第25話 なんとかしないと最悪の

 突然の告白にレドラックもフィニルも言葉を失っていた。


「あ、あの、今、なんと?」

「ですから、今回の襲撃は私の父が計画したことではないかと」

「お、おい。自分で何言ってるのかわかってんのか?」

「わかってるわ。可能性の一つではあるけどね」


 そう可能性の一つだ。まだ確定した事実ではない。


 しかしその可能性は非常に高い。状況的にもクリスティーナが見た悪夢的にもほぼ確実に父であるデモンドの犯行だ。


「王女様。あなたがいなくなれば聖女候補が一人減る。そうなると私かもう一人のアンナと言う人が聖女に選ばれる」

「それは、でも、そんな」

「そうだぞ、お嬢ちゃん。それはあんまりにも」

「じゃあ誰が襲ったの? アンナと言う人は平民なんでしょ? そんなことができるお金があると思う?」

「だが、だからってお嬢ちゃんの父親が犯人てのは」

「そうです。まだ決まったわけではありません」


 確かにそうだ。まだそうだとは決まっていない。


 だが、クリスティーナにはそうだとしか思えないのだ。


「でも」

「それにお嬢ちゃんはこのことに関わってるのか?」

「そんなわけないじゃない! なんでそんなことするのよ!」

「そうだろ。お前さんは誰かを陥れて自分が得をしようとするようなひどい人間じゃない」


 レドラックは言い切った。クリスティーナはそんなことをする人間じゃない。


 確かにワガママで人の言うことを聞かない時もあるが、人を陥れるような、ましてや殺すような人間ではないと、クリスティーナとそれなりに付き合いの長いレドラックはそう確信していた。


「わたくしも信じます。だって、わたくしを助けてくれた方が信じているのですもの。クリスティーナさん。わたくしはあなたを信じます」

「姫様。ありがとうございます」

「私もクリスティーナ様を信じます!」

「ニナもありがとう」


 嬉しい。嬉しいことだ。信じてくれる人がいる。


 しかし、それでどうにかなることでもない。もし父であるデモンドが今回の襲撃計画を企てた張本人だとしたら、早めに対処しなくてはならないだろう。


 このままでは入学式を迎える前に破滅してしまうかもしれないのだ。早くどうにかしなければ。


「一つよろしいでしょうか」


 どうすればいいのか、とクリスティーナたちが悩んでいると今まで黙って話を聞いていたエダが口を開いた。


「今回の襲撃、国王様や王政府はどのようにお考えなのでしょう?」

「わかりません。ですが、わたくしはただモンスターに襲われたとしか伝えていません」

「なるほど。ではレドラック様はご自分の意見をここにいる以外の誰かに話したことは?」

「ない。今初めて言った」

「わかりました」


 レドラックとフィニルの話を聞いたエダは再び黙って何かを考えはじめる。その姿を見たクリスティーナたちも黙り込み、再びエダがしゃべり始めるのを待った。


「お嬢様」

「なに?」

「そう言えば、旦那様に挨拶がまだでしたね」

「確かに、あいさつには行ってないけど。でもそれは今じゃなくても」

「今夜、ご挨拶に伺いましょう」


 なんで今、と質問しようとしたクリスティーナだったが、すぐにエダに何か考えがあるのではないかと気が付き口を閉ざした。


「心配なさらないでください。お嬢様はただ黙っていてくだされば」


 どうやらエダは何かを思いついたようだった。


「では、このお話はいったん終わりにして。ニナ」

「はい、準備できています」


 二人のメイドは目配せをすると、二人同時に動き出し、そしてあっという間にお茶やお菓子を用意して、三人の前に並べた。


「さあ、お茶にいたしましょう」

「今日は私の手作りのクッキーです。自信作なんですよ」


 先ほどの深刻な空気はどこへやら。紅茶の華やかな香りとクッキーの甘い香りに包まれて、三人の心はホッと和らいでいくのだった。


 

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