん、桜井刑事のように、
「いかにも刑事になるために生まれてきた」
とまわりからいわれるような人もいたのだが、そんな刑事ばかりではなかったのだ。
そういう意味で、黒沢刑事も、
「まだまだこれからだが、その分、のびしろというのがあるというものだ」
と言われていた。
そんな黒沢刑事の彼女が伝染病に罹り、やはりというか、言い知れぬ思いに駆られることなのだが、復帰した会社では、かなりひどい目にあったようだ。
「伝染病に罹ったのは、自分の注意が足らなかったからだ」
と言われたり、
そのいつもの目立ついでたちから、
「どうせ、男をとっかえひっかえしているうちに、誰かから移されたんじゃない?」
などという誹謗空将が飛び交っていたのだ。
さすがの彼女もノイローゼのようになり、精神疾患に陥ってしまっているようだったが、黒沢にはどうすることもできなかった。
彼女はさすがに居たたまれなくなって会社を辞め、しばらく実家に引きこもっていたのだが、黒沢は何とか、彼女をサポートしていたのだ。
幸いにも黒沢の実家と彼女の実家は近くであり、親同士も仲がよかったので、付き合い出してから、少しして、
「俺たち付き合っているんだ」
と、それぞれの家庭に挨拶にいったくらいだった。
黒沢は有頂天になっていて、彼女の方も嬉しそうにしているので、その時は本当に一番楽しい時期だったのかも知れない。
ただ、黒沢も刑事という職業柄、いつもいつも楽しいというわけにはいかないことは分かっているので、
「ここが正念場だ」
と思うようになったのだ。
彼女は、病気が治ると、幸いなことに後遺症に悩まされることはなかったが、まだ、精神的には、完全ではないので、定期的な心療内科に通院はしていた。
黒沢が、彼女との結婚を真剣に考えるようになったのは、彼女の精神疾患がまだ続いていたからだった。
「結婚するなら彼女しかいない」
ということは、黒沢刑事も分かってはいたことだが、真剣に考えたのは、その時が最初だったのだ。
「今後どうするかというのは、彼女の様子を見ながら少しずつ考えていくとして、俺は彼女と結婚したいと思うんだ。いいだろうか?」
と両院にいうと、
「お前たち二人がそれでいいというのなら、反対することはない。彼女ならわしたちも、願ったり叶ったりだ
といってくれた。
「ありがとう」
と言ったうえで、問題の彼女の家に乗り込んだ時、彼女の両親も、奇しくも自分の両親と同じことを言った。
それを聞いて、二人は安心した。
とりあえず、結婚の気持ちだけは伝えておいたのだから、安心というものだ。
そうしておいて、黒沢は、警察の仕事に戻ってきたのだが、これらの一連の彼女との話があったのが、今から3カ月前と、まさに最近のことだったのだ。
そのうちに、パンデミックもいろいろと、ウイルスの変化によって、変わってきている。そんな状態は、当時が一番のピークだったのかも知れない。
医療崩壊も起こってきているようで、毎日のようにニュースが報道している。ただここにきて少し数が減ってきているのは、
「頭打ちの状態だった」
ということであろうか。
それにしても、医療崩壊はひどいものだった。
「救急車を呼んでも、すぐには来ない」
あるいは来てくれても、受け入れ病院がないということで、救急車の中で延々と病院を探し、ひどい時には、
「100軒近くの病院から断られた」
といって、救急車の中で、どうすることもできず、ただ患者に応急手当だけをしているという状態で、結果死んでいくのを黙って見ているしかなかったということであった。
そもそも、
「どうせ俺たち若い者は重症化しない」
などといって、ワクチンも打たない連中が、マスクを外したりして、騒いだりしている。
そんなのを見ていると、
「俺たちさえ楽しければ、後の連中はどうなっても構わない」
といっているようなものだ。
下手をすれば、
「他のやつは死のうが生きようが、俺たちには関係のないことだ」
といっているようなものではないか。
そんなことを考えると、歯ぐきから血が滲み出るほどの悔しさで、歯を食いしばってしまうことを、無意識にしてしまいそうになるくらいであった。
「ここまで人間というのは、おろかなものなんだろうか?」
と言いたいくらいだ。
世の中というものがどんなものなのか、黒沢も桜井も、岸部も、皆感じていることだった。
黒沢としても、幸いというといけないのだろうが、後遺症が肉体的に残らなかったのはよかったのだろうが、それにしても、彼女があそこまで神経を蝕むほどのまわりからの圧力がどんなものであったのか、想像もつかない。
勧善懲悪の気持ちをもって、警察に入ってきたのに、結果これだと、
「一体どうすりゃあいいんだよ」
とその憤りをどこにぶつけていいのかと思うと、
「しょせんは、警察なんてこんなものだ」
と思い、真剣、
「辞めようか?」
と考えたのも事実だったのだ。
ただ、警察に何の恨みもあるわけではない。確かに、昔からいわれるような、
「縦割り社会」
で理不尽なことも多いが、我々が動くことで世の中は何とかなっているのだ。
逆に、
「我々がやらないと、どうにもならないのが世の中というもので、警察を辞める辞めないという判断をしている時というわけではないのだろう」
と考えたのだ。
だから、黒沢刑事は警察を辞めることなく、これまで通り、桜井刑事についてきていた。桜井刑事も。黒沢刑事の苦しみも分かっていて、敢えて何も言わなかった。
「もし、どうしても、助言が必要な時は自分から言ってくるだろう」
と思ったからで、それは桜井刑事が黒沢刑事の性格を熟知しているからで。だからこそ、
「自分の後継者に」
と、自分が、昇進し、現場畑から退いた時のエースを黒沢刑事だと思っていたのだった。
「黒沢刑事は、よほどのことがない限り、自分から弱音を吐くことはない。そんなやつになまじ優しい言葉を掛けると、精神的に張り詰めていた糸がプツンと切れてしまい、糸の切れた凧のように、どこかに飛んで行ってしまうそうになるだろう。だとすれば、変に話しかけない方がいいんだ」
と感じたのだ。
だから、余計なことを言わずにいると、自浄作用がはたらいて、自分で何とかしようと思うようになり、それが解決の一番の近道だと思ったのだった。
「自浄作用も現れなければ、俺が何を言っても同じだ」
と思った。
実際にどうにもならなくなった時、やつだったら、きっと相談してくれるだろう。
ただ、相談してくれた内容がどんなものであるか、正直想像もつかないが、決して安易に答えを出せない代物であることは分かっている。それだけに、こちらも覚悟を持って臨まないといけないだろうと思うのだ。
桜井刑事は、
「たぶん、今聞いても、自分の中で整理ができていないだろうから、一歩間違うと勘違いをしてしまい、下手なことを言って間違った判断をさせかねない。彼はそれだけ、私のことを慕ってくれているのだし、そこを間違えると、完全に裏切り行為になってしまい、助けるどころか、追い詰めてしまうことになるだろう」
と思うのだった。
桜井刑事も、自分にも同じ時期があった。その時、本部長である、門倉本部長に相談に乗ってもらっていた。
「俺も、今の署長から、いろいろ教えてもらったよ」
と門倉本部長も笑っていたことから。
「これが刑事畑における。皆が昇る階段というものなんだろうな」
と感じたのだ。
黒沢刑事も、今そのことを感じているだろう。
救いは、彼女の精神的な病気がさほど重いものではないということだ。
「普通に、ストレスをためないように生活をしていれば、それでいい」
と言者はいうが、
「実はそれが一番難しい:
ということを一番分かっているのも、黒沢刑事ではないだろうか?
医者に対して、
「そんなの分かってますよ。でも、それが一番難しいんじゃないですか?」
と文句を言ったところで始まるものでもない。
「はい、そうですか」
といって、聞いていれば、話の中で、本当に核心に触れるようなことがあるような気がして、
「医者には好きなように喋らせればいいんだ」
と思うようになったのだ。
それを思うと、黒沢刑事も、次第に溜飲が下がっていって、
「とりあえず、今の毎日をしっかり生きるんだ」
と考えるようになったのだ。
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