第2話 鑑識官
警察はそれから、すぐにやってきた。普段はまったく人通りのない、しかも早朝にも関わらず。どこで聞きこんできたのか、マスゴミも数人いるようだった。
「そんなに、この街は平和なのか?」
と思ったが、そうでもない。
やはり、普段は人通りのない城址公園というこの場所で殺人事件というだけで、何か不気味なものが感じられるのだろう。
刑事が3人、そして、鑑識が3名ほど来て、無言で、物々しい捜査が、黙々と行われていた。
しかし、時々無線でどこかから指示があっているのを聞くと、いかにも犯罪現場であるという雰囲気が漂っているのだった。
門の入り口のところでは、パトカーのパトランプが、音もなく、クルクル回っていて、その近くでは、黄色い、
「立ち入り禁止」
などと書かれた。
「規制線」
が張られ、警備のための警察官が立っていた。
刑事が二人、その場にしゃがみこんで、倒れている死体を見ながら、ひとこと二言話している。声は聞こえないが、緊張だけは伝わってきたのだ。
そこに鑑識を呼んで、いろいろ調べてもらっているようだった。
第一発見者とすれば、ただ、その様子を見ているしかなかった。
実際の刑事の会話というのは、
「最近、この手の犯罪はなかったと記憶しているが」
と一人がいうと、
「ええ、そうですね。最近は、ここに限らず、通り魔的な犯罪はなかったということであれば、誰か顔見知りの犯行ということでしょうかね?」
という。
「こんな。寂しいところで死んでいるんだから、呼び出されたと考えるのが普通じゃないかな?」
「ということは、人通りのないところに呼び出して、一思いに刺し殺すということでしょうか?」
というので、
「通り魔の犯行でなければ、その可能性が高いでしょうね」
ということであった。
二人の刑事は、被害者の顔を覗き込んで、
「見覚えはないですね」
と二人とも記憶にない顔だという。
少なくとも、普段から警察にマークされたり、警察のお世話になるような人間ではなさそうだった。
白い手袋が、目立っていて、二人は殺されている男の服を物色していた。
この時期は、晩秋から、冬に向かいかける時期なので、コートを射ていても不思議のない時期、
その男もコートを着ていることから、やはり、殺されたのは、昨夜ということではないかと、第一発見者の男も感じていた。
刑事が最初に気になったのは、
「あまりまわりに血が飛び散っていないな」
ということであった。
これは第一発見者も気づいたことだったが、彼も結構敏い方だということであろう。
そんなことを考えていると、さらに刑事が疑問を呈していた。
「この城門は、確か監視カメラがあるんじゃなかったかな?」
と言いだした。
「桜井刑事、よく知ってますね」
と、若い刑事から名前で呼ばれたのは、桜井刑事という30代後半くらいの、バリバリといってもいい雰囲気の刑事だった。
体格も、
「まるで、柔道選手を思わせる」
というような佇まいで、顔も少し赤く見えるのは、それだけ、
「事件に対して、のめり込んでいるのではないか」
と思わせるのだった。
「私はこれでも、実はお城が好きなもので、よく知っているんだけど、実はここの門は、20年くらい前に不審火があって、燃えたことがあったんだよ」
という。
「不審火? それは放火だったんですか?」
と言われた桜井刑事は、
「いや、どうやら原因は分かっていないんだよ。放火の疑いも十分にあったんだけど、何しろ、ここは国宝とまではいかないが、県の重要文化財なので、放火だったら、情状酌量の余地はないんじゃないかな?」
というのであった。
「じゃあ、タバコの火の不始末か何かですかね?」
というのだが、
「それもあると思う。ただ、それにしても、こんなところでタバコを吸うような不届きものはいるんだろうか?」
と桜井刑事がいうと、
「そりゃあ、いますよ。ただでさえ、タバコが吸える場所がどんどんなくなっていた時代でしょう? 20年前というと、私もその頃は子供だったからあまり記憶はないけど、大人が、一体どこでタバコを吸えばいいんだって愚痴をこぼしていましたよ」
というのだ。
「なるほど、確かにそうかも知れないな。言われてみれば、今でも、このあたりに、吸い殻が落ちていたりするからな」
といって、桜井刑事が、吸い殻を指さした。
「えっ? 桜井さんはあの吸い殻が見えるんですか?」
といって若い刑事が驚いている。
すると、その横から、鑑識官が、
「やっぱり桜井さんすごいですよ。私もさすがに目はいい方だという自負はありますが、ここまでいいとは思えませんね」
というのだった。
鑑識官も、正直、ある程度の目がよくないと務まらない仕事であるが、この鑑識官は、結構な年配で、前に桜井刑事が年齢を聞いた時、
「もうそろそろ50歳になるところです。そろそろ私の後継者を作っておかないと、都市には勝てないという年齢に差し掛かってしまいますからね」
といって笑っていたのを思い出した。
その時も、
「桜井刑事くらい目がよかったり、勘が鋭かったりすれば、鑑識でも立派にやっていけますよ」
というと、桜井刑事は、苦笑いをしながら、
「いえいえ、私は刑事という仕事が似合っていますから」
と言ったが、鑑識官も、
「もったいないですね」
と言いながら、本当に悔しそうな顔をしているが、まんざらでもない顔をしているのは、その時の桜井刑事が本音だったのが分かったからだ。
「桜井刑事くらい、自分の仕事に誇りを持っている人が私の後輩にいてくれたら、私の鑑識術というか、ノウハウを、すべて叩きこんであげたいんですけどね」
といって、苦笑いをすると、
「それは、伝授される方も大変ですよね」
と桜井刑事が突っ込んでいた。
二人は、同じ現場で一緒になることも多く、
「結構いいコンビだ」
と言われることも多かったのだ。
「ところでその吸い殻なんですけどね」
と鑑識官がもったいぶったような言い方で声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「いや、喫煙者の桜井刑事には、少し気になることかと思ったんですけど、今は吸い殻から、結構いろいろなことが分かる時代になってきたんですよ」
というではないか。
「いや、私は確かに喫煙者ですが、ちゃんとマナーは守ってますからね」
とくぎを刺すような言い方をした桜井刑事は、これが、鑑識官の皮肉であるとともに、皮肉な言い方をすることで、その言い方が印象的であることから、
「この話は重要なことです」
ということを含んでいるということが、二人の間の暗黙の了解のようになってきたのだった。
「10年くらい前に起こった、飲食店チェーンの社長殺害事件を覚えていますか?」
と聞かれた桜井刑事には、その事件の印象が深かったのか、
「ああ、もちろん、覚えているさ。確か、ヒットマンがやったという話が実しやかに囁かれていたけど、決定的な証拠が出なかったことで、逮捕状が出なかったというのを聞いたんだよな」
「そうなんだよね。あの事件というのは、狙撃をしたと思われるその場所に、タバコの吸い殻が落ちていて、その吸い殻が、あまりにも都合よく落ちていたので、後から誰かが、その男を犯人に仕立てるために、わざとやったのではないかということで、そのタバコを本人が吸っていたという証拠が出てこない限り、犯人にはできないということで、問題になったんだったですよね」
と桜井刑事が聞くと、
「ああ、そうなんだよ。だから、決定的な証拠がないので逮捕できなかった。しかも、その日は小雨が降っていたので、雨に濡れたタバコというだけでは、証拠にならなかったんだよな」
と鑑識官がいうと、
「ええ、本当にそうですよね。ヒットマンさえ逮捕できれば、少しは事件の真相に辿り着けるかも知れない。真犯人は、金を使って、実行犯を雇い、殺しをさせるなどという実に卑劣なやり方をしているわけで、許せることではないですよね」
と、いかにも、
「勧善懲悪の気構え」
で、桜井刑事は、鼻息が荒かった。
「だけど、最近、それが急転直下逮捕ということになったんだよな」
と鑑識がいうと、
「あれは、結局どういうことだったんですか?」
と桜井刑事が聞くと、
「あれはね、科学捜査の進歩だったんだけど、あのタバコを容疑者が吸ったというれっきとした証拠というわけではないんだけど、あのタバコに沁みついていた成分が、その日に降った雨と、成分に矛盾がないということが分かったので、逮捕状が出たんですよ。れっきとした物証ではないので、本当の証拠能力まではないんだけど、矛盾はないということで、逮捕状を請求できるところまでの根拠になったということは、結構な進歩だったということでしょうね。元々、逮捕状が請求できないというところが、かなり裁判所も慎重だったということでしょうけど、これで一歩前進。ただ、問題は、検察と警察ですよね。これで自白まで持っていけなければ、避難されるのは、検察であり、警察であり、逮捕状を出した裁判所でしょうからね」
と監察官が言ったが、
「裁判所は大丈夫なんじゃないでしょうか? 逮捕状を出せるというところまで進歩したということで、若干、和らいだわけなので、警察も捜査の幅が広かるわけであって、警察はここからが正念場。こじ開けてくれた裁判所に感謝こそすれ、まさか、余計なことをしてくれたなどと思っているわけはない。もしそんなことを思っている警察官がいれば、そんなやつは、警察官の風上にもおけませんよ」
というのだった。
「まあ。そうかも知れないな」
と、少し考える時間ができたことで、その場の空気が重たくなってしまった。
「ところで、今回の事件とその事件が何か?」
「ああ、いや。ここにも吸い殻があるだろう? これは、ひょっとして犯人の落としたものではないかということが分かれば、そこから、被害者の交友関係の中から容疑者を絞ることもできないだろうか?」
と鑑識官がいうのだった。
「ということは、何からでも、犯人が分かるということになるんですかね?」
と桜井刑事がいうと、
「そうなんだよな。そして、さっき、桜井刑事が言っていたことに、この事件を解くカギがあると思ったんだが、自分で気づいたかな?」
と鑑識官が言った。
「私が言ったこと?」
と、桜井刑事が忘れているようだったので、
「だって、さっき、君が問題提起したじゃないか。ここは20年前に、火事になったんだろう?」
と鑑識官がいうと、
「ええ、そうですよ。だから、その話で今あなたが、昔の事件のお話をしてくれて、そこから話が弾んでいこうとしているわけではないですか」
というのであったが、
「だったら、その元になった話を思い出したら、まず最初にすることがあるだろう?」
と言われて、初めて、
「ああ、そうか、そういうことですね」
と桜井刑事は大きな声で、まるで何かが弾けたような気持ちになったのか、気分的にも晴れているようだった。
しかし、若い方の刑事はピンと来ていなかったので、
「そうかそうか。君にとってはあまりにも当たり前すぎることなので、ピンと行いのかも知れないな」
と、鑑識官が、若い刑事をフォローした。
このフォローは、鑑識官がするからいいのであって、これを桜井刑事がしてしまうと、皮肉にしかならない。そのことを二人は分かっているから、桜井刑事は何も言わなかったし、それを見た鑑識官はこたえたのだ。
これが二人の、
「阿吽の呼吸」
だったのだ。
「まだ分からないかね?」
と若い刑事に、鑑識官はニコニコしながらいい、桜井刑事も優しそうなまなざしを向けた。
二人は別に苛めているわけではない。こうやって焦らしておくと、答えを聞いた時に、その衝撃が深いのだ、
今回の話は答え自身には、若い刑事を鼓舞するものは何もない。ただ、先輩二人が励ましという激励をくれていることに大いなる意味があるのだった。
「じゃあ、桜井君に答えを出してもらおうか」
と鑑識官がいうと、
「分かりました」
という桜井刑事を見ている、若い刑事をけん制するつもりで、
「監視カメラだよ。一度ここは火事になっているわけはないか。つまりは、一度火事になって、自治体が復興しているわけだよ。そうなると、ここには、監視カメラと、スプリンクらが作動することだって考えられる。それも、少々くらいの煙でも反応するやつだと思うんだ。何といっても、ここは室外なので、風だってある。それを考えると、よほどの感度じゃないと難しいんじゃないかと思うんだ」
と、桜井刑事は言った。
「あっ、そういうことですね」
と若い刑事は、堂々巡りを抜けたかのような気分になっていることだろう。
「そうなんだよ。今彼が言ったように、スプリンクラーが作動しなかったということは、タバコを吸っていなかったかも知れないし、ひょっとすると、電子タバコかも知れない。だけど、監視カメラというのは、大きな証拠になるんじゃないか?」
ということであった。
「なるほど、このあたりは夜は、ほとんど人はいないだろうから、監視カメラに映っている人がいるというだけで、怪しいだろうな。まずは、自治体に対して、捜査令状を取るようにした方がいいんじゃないかな?」
と桜井刑事は言った。
「そうですね、早速手配するようにします。ところでさっきから、第一発見者の人を待たせているんですが、どうしましょう?」
と若い刑事がいうので、
「ああ、少し話を聴いてみよう」
と桜井刑事は、自分から、第一発見者のところに向かったのだった。
第一発見者の前に行く前に、鑑識によって、少し分かったことをここに書き出そう。
まずは、死因であるが、胸に刺さったナイフによるものだということは分かった。ナイフを抜かれていなくて、血が止まった状態で死んだので、ショック死ではあるが、普通よりも、死ぬまでに時間が掛かったかも知れないというのが、鑑識の見解だった。
ただ、一つ気になるところは、死後硬直などを見ても、少なくとも、
「死後数日は経っている」
ということであった。
これに関しては、少し、鑑識官と桜井刑事の間で、話が交錯しているようだったのであったが、
「それは、どういうことですか? 確かにいくら人通りが少ないといっても、そんなに何日も見つからないというわけではなかったわけだろうから、被害者は、他で殺されて運ばれてきたということですか?」
と、桜井刑事がいうと、
「私はそう思っているね、その証拠というか、裏付けになるようなものがあるじゃないかとも思うんだ」
と鑑識官がいうと、
「どういうことですか?」
と聞くと、
「この犯人が、ナイフを深く突き刺したのは、いくつか理由があると思うんだ。その一つが、ここで殺害されたのではないということを証明するということだよね?」
という。
「意味が分からない」
と桜井刑事がいうと、
「だって、死亡推定時刻なんて、警察が調べればすぐに分かることで、数日は経っているなんてことは、司法解剖に回すまでもなく分かることなんだよ。それを考えると、被害者の胸にナイフがあったのかということは、それだけのためではないということだと思うんだよね? もちろん、死体を移動させれば、すぐに分かるし、血が出ていれば、血糊で、車で運んできたんだろうから、車を置いた位置まで確定される。普通なら車をどの位置に置いたかなど関係ないんだ。それを隠そうとしているところに、何かこの犯人が、用心深いのか、それとも、何か別のことを考えているのか、そのあたりが微妙な気がするんですよね」
と、鑑識官は、少し歯に何かが挟まったかのような曖昧な言い方をしている。
この人がこういう言い方をしている時というのは、それだけ、何かを考えているということであり、それが案外、的を得ていたりする。だが、悲しいかな刑事ではないので、刑事としての勘のようなものがないため、どう表現すればいいのか、迷うところなのだろう。
桜井刑事の、
「刑事としての勘」
とがうまく嵌った時、今までに何度事件を解決してきたことか。
お互いに、それぞれ相手を尊敬し合っている気持ち。それが、大切なのであった。
「でもね。今度の死体にがいくつかの焦点があると思うんだよ。一つが、胸から抜かれていないナイフ。そして、防犯カメラがあるであろうということを、犯人が知っていたかどうか。普通犯人が犯行を犯そうというのであれば、防犯カメラの有無くらいは確認すると思うんだよね。だって、人が来ないところというところまで考えて犯行現場を確認している人間が、防犯カメラくらい確認しないわけはないだろう? そして、もう一つ言えることは、死体をなぜ、今日になって放置することになったか。たぶん、ここを早朝散歩している人も多いと思う。第一発見者だけではないだろうから、少なくとも、昨日のこの時間には、そこに死体はなかったと思うんだ。それを考えると、なぜ今日なのかということもいろいろ考えられるよね。今日でなければいけないのか? それとも、今日より前だったらまずかったということなのか? そう考えると、犯人のアリバイというものも絡んでくるかも知れない。そのあたりは桜井君の捜査によってくると思うんだけど、私も、桜井君と一緒にいるようになって、結構勉強したからね」
といって、鑑識官は微笑んでいた。
まるで話を聴いていると、私立探偵と話をしているようだ。
そもそも鑑識というのは、科学で証明された事実から、いろいろな推理をするのが、科捜研だったりするので、そのあたりの頭脳派併せ持っていることだろう。
それを思うと、桜井刑事も、鑑識官は、この人だけではなく、他の人も皆、敬意を表して、見ていたり、リスペクトするくらいの気分になっていることだろう。
ただ、少し気になったのは、防犯カメラの件だった。
「さっきの話と随分違っているな」
ということが気になったのである。
「ところで、なんでさっきあれだけ、防犯カメラを私に引き出すために、あんなに引っ張ったのに、今は犯人が確認していないかどうかを口にしたんですか?」
と、桜井刑事は聴いた。
「もちろん、最初は、桜井君に気づいてほしいと思ったからさ。桜井君は、完全に、堂々巡りに入っているんじゃないかって思えたんだよ。まだ事件の入り口にしかいないのに、こんなところで堂々巡りを繰り返すような人間ではないことは私が一番知っていると思っているからね」
という。
「だったら、どうしてですか?」
と桜井刑事が聞くと、
「それは、私も何とも言えないんだよ。確かに、防犯カメラのことにすぐには気づいたんだけど、君は、そのことに気づかない。最初は灯台下暗しだと思ったのさ。あまりにも目の前にありすぎて、ピンとこないというかね?」
と鑑識官がいうのを聞いて若い刑事が、
「それは二人が噛み合っていないからなんじゃないですか?」
というのを聞いて、鑑識官は、
「ひょっとすると、私か桜井君のどっちかに、この事件の真相とまではいかないが、何か考えるところがあったんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろう?」
というのを聞いて、桜井刑事も引っかかっていた。
「言われてみれば、今回の事件とどこか似たところがあるような事件を覚えているような気がする。ただ、その時は、自分でもビックリするくらい鮮やかに解決できた事件のような気がするんだよ。だから覚えていないというか。思い出せないんだ」
と桜井刑事がいうと、
「それは心理的にあるかも知れないな、だけど、そういいう意味で行くと私はまったく逆なんだ、私が鑑識で調べたことは間違っていなかったんだが、その結果を踏まえて、いろいろ事件のことを考えていて、自分なりに間違いないと思っているにも関わらず、結果はまったく違っていたということがあったな」
というではないか。
確かに、鑑識官は刑事ではないのだから、何もそんなに必死になって推理する必要はないのだろうが、
「私も、だいぶ、桜井君に感化されたみたいでね」
といっていた。
実際に鑑識官の中でも、彼の話は、捜査本部から一目置かれることもあり、捜査本部長の中には、彼に意見を求める人もいた。
「いやあ、私などにそんなおこがましいですよ」
と最初の頃はそんなことを言っていたが、実際には、そうでもないようで、最近では、
「まんざらでもない」
とばかりに、自分から推理を披露することもあった。
しかも、自分の鑑識で見つけた事実を元に話すのだから、これほど説得力のあるものはない。
ズバリ的を得ているわけでなくとも、他の刑事が推理することの手助けになっているのは間違いない。
それを思うと、本部長が頼りたくなるのも当たり前のことで、彼のことを、
「鑑識探偵」
と、心ある人は呼んでいたりする。
「いやあ、照れますな」
と口ではいうが、それは完全に芝居であった。
そんな茶目っ気のある喋る方を彼がするわけなどないことは、署内のベテランの人は皆分かっていたのだ。
特に、桜井刑事とのコンビは、署内でも有名で、
「また事件解決。お願いしますよ」
と若い連中は冷やかすが、
「何言ってるんだ。お前たちが解決するんだ」
と、逆に若い連中にはっぱをかけているのを見て。上司はほくそえみたくなるほどであった。
「あの二人はお互いに、いい関係だからな。まったく関係のないような話をしていても、たいていの場合は意味のあることだからな」
ということで、今回の、防犯カメラの件も決して、ウソでも何でもない正真正銘の会話だったということであろう。
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