第16話 金策! 金策! 金策よ!
ダンジョンに入るとそこには金色に輝くゴーレムがいた。
「ホーリーバースト!」
そして、そのゴーレムは光の力で爆発四散した。
「やったわ!」
「やったじゃねえ!」
もうどこから突っ込んでいいのかわからなかった。レドラックはさっぱりわからなかった。
なので、とりあえず叱ることにした。
「お前は本当に慎重って言葉を知らねえのか!」
「知ってるわよ?」
「知ってるならもう少し考えてから行動しろ!」
そう、考えてから行動してほしい。ゴーレムなんて危険なモンスターに遭遇してしまったのだから、もっと考えて慎重に行動してほしかった。
まあ、そんなことを言ってもとっくに手遅れなのだが。
「見てよ! 金よ! 金ピカよ!」
爆発四散したゴーレムの破片を手に取りクリスティーナは歓喜の声を上げていた。
「まてまてまて、本当にそいつは金なのか? ゴーレムだぞ? ゴーレムは石とか岩とかでできたモンスターなんだぞ?」
「でもピカピカよ?」
「確かにそうだが……」
洞窟の中に散らばる大小さまざまな金の塊。それはどう見ても金なのだが、しかしレドラックは金でできたゴーレムなど聞いたことも見たこともなく、そんな物がいるなど信じられなかった。
「まあ、いいじゃない。本物かどうかは持って帰ってバドじいに鑑定してもらいましょ」
「あ、ああ、そうだな。……じゃなくてだな」
そう、じゃない。そうじゃない。
「帰るぞ。今すぐ」
「えー、まだ全然拾えてないんだけど」
「そんなもんはいいから帰るんだよ!」
そう、帰らなければならない。これは一大事なのだ。
「よく考えてみろ。ゴーレムだぞ? ゴーレムは中級のモンスターだ。そんなモンスターが洞窟から外に出て見ろ。もし町に現れたらどうするんだ」
「それは困るわ!」
「ああ、困るだろ?」
「なら全部倒してしまいましょう!」
「なんでそうなる!」
本当に無茶苦茶である。クリスティーナの思考は一体全体どうなっているのだろうか。
「でも全部倒せば襲ってこないでしょう?」
「その通りだ。その通りだが」
「大丈夫よ。一撃で倒せるんだもの」
「一撃で倒せても何体いるかわからないだろうが。もし百体いたらどうするんだ」
「金が取り放題だわ!」
「そうじゃねえ!」
本当にわけがわからない。クリスティーナの頭は一体どんな構造になっているのだろうか。
「ああ、そうか。お前は馬鹿なんだな!」
「馬鹿!? 馬鹿じゃないわよ!」
「いいや、馬鹿だね。馬鹿じゃなかったらなんなんだ?」
「天才よ!」
「お前が天才なら俺は大天才だな!」
「なによ!」
「なんだよ!」
クリスティーナとレドラックはダンジョンの中でケンカを始めた。五歳の幼女と成人男性のケンカだ。
滑稽である。けれど、ケンカにもなるだろう。あまりにも常識外れな行動をクリスティーナはしているのだから。
そして、そんな二人を容赦なく激しい熱が襲う。
「「あっづい!?」」
体が突然熱くなる。まるで体の中に直接熱湯をぶち込まれたような熱さだった。
ただし、その熱は数秒もするとスーッと引いていった。
「強く、なったのか?」
「たぶん、そうだと思うわ」
光の力でモンスターを倒すとそのモンスターの力を得ることができる。そして、その力を吸収した時に体が熱くなる。
おそらくその熱だ。強くなった、成長したことを示す熱だろう。
ただ、今までとは温度が違った。スライムを倒していた時は少し熱いお湯ぐらいの熱さだったが、今回は煮えたぎった熱湯のような熱さだった。
「体は、特になんともないな」
「そうね。なら探索続行!」
「だから帰るんだよ!」
また二人のケンカが始まる。しかし、そのケンカは長く続かなかった。
「ンゴォォォォ」
次のゴーレムが重たい足音と共に現れたのである。
そして。
「ホーリーバースト!」
これまた一撃で爆発四散した。
「「あっづいぃ!」」
二体目の金ピカゴーレムを倒すと一体目と同じように体が熱くなった。
そして、すぐに次の金ピカが現れ、光の力で爆発四散し、熱が体を駆け巡り、その熱が冷めてしばらくするとまたゴーレムが現れた。
しばらくその繰り返しが続いた。
「お、終わりか?」
そんなことを十回繰り返した頃、やっとゴーレムは現れなくなった。その頃にはもうクリスティーナの周囲は一面の金で覆われ、その金の中にゴーレムのコアと思われる小さめのスイカほどの大きさの魔石が転がっていた。
「さあ! これを持って帰るわよ!」
こうしてクリスティーナのダンジョン探索初日が終わり、意気揚々と金の塊と巨大な魔石を持ち帰ったのである。
しかし。
「無理じゃ!」
バドラッドのところに金と魔石を持ち帰ったが買い取りを拒否されてっしまった。
「言ったじゃろうが! ここは小さな工房でそんなとんでもない物を買い取る余裕はない!」
「じゃあどうすればいいのよ!」
大量の金。すべてを持ち帰ることは出来なかったので背負っていた荷物袋に入るだけ持ってきたが、バドラッドはその買取を断った。
同時に魔石もそうだった。さすがにスイカぐらいある魔石をすべて持ってくることは出来なかったので、クリスティーナとレドラックがひとつずつ持って帰って来たが、それも買い取ってくれなかった。
「これじゃあ意味ないじゃない!」
そう、意味がない。あまり苦労はしてはいないが、これでは苦労しただけ損である。
「しかし、金のゴーレムのダンジョンか。聞いたことがないのう」
「のん気なこと言ってないでバドラッドも考えて!」
「ああ、わかっておる、わかっておる」
大量の金と大きな魔石。これを換金することができればおそらく金銭問題は余裕で解決できるだろう。しかし、ここでは換金できない。となれば金や魔石もただの石と同じである。
さて、どうしたものか。
「……あの男に相談してみるかのう」
魔法使いのバドラッド。彼には一人だけ心当たりがあった。
「わしの知り合いに腕のいい鍛冶職人がおる。そやつに相談して見よう」
こうして新たな仲間が町に加わり、このことが更に町を豊かにしていくのだが、この時の三人はそんなことなど知る由もなかった。
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