第43話 魔王?
道中、特に問題なく順調にクリスティーナと仲間たちクリスティーナの故郷へと馬車で向かっていた。
「でも本当によかったわ。シルフィス様が来れなくなって」
そう、シルフィスは一緒に来なかった。どうやらゼルに止められたようだ。さすがに団長が一ヶ月も留守にするというのは無理だったようだ。
「それにしてもよくあの人を止められたわね」
「ゼルは姉上と長い付き合いだからな。あの人の言うことなら姉上も無視できないんだ」
「ふーん。何か秘密でも握ってるのかしら?」
「さあな」
「皆さん、そろそろ見えてきますよ」
外から馬車を運転するレドラックの声が聞こえた。それを聞いたクリスティーナたちは馬車の窓を開けて顔を出した。
「あれが私の町よ。どう? 良いところでしょ」
クリスティーナは自慢げにそう言った。丘の上から見える故郷の町を見て、クリスティーナは嬉しそうに笑顔をこぼしていた。
が、そんな平和な時間は長くは続かないものである。
「お嬢ちゃん、誰か来るぞ」
誰か来る。その言葉通り馬に乗った何者かがこちらに走ってくるのが見えた。
どうやらそれは町の衛兵のようだった。一人の衛兵が勢いよく走る馬の上からクリスティーナの名を大声で呼んでいた。
「あの様子。ただ事ではなさそうだな」
こちらに近づいてくる衛兵は切羽詰まった様子だ。なにか起きているのは明らかだ。
そして、本当にただ事ではなかった。
「ダンジョンからモンスターが!?」
駆け付けて来た衛兵はクリスティーナたちに緊急事態を告げた。例の金ピカゴーレムのいるダンジョンからモンスターが外に出てきたと言うのだ。
「どうして、今までそんなこと」
「とにかく行くぞ」
「そうね、助けに行かないと」
現在、外に出てきたモンスターをバドラッドと衛兵隊が食い止めているらしい。しかし、それもいつまで持ち堪えられるか。
クリスティーナたちは急いで森の中にあるダンジョンへと向かうこととなった。
「走ったほうが速いわ!」
と言ってクリスティーナは一人だけ馬車を降りて全速力で走って行った。
「……やはりイカレているな、あいつは」
クリスティーナは走った。そして、たどり着いた。
いつものダンジョンの近く。そこではすでに戦闘が繰り広げられていた。
「バドラッド!」
「おお、お嬢様。久しぶりですなぁ、お元気でしたかな?」
「元気よ元気! それよりも!」
バドラッドと衛兵たちがモンスターに応戦している。そのモンスターはゴーレムだった。
ゴーレムだったのだが、いつもの金ピカではなかった。
「なにこれ、真っ黒じゃない……!」
そう、バドラッドたちが戦っていたのは黒いゴーレムだったのだ。
「ダンジョンに何か異変が起きているようですな」
「そうみたいね」
クリスティーナは衛兵たちを後ろに下がらせる。そして、クリスティーナは黒いゴーレムの真正面に立つ。
「闇の力ね。これは」
黒いゴーレムから強い闇の力を感じる。色が黒いのはその影響だろう。
金ピカゴーレム。その体は魔法金で出来ている。色が黒いのはおそらく金ピカゴーレムが闇の力を吸収した影響かもしれない。
と、そんなことを考えている暇はない。クリスティーナは黒いゴーレムの足元に目を向ける。
地面が腐っている。黒いゴーレムから流れ出てくる闇の力により周囲の草や木、土までもが腐敗し始めていた。
「気を付けてくだされよ、お嬢様」
「ありがとう、バドラッド。でも、大丈夫」
クリスティーナはグッと拳を握る。
「これでも聖女候補なんだから」
黒いゴーレムが不気味な雄たけびを上げる。それを前にしてもクリスティーナは動じず、ゆっくりと息を吐く。
そして、一気に踏み込んだ。
「セイッ!!」
学校に入学してからクリスティーナはいろいろなことを学んだ。学校の授業だけでなく、いろいろだ。
「ギョオオオオオオオオオオオン!?」
ものすごい勢いで突撃してきたクリスティーナの拳が黒いゴーレムの腹に凄まじい音を立ててめり込む。そして、そのままクリスティーナは黒いゴーレムの体内に光の力を流し込んだ。
クリスティーナは学んでいた。剣で斬るよりも、魔法のように光の力を放つよりも、拳で殴るほうが光の力の通りがいいことを。
黒いゴーレムが悲鳴のような音を立てて内側から爆発する。そして、爆散したゴーレムの残骸は光の力により浄化され元の金色に戻っていた。
「さすがですじゃ、お嬢様」
「ま、こんなもんね。バドラッド、魔法金と魔石の回収をお願い。私は中の様子を見てくるわ」
「では、わしも同行しましょうかの」
「ありがとう。っと、その前に」
クリスティーナは周囲を見渡す。視界の中に戦いで怪我をした衛兵たちが何人もいる。
「ヒールフラッシュ!」
輝く。クリスティーナがパッと輝き、白い光があたりを包む。そして、その光が晴れるとその光に触れた者たちの傷が最初からなかったかのように消え去っていた。
「いやいや、また腕を上げましたな」
「これくらい当然。さ、行きましょう」
外に出て来たゴーレムは一体だけのようだ。クリスティーナは他にゴーレムがいないことを確認するとバドラッドと共に洞窟の中へと入っていった。
「ふむ、ものすごい瘴気じゃ」
「瘴気?」
「はい。闇の力により空気が毒に変化したものですじゃよ」
洞窟の中に入ったバドラッドは服の袖で口をふさぐ。それに対してクリスティーナは特に気にする様子もなく普通に呼吸している。
「お嬢様はなんともないのかの?」
「別に。ああ、でも空気を吸い込むと体が熱くなるわね」
「闇の力を浄化しておるのでしょうな。いやはや、光の力と言うのは」
本当にデタラメだ。持っているだけで闇の力を無効化できるのだから万能にもほどがある。
「あー、久しぶりに体が熱いわ。最近、全然なかったから」
「強くなりにくくなっているようですな。限界が近いのか、そもそも限界があるのか……」
二人は洞窟の奥へと進んでいく。バドラッドは奥に行くほど苦しそうに咳き込み始める。
「大丈夫?」
「むう、やはりこれ以上は」
「この瘴気ってのが悪いのよね。なら」
クリスティーナは前方に光の力を放つ。激しい光が一瞬洞窟内を照らし、その光が消えると周囲に瘴気はほとんどなくなっていた。
「これでよし」
「……本当にデタラメですのう」
二人はさらに奥へと進んでいく。すると、その先には誰かが倒れていた。
「人? 子供かしら?」
「これは、いや、まさか……」
洞窟の奥に子供が倒れていた。大体十二歳ぐらいの子供だ。
ただ、その子供は普通の子供ではなかった。
少年。少年の肌は暗褐色に近い黒だった。髪は真っ白で、白い髪の生えた頭には二本の太く短い山羊のような角が生えていた。
明らかに人間ではなかった。そして、どうやらバドラッドにはこの子供の容姿に心当たりがあるようだった。
「魔王、いや、しかし――」
それはかつてこの世界を恐怖に陥れた存在。魔界から侵攻してきた魔族の王。その少年は伝説に出てくる魔王の特徴とよく似ていた。
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