第3話 俺の仕事


 アイランドは性質上かなり治安が悪い。


 この人工島ではモンスターが島に出現するという都合上一般人の武器の携行が許されている。


 原作主人公もこの島ではひんぱんにモンスターに襲われていた。


 そしてモンスターを狩っていた。


 そういう事情があるからアイランドに入ること自体が難易度高いんだけど。それでも一攫千金を夢みてアイランドで犯罪行為に手を染める輩が後を絶たない。(こういうことがあるので超監視社会ってやつでもある。そこら中監視カメラだらけ)



 で、そういう行き過ぎた人間を狩るのが、黒幕系の仕事である。


 家で魔法の練習をしていると電話がかかってきた。俺の父さんからだった。


 出ると声が聞こえる。


「初めての仕事の時間だ。女子生徒が誘拐されたようだ。犯行グループはダンジョンに逃げようとしているようだ。監視カメラは停止させておく。アイランド警察がくるまで時間を稼げるだろう」

「了解」


 俺は迅速に着替えを行うと外に出た。


 仕事用の服である。


 外での活動がしやすいように飛んだり跳ねたりで移動しやすい靴に、奇襲がしやすいように黒い服を用意されている。


 玄関の扉を開けて廊下に出るとスグそこにあった手すりを乗り越えて空中に飛び出す。


 実は俺の家は数十階立てのマンションだ。


 普段はエレベーターを使っているが、その時間すら惜しい。


「ウィンドブーツ」


 魔法を使い空中を走っていく。

 魔法を使えばこういうことも可能である。


 目的地までの最短ルートを通れるのはヘリコプターでも新幹線でもない。


『己の足である』


 って、原作の乃亜さんが言ってた。


 俺はそれを信じて渡された情報を頼りに先回りをすることにした。


「今のホシの位置からダンジョンに向かうのであれば……あそこか」


 この島で一番目立つ大橋に目をやった。


 通称【アイランド大橋】


 アイランドとダンジョン入口を繋ぐアーチ状の大橋である。


「あの大橋で仕留めるか」


 俺は加速していき、アイランド大橋までやってきた。


 コツっ。


 俺は橋の上のアーチ状の部分、その真ん中に降りるとそこでアイランド側を見た。


 え?なんでここに立ったか?って?


(黒幕系ならここに乗るでしょ?そゆことだ)


【サウンドアンプ】を使用して音の増幅を行う。


 すると、車がこっちに向かってきているのが聴覚的に理解出来る。


(接触までの距離1キロってとこか)


 俺は右手を開いていつでも握りつぶせるようにしておく。


 すると、やがて車が見えてきた。


(もう少し、待とう)


 俺の能力一応射程距離がある。

 あまり遠すぎると潰せない。


 あと、動いてるものに対しては少しだけ潰す難易度が上がる。


 イメージで言うと銃の狙撃が近いか。

 距離が近いほど確実になる。


(車がこの下を通ったらくらいでやろうか)


3,2,1。


【核殺し】


 バキャッ!


 車がスピンしだした。


「な、なんだ?!運転が?!」

「と、止めろ!ブレーキだ!」


 今現在の車や武器などには全て【魔核】が使われている。


 今車の核を潰したからこうなっている。


 橋の上から飛び降りて車に近づいて行くことにした。


 サウンドアンプ中の俺は扉に手をかける音すら聞こえる。


 だから、どのタイミングで出てくるかも分かる。


 こいつらが銃器を手に取った音もわかる。


 バン!

 車のドアを開けた瞬間


【核殺し】


 3人がいっせいに出てきたが全ての銃が壊れた。


「な、なんだ!これ!銃が壊れたぞ」

「どうなってやがる!」

「なんでもいい!人質をとれ!トランクに詰めてるだろ!」


【核殺し】


 こいつらのコアを全て同時に砕いてやった。


「あがっ……」

「ぐぅっ!」


 その場に全員が膝を着いた。


「お前ら100万人いても俺に傷一つつけらんねぇよ。ははは」


 余裕の表情で車に近付くとトランクを開けた。


 車は壊れている。

 ロック機能なども全て機能していないので簡単に開いた。


 そこにいたのは


「高槻 芽衣、か」


 意外な奴がいて驚いてしまった。


(原作主人公の妹か)


「う、うわぁぁぁぁぁぁん!!!」


 ガシッ!

 俺に飛びついてきた。


「怖かったぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁん!」


 泣き始めたが、まだやる事がある。


 俺はスマホを取り出すと父さんに電話をかけた。


「目標は仕留めた。一応動けないようにしているけど、どうする?」

「その場で始末していい」

「了解」


 俺は手袋をハメてからそのまま後部座席に向かう。

 そこに置いてあった銃を取りだした。


 後部座席に予備があるのは音で分かっていた。

 武器が車の中で振動する音でいくつ武器があるかもわかる。


 俺に【サウンドアンプ】を使わせるというのはこういうことだ。

 戦況をすべて理解することができる。


 銃で二人撃ち殺してから最後の男に向けた。


「お、お前はなんなんだ!こ、これはどうなってる!」


 この男はいまだに何が起きているかを理解していないらしい。


「お前程度の頭で理解出来ることは起きてないよお客さん。アイランドを舐めすぎだ」

「せ、精鋭を用意したんだぞ?!俺を含めて組織で優秀な成績を残した3人を上からそのまま連れてきた!」


 情報は死体からでも抜き出せる。


 脳さえ生きていれば死んだ後でも聞くことができる。


 というよりそっちの方が速い。


 だから父さんは殺せと命令してきた。


 だけどまぁ。この男乃亜の実力にビビっているようである。

 俺の推しキャラに震えているようだし、そうだなぁ気分が良くなってきた少しばかりお喋りに付き合ってやろう。


「何が起きたんだ?アイランドにこんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!」


 その時だった。


 緊急速報が鳴る。


 警告音。


『緊急速報!緊急速報!アイランド大橋付近に海龍が出現!ただちに避難してください』


 ズアァァァァアァアァァァァァ。


 俺の立っている右手側から水飛沫が上がってきた。


 海面から顔を覗かせている巨大な海龍の姿が見える。


 いわゆる、リヴァイアサンってやつだ。


(今の銃撃でこちらに気が付いたか?)


「ギャォオオォォォオォォォォォ!!!」


 リヴァイアサンは口にエネルギーをため始めた。

 今から俺たちに向かって吐くつもりだろう。


「ははっ!俺も終わりなようだが……あんなのが出てきたんじゃお前も終わりだな!金髪野郎!」


 俺は笑顔を向けて男に言ってやった。


「"雑魚"の君と"最強"の俺を一緒にしないでくれるかな?」


【核殺し】


 ぐっ。

 右手を握り閉めると


「ギャオォ……」


 リヴァイアサンは力なく横に倒れていった。


 海面に体の側面が叩きつけられたことによる波が発生していた。


「な、なんなんだこれは……」


 俺は男の額に銃を押し付けた。


「化け物だ……【死神】……」


 お?俺に【死神】なんていう異名でも付けてくれたのだろうか?


 嬉しいねぇ。それでこそ黒幕系って言えるかもしれない。


 でも、さよならだ。


「冥土の土産に覚えていきな。これがアイランド最強の人間だよ」


 ニヤッ。


 俺は引き金を引いて男を殺した。


 銃はその場に投げ捨てた。


 さて。


 最後に芽衣に目を向けた。


「あ、ありがとうございますっ!」

「ここであった事は誰にも言わない方がいい」


 俺がそう言ったときだった。


 人が集まってきた。

 野次馬では無い。


 俺と同じくアイランドで暗躍をしている奴らだった。


「乃亜くんすごーい。1人で鎮圧しちゃったんだ。私たちなんて追いつくのに必死だったのにー」

「さすがは裏のアイランド最強ですね。ここまで迅速に片付けてしまうとは」


 2人はそう言ってきたが俺は言った。


「後片付けは任せていいんだよね?」


 こくん。

 2人とも頷いていたので俺は帰ることにする。


 俺のやることというのはここまでだ。

 いわゆる実働部隊的な仕事まで。


 その後のことは何もしない。

 分かりやすくていい。

 敵を壊すだけでいいんだから。


 そのとき、芽衣が聞いてきた。


「あ、あなたたち誰なんですか?」

「裏の治安維持部隊だとでも思ってくれたらいいよ。非合法、のね」


 そう答えた時【サウンドアンプ】の効果で音が聞こえてきた。


(パトカーのサイレンが聞こえるな。アイランド警察か)


 仲間の2人に声をかけた。


「もうすぐアイランド警察が駆けつける。五分くらいかな。回収を急いだ方がいいぞ。"一応"向こうは表の組織だしな」


「「はーい」」


 俺はダンジョンの方に目を向けた。


(ここに来たついてだし、入ってみてもいいかもな。ダンジョン。乃亜でダンジョン行けるとか、最高すぎかよ?この世界)


 芽衣は警察が保護するだろう。


 俺たちは裏の治安維持部隊なだけで表は警察なのだから。表の仕事は表のヤツらに任せればいい。


 取り調べとか面倒なことは全部他に丸投げだ。




































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