第2話 きっぷはひとり一枚
「困りましたね。どこで失くされたか、思い出せませんか」と駅員さん。
「どこだったかしら」おばあさんはますます困った顔をして「思いだせないわ。困ったわ」
おばあさんが気の毒になってしまった。
「一枚くらいタブって渡してもわからないんじゃないんですか?」
頭の固い石頭駅員めと思った私は、なんとかおばあさんの一枚をぶんどってあげようと横やりを入れた。
「本当にごめんなさい。きっぷは毎日数えるんです。足りなくなったら、わたしが首になります。ごめんなさい、ごめんなさい」
今度は駅員さんが困った顔をしてウロウロしはじめた。
「どこかで落としたんだったら、いっしょにさがしましょうか」
口を出してしまった手前、ここでおばあさんを見捨てるわけにないかない。
「まぁ、いいんですの?あなた、お急ぎではなくて?」おばあさんは、心底申し訳なさそうに、でも、うれしそうに私の顔をみた。頼りにされてしまっている。
どこかで会ったことあるのかな?このおばあさん。どこかで会ったことがあるかも。
「いいんですよ。まだ電車まで30分くらいあるんで」各駅停車は30分に一本なのだ。
おせっかいにもおばあさんといっしょにきっぷを探してあげることになったのは、友達の誰かのおばあさんかもしれないと思ったせいもあった。
「おばあさん、駅できっぷをもらってからどこかに寄ってたの?入った喫茶店とかにあるかもしれませんよ」
小さな町だし、そのお店の人がおばあさんを知っていたら取っておいてくれるはずだ。
「そうね、駅でもらってから、ずいぶん寄り道してしまったの。電車の時間までずいぶんあると思って」
「ええっ、ずいぶん寄り道したんですか?じゃあ、順番に戻ってみましょう。駅に着く直前はどこですか?」
「そうね、あなたの言うように喫茶店だったかしら。白い扉の。歩いて疲れてしまったからお茶でも飲もうと思ったの」
やっぱり喫茶店か。白い扉なら駅前のコスモスだな。
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