第13話 モンスターハンターお嬢様
信じられなかった。
「マジかよ……」
光の力。それはレドラックが思ったよりもとんでもない物だった。
「ね? 言ったとおりでしょ。光の力があるから大丈夫だって」
最初に出会ったスライムをレドラックが倒した後、二人は新たな獲物を探しに森を探索していた。その間に何匹かのスライムを見つけて討伐を試みた。
そして、そのすべてが成功した。しかも倒したのはクリスティーナである。
「でもやっぱりちょっと違う気がするのよね。魔法の本を読んだのだけれど」
「まあ、魔法と光の力は違うらしいからな」
「そうなの?」
「そうなの? って、お前さんの力だろうが」
「まあ、そうだけど……」
そう、その通り。レドラックの言う通りだ。
光の力を持っているのはクリスティーナ本人である。けれどクリスティーナはそれがどんな力なのか詳しくは知らなかった。
なぜかと言うと勉強が嫌いだったからだ。読み書きは貴族として必須だと言うから無理矢理覚えさせられたが、そのほかの勉強はワガママを言って拒否し続けてきた。
今までも、そして悪夢の中でもだ。何度も最悪の運命を迎える悪夢の中でもクリスティーナは勉強が大嫌いで、学校の授業でも提出課題を他人に無理矢理やらせていたほどである。
そのおかけで自分の持っている光の力のことすらまともに知らない始末、というわけだ。
けれど、今回は違う。モンスター討伐に行くということで少しだけ本を読んだりして勉強してきたのだ。
えらい。本当にえらい。クリスティーナにしては大進歩である。
「まあでも、なんとなく使えるわ。魔法の本にある魔法を真似て使えば、なんとなく」
「なんとなくでスライムを燃やすんじゃないよ。ったく」
呆れたお嬢様である。しかし、これなら多少は無理もできる。
なんとなくレドラックはクリスティーナの力が気になり始めていた。面倒事は嫌いで最初はさっさと帰りたいと思っていたのに、今はもう少しクリスティーナの力を見てみたいと思い始めていたのだ。
「だが、油断するんじゃねえぞ」
「わかってる。あ、そこ!」
話の途中でクリスティーナはスライムを見つけ、光の力らを放った。
「ホーリーフレイム!」
「ボギョッ」
白い炎がスライムを包む。そして一瞬でスライムを燃やし尽くし、後には魔石だけが地面に残っていた。
「ふふん、五個め」
クリスティーナは地面に落ちた魔石を嬉しそうに拾い上げ袋にしまうの。
「さあ、ジャンジャン行くわよ!」
「だから、大声を出すんじゃない」
こうしてクリスティーナたちの魔物狩りは進んでいった。そして、日が傾く頃には袋いっぱいの魔石を集めることができた。
「大量大量」
「ああ、大量、だが……」
大漁だ。信じられないくらいだ。この一帯は魔物が少なく比較的平和なエリアのはずだ。
それなのに一日で袋いっぱいの魔石が集まるほどスライムがいた。
何かがおかしい。
「お嬢様、そろそろ帰る支度を」
「ねえ見て! 何か大きなのがいる!」
大きな物。それを見つけたクリスティーナはその大きな物を指さした。
「ヤベェぞ。あれは、ビッグスライムだ」
クリスティーナの指し示す先。そこには確かに大きな物がいた。
それは大きなスライムだった。熊の五倍以上はあるであろう大きさの血のような色をしたスライムである。
ビッグスライム。その名の通り大きなスライムで、スライムのボス的な存在である。そして、その特徴として体内からスライムを生み出すことができる。
「逃げるぞ」
「え、でも」
「あいつはヤバい。二人だけじゃ無理だ」
「そうなの?」
茂みに隠れた二人は森の木々の間をのそのそと動くビッグスライムを観察する。幸いにもまだこちらには気が付いていないようで攻撃してくる様子はない。
「あの大きさじゃ俺の剣がコアに届かない。コアを破壊さなけりゃスライムは死なないんだ」
「ふーん、そうなのね。で、高いの?」
「あのなぁ、お嬢様。いい加減に」
してくれよ、と言おうとしたレドラックだったが、彼が最後まで言い終わる前にクリスティーナは動いた。
「おいやめろ!」
クリスティーナは茂みから立ち上がった。それをレドラックは必死に止めようとした。
だが、遅かった。
「ホーリーグレイブ!」
レドラックが止める前にクリスティーナは光の力をぶっ放したのである。
そして。
「嘘だろ……」
クリスティーナの光の力は見事にビッグスライムのコアをぶち抜いた。
「ピュギギギギィィ!」
珍妙な悲鳴を上げてスライムが溶けて消えていく。そして、残ったのは普通のスライムの何倍もの大きさの赤黒いコアだけだった。
「信じられねえ」
「お金、お金」
呆然とするレドラック。それを置いてコアに近づこうとするクリスティーナ。
そんなクリスティーナを見てレドラックはハッと我に返る。そして、見つける。
「あぶねえ!」
「え?」
油断していた。倒したと思っていた。
だが、終わりではなかった。ビッグスライムの近くにはそいつが生み出したスライムが残っていたのだ。
そのスライムの一匹がクリスティーナに飛び掛かった。
「ピャゴッ」
けれどスライムはクリスティーナの肌に傷をつけることは出来なかった。
「だから油断するなって言っただろうが!」
スライムがクリスティーナに飛びつく寸前に、素早くクリスティーナに接近したレドラックがスライムを叩き切ったのである。そのおかげでクリスティーナは怪我をせずに済んだ。
「やめろって言っただろうが! 人の言うことは大人しく」
「大声、だしてもいいの?」
「ああ!? 今はそれどころじゃ」
「ふふ、わかってる。ごめんなさい、レドラック。私がいけなかったわ」
クリスティーナはレドラックの叱責に対し素直に頭を下げて謝罪した。それを見たレドラックは口を開けたまま、それ以上言葉が出てこなかった。
「あ、あのなあ」
「ありがとう。あなたのおかけで助かったわ」
ありがとう。そう言ってクリスティーナは笑顔を見せた。その笑顔を見たレドラックは怒る気が失せたのか、大きなため息をついて頭をガシガシとかいた。
「……帰るぞ、いいな?」
「うん!」
こうしてクリスティーナとレドラックの魔物狩り初日が終わったのである。
それから帰宅したクリスティーナは収穫物である魔石を屋敷の使用人たちに自慢して見せた。
それを見た執事長のロンドは卒倒してしまった。
「お、おめでとうごさいます、お嬢様」
エダは顔を引きつらさながそう言った。心の中でレドラックを役立たずと罵りながら、何とか笑顔でクリスティーナを労った。
そしてニナはと言うと。
「すごいです! すごいすごい!」
と手放しでクリスティーナをほめていた。
「そうでしょうそうでしょう! これからもっと頑張るんだから!」
こうして初めてのモンスター狩りは何とか無事に終わったのであった。
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