第5話 走るおばあちゃん

「でもね、桜中まで小走りでも7、8分かかると思うんですよ。間に合いますか?電車の時間」


 「大丈夫よ。私、これでも若いころ陸上部の選手だったの。走りましょう」


 「ええっ、無理しないでくださいよ」


 「心配性ね!ミサトちゃんは。さぁ走りましょう。急がないと」

 なんと、ヒナタのおばあちゃんは早歩きでも小走りでもなく、全速力で走りだした。

 速い。

 脅威の速さだ。

 まさかの追いつけない。


 桜町中学の校門に着いたとき、肩で息してるのはわたしの方だった。

 昔、選手だったとしても、すごい。すごすぎる。

 「ヒナタのおばあちゃん、すごいよ。シルバーマラソンとかに出たら優勝するんじゃない?」是非、出るべきだ。と強く思った。


 「ふふふ。久しぶりに走ったわ。走るってやっぱり気持ちいいわね!」

 ヒナタのおばあちゃんは息も乱さず、ニコニコと笑ってる。


 せっかく走って来た桜町中学の校門だったが、周囲はすっかりきれいに掃除されて、きっぷどころかゴミひとつ落ちていない。


 「どこにもないわね。こまったわ。あの列車に乗らなければいけないの。約束しているの」


 ヒナタのおばあちゃんは心底悲しそうにわたしを見た。

 なんか、とても大事な人と約束していたんだなと思った。

 きっぷはもう見つからない。喫茶店を出た時から予想していた。

 そして、そうしようと思ってたことをわたしは言った。


 「おばあちゃん、わたしのきっぷあげるよ、これ使ってください」


 「ミサトちゃんのきっぷを?でも」


 「だって電車に乗れないと、困るんでしょう?約束があるんでしょう?」


 「それはそうだけど、、、いいの?」


 「わたし、自転車があるんです!三駅くらい、自転車でも行けます!」


 「ありがとう、ミサトちゃん。お言葉に甘えさせてね。わたし、どうしても列車に乗らなくてはいけないの」


 そしてわたしとヒナタのおばあちゃんは、緑山公園前駅に戻って来た。

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