第15話 ダンジョンへ行こう!

 ダンジョン。それは簡潔に説明するとモンスターの巣である。一説によれば魔王が生み出したモンスター製造兵器であるらしいが、魔王が滅びた今でもその姿は消えてはいないし、魔王が出現する以前から存在していたという話もあるため、この一説はまったくのデタラメだろう。


「あのなあ、お嬢ちゃん。ダンジョンてのはどこにあるかわからねえんだよ」

「なんで?」

「ダンジョンと言うのはな神出鬼没。突然現れて突然消える。そういう物なのじゃ」


 ダンジョン。それはモンスター狩りをして生計を立てるハンターの狩場でもある。そのためダンジョンがあると言う情報があれば、その情報を頼りにハンターが集まってくる。


 しかし、この町にはハンターなんぞ一人もいない。つまりはそう言うことである。


「この近くにダンジョンは無い。衛兵たちが定期的に周辺を警備しているが、そんな話は聞いたことがない」

「じゃあ見つければいいじゃない!」

「だからな、そんな簡単な話じゃないんだよ」

「もう! どうしてそんなワガママばっかり言うの!」

「ワガママなのはお前だろうが!」

「まあまあ、落ち着きなされ」


 バドラッドは二人の口ゲンカをなだめる。だが、なだめたところで問題は解決していない。


「レドラックよ、お嬢様の言う通り探してみてはどうかの?」

「じいさん、あんたもお嬢ちゃんの味方か?」

「違う違う。その目で見てダンジョンがないことがわかればこの子も諦めるじゃろう」

「ふんっ! 絶対に諦めないわ!」

「なら諦めるまで探してやりなさい。森の中を探索するのは今までと同じじゃろう?」

「まあ、同じでは、あるが」


 レドラックは、納得できない、と言う顔をしていた。しかし、ここはいったん納得したふりをしておいたほうが場は治まる。


「わかった。探しに行こう」

「やったわ!」

「ただし、三日だけだ。その間に見つからないならきっぱり諦めてもらう」

「なんでよ!」

「そうでもしねえと永遠に探し続けるだろうが」

「まあ、そうかもね!」

「そうかもね、じゃねえんだがなぁ……」


 もう呆れ果てるしかない。クリスティーナには何を言っても無駄である。


「とにかく期限内に見つからなければ諦めろ。いいな?」

「一応わかっておくわ」

「一応ってなんだよ、一応って」


 もう本当に呆れるしかない。少しばかり性格はマシになってはいるが、クリスティーナの根っこのところは傍若無人のワガママ自己中お嬢様なのである。


 さて、そういうわけでダンジョン捜索が始まったわけだが。


「……あったな」

「あったわ!」


 一日目でダンジョンを見つけてしまった。


「いや、待て待て待て。確かにこの崖のあたりに洞窟なんかはなかったはずだが。まだダンジョンと決まったわけじゃ」

「さっそく入りましょう!」

「お前は少し躊躇いと言う物を知れ!」


 切り立った崖。町の近くの山にある断崖絶壁の下にぽっかりと穴が開いていた。地図や衛兵たちの記録の中にそんな洞窟の情報はまったくない。


 つまり最近できたばかりの洞窟と言うことになる。となれば、そう言うことである。


「あのなあ、ダンジョンてのは危険なんだ。探索するにしても準備ってものが」

「回復薬でしょ、解毒薬に携帯食料。あと明かりのためのマジックランタンもあるわ。バドじいに作ってもらったの」

「……準備がいいな、おい」


 そういや荷物が多かったな、とレドラックは今更ながらに気付いた。つまりはそう言うことなのだ。最初からクリスティーナはダンジョンを見つけたらすぐに入ると決めていたのだろう。


「ダンジョンは突然現れて突然消える。なら見つけたらすぐに入らないと損じゃない」

「確かにそうだよ。確かにそうだが」

「なら問題なし! 行くわよ!」

「……もう勘弁してくれ」


 と言うことで二人はさっそくダンジョンの中へと入っていったのだが。


「……何にもいないわね」


 警戒しながら洞窟の入り口に入り、それからやはり警戒しながら先を進んだクリスティーナたちだったが、全くモンスターに出会うことがなくその気配もなかった。


「もしかしたらハズレダンジョンかもな」

「ハズレ!?」

「ああ、たまにあるらしい。弱いモンスターしか出なかったり、モンスターのモの字もないハズレがな」


 よかった、とレドラックはホッと胸をなでおろした。いきなり見つけたダンジョンにいきなり入ってモンスターに襲われなくて済んだのだ。


 よかったよかった、とレドラックは心の中で安堵していた。


 だが、そんなものは長くは続かないのである。


「ゴボオオオオ」


 何かの音が聞こえた。


「ねえ、足音聞こえない?」


 ズシン、ズシン、と言う重たい足音が洞窟の中に響いた。


「近づいてきてるわ! 一体何かしら?」

「何を期待してんだよ。構えろ」


 モンスターだ。明らかにモンスターだ。この状況でモンスター以外が現れるわけがない。


 そして、当然のごとくモンスターが現れた。


「ご、ゴーレム……!」


 現れたのは成人男性の三倍はある大きなゴツゴツとした巨人だった。


「ゴーレム?」

「ああ、ゴーレムだ。巨大な人型のモンスターで、モンスターの中では中級だ。しかし、ありゃなんだ? 普通のゴーレムは、岩でできてるはずだ」


 ゴーレム。レドラックは現れたモンスターのことを知っていた。だが、知らないこともあった。


「知らねえぞ、金ピカのゴーレムなんざ……!」


 そう、確かに現れたのはゴーレムだった。しかし、普通のゴーレムではなかった。


 クリスティーナの前に現れたのは金色のゴーレムだったのである。


「金……」

「嬢ちゃん?」


 嫌な予感がした。そして、レドラックのその嫌な予感はすぐに的中するのだった。


「お金よおおおおおおおおお!!」


 クリスティーナ。彼女は金色のゴーレムを見て歓喜の声を上げたのだった。

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