第23話 クリスティーナ最大の危機!
とりあえず立ち話もなんなのでクリスティーナは自分の部屋にレドラックたちを招き入れて話を聞くことにした。
「あーあ、なんだか損した気分だわ」
「なんだ? 再会が嬉しくないのか?」
「そういうわけじゃないけど。そっちはどうなの?」
「あー、そうだな。少し、恥ずかしいな」
数日前、自分の力を試したい、と言って出ていった青年がここにいる。あんなに張り切って意気揚々と旅立ったのに、十日も経たずに再会した。
恥ずかしい。大冒険をするんだと言って飛び出したのに、結局家の周りをぐるっと回って帰って来た子供の気分だ。
「それで、どうして王女様と一緒なの?」
「あー、いろいろとあってな」
「レドラックはわたくしの命の恩人なのです」
命の恩人。そう言ったのはフィニルだ。フィニル・リーン・レジェンドル。ここレジェンドル王国の第二王女であり、クリスティーナと同じ聖女候補である。
フィニルは王家の血筋を現す淡い色の青みのかかった長く美しい金髪の、どこか儚さのある線の細い少女だった。年齢はクリススティーナの二つ上の十六歳。本来なら十四歳で入学する予定だったのだが、彼女は病弱で当時は学校生活ができる体調ではなく、体調がよくなった今年二年遅れで国立学校へ入学してきたのだ。
そんなフィニルとレドラックが一緒にいる。しかもフィニルはレドラックを命の恩人だと言った。
その言葉にクリスティーナは不吉な予感を覚えた。
「命の、恩人……」
悪夢。久しぶりにクリスティーナは悪夢を思い返していた。
現在、聖女候補は三人いる。クリスティーナとフィニル、そしてアンナという平民の少女だ。ほとんどの悪夢ではこの三人が学校へ入学し、フィニルかアンナのどちらかが聖女に選ばれる。
だが、悪夢には違うパターンもある。フィニルが入学してこないというパターンだ。
そして、そのフィニルが入学してこない理由もいくつかあった。体調が悪く療養地から離れられない場合や、すでに病気で死亡しているということもあった。
それならばまだいい。問題は他だ。
そう、今の状況のように。
「俺が道を歩いてると、ちょうどお姫様がモンスターに襲われているところに出くわしてな。それを俺が助けたんだ」
どうやらフィニルは療養地から学校へ向かう途中にモンスターに襲われたらしい。そこに偶然居合わせたレドラックが彼女を助けたのだ。
「すごかったんですよ。空を飛ぶモンスターを一太刀で倒して、私やメイドのアニーの怪我も治してくれたんです」
「ああ、この指輪が役に立ったよ。ありがとうな、お嬢ちゃん」
「あー、それはよかったわね」
この指輪。それは六歳の誕生日にパーティーの参加者に配った白い指輪だ。その白い指輪には魔法金が使用されており、そして指輪にはクリスティーナの光の力が籠められている。
つまりその指輪は回復アイテムなのだ。回数は限られているが、切断された腕を元に戻せるほどに強力なアイテムなのである。
まあ、それを皆にプレゼントした時、バドラッドに、なんで相談しなかったんじゃ! とひどく怒られた。クリスティーナはゴンドルドと相談して勝手にプレゼントとして配ったのだが、バドラッドにしたらそれは有り得ないことだった。
なにせ魔法金は門外不出。それが市場に出回れば魔法界どころか国中、大陸中が大混乱になる代物なのだ。バドラッドは時機を見て魔法金を世に出すつもりだったようだが、それを勝手に配ったのである。怒られて当然と言えば当然だ。
それはいいとして、今はフィニルが襲撃されたことが問題だ。
「で、お嬢ちゃん。姫様が襲われたことで気になることがあるんだ」
気になること。クリスティーナはそれをあまり聞きたくなかった。
「姫様を襲ったモンスターはグリフォンだった」
「えっと、頭はワシで前足がサル、後ろ足が獅子の、翼の生えた空飛ぶ大型モンスター、だったわね」
「そうだ。そいつが姫様を襲ってたんだ」
「で、それが?」
あー、イヤだ。本当にイヤだ。
「おかしいんだよ。グリフォンてのは群れで行動するモンスターだ。しかも、あの近くにグリフォンの巣はどこにもない。新しい巣に移動することはあるが、その場合も群れで動く。なのに、一匹。おかしいだろう?」
「はあ……」
「なんだ? ため息ついて」
「いえ、こっちのことだから気にしないで」
群れで行動し生まれてから死ぬまで巣からほとんど離れないグリフォンが一匹だけで現れてお姫様の乗っている馬車に襲い掛かった。
最悪だ。本当に。
「俺は誰かがモンスターをけしかけたんじゃないかと考えてる」
その通り、とクリスティーナは言いたかった。
そう、その通りなのだ。
クリスティーナが見たたくさんの悪夢。その悪夢にはいくつかのパターンがあり、その中にはフィニルが学校へ向かう途中に何者かに襲撃されて死亡するか、大けがをして学校に入学できないというパターンがあった。
そして、その襲撃の主犯は大体においてクリスティーナの父親、デモンド・クリスペールなのである。
「最悪だわ。最悪……」
そう、最悪だ。クリスティーナが想定していた中で最悪のパターンだ。
いや、まだ最悪ではない。なにせフィニルは幸いにも生きているのだ。本当にそれだけが救いだった。
しかし、さて、どうするか。
「たぶん、お父様なのよねぇ……」
いや、まだそうだとは決まっていない。しかし、もしそうだとしたらこのままでは悪夢の再来だ。
悪夢の中でのデモンドは王女襲撃を企て、結局はその企みがバレて処刑される。そしてクリスティーナもついでに処刑されるか、良くて国外追放だ。
もちろんクリスティーナは襲撃には関わっていない。悪夢の中のクリスティーナはフィニルを襲撃したのがデモンドだと彼の犯行がバレるまで知らないことがほとんどだった。
まあ、知っていたこともあったが。それはまあ、である。
しかし、こうなると状況は悪い。このままでは今までの努力が無駄になる。悪夢の二の舞だ
さてさて、どうする。本当に、どうする。
「……ま、いずれバレるんだったら」
クリスティーナは考えた。しかし、クリスティーナは難しいことを考えるのが苦手だった。細かいことは気にしない、それがクリスティーナなのである。
だからもう、言ってしまうことにした。
「フィニル様。申し訳ありません。おそらくあなたを襲撃した犯人は私の父、デモンド・クリスペールです」
言った。言ってしまった。
さて、これからどうなる。クリスティーナ・クリスペール。
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