第11話 金策するのよ!
お金。それは天下のまわり物である。
「どうすればお金を稼げるのかしら」
その日もクリスティーナは日記帳とにらめっこしながらお金のことを考えていた。
「私には、お金がない。いいえ、お金はあるわ。ただ、自由にできるお金がないのよ」
クリスティーナはいろいろと考えた。自分がどういう状況に置かれているのかを。
自分は上級貴族であるクリスペール家のひとり娘だ。クリスペール家はそこそこお金持ちの貴族であり、生活には困っていない。クリスティーナが欲しいと言ったものは大体手に入る。
だが、厳密に言うとそれはクリスペール家の金だ。クリスティーナ自身が自由にできる金ではない。
事実、お金を管理している執事長のロンドに、
「お金をちょうだい!」
と頼んでみたが断られてしまった。欲しい物は買い与えるからそれで我慢してくれ、と言われてしまったのだ。
「私にはお金がない。力も、何もない」
クリスティーナは気が付いてしまった。自分が何もできない人間だということに。
クリスティーナは使用人たちにお金を稼ぐにはどうしたらいいのかと聞いて回った。その意見をまとめるとこうだ。
働け。以上。
しかし、働くにしても何をするべきなのかわからない。というか、何もできない。
裁縫はできない。今のクリスティーナが針と糸を使ったら自分の手を縫ってしまうだろう。
料理もできない。今のクリスティーナに包丁を渡したら自分の指を輪切りにしてしまうだろう。
掃除は? 洗濯は? もちろんできない。そのほかの仕事も考えたが、どれもこれもできそうになかった。
それにそもそもクリスティーナはまだ五歳だ。そんな幼い子供が仕事に就き大金を稼ぐなど無理な話なのである。
そんな八方ふさがり状態のクリスティーナにニナはある提案をした。
「町に出てみましょう、お嬢様。もしかしたら何かヒントがあるかもしれません」
「……そうね。部屋で考えてるだけじゃダメかもしれないわね」
ということでクリスティーナたちは町に出たのだ。
「とは言ったものの、いったいどうすれば」
クリスティーナは馬車の窓から町の様子を眺めていた。そんなクリスティーナの目にある物が飛び込んできた。
「あれは、兵士? どうしてあんなに?」
兵士。クリスティーナの視界に皮鎧などで武装した兵士の集団が入って来たのだ。それを見たエダはクリスティーナに兵士たちのことを説明した。
「ああ、あれはモンスターの討伐に行く一団でしょう。最近、この町に続く街道に凶暴なモンスターが現れたという噂を耳にしています」
モンスター。それは闇の力に侵された異形の怪物たちのことである。モンスターたちはそのほとんどが好戦的であり、モンスターが人間を襲う事件も多発している。
「そ、そう言えば、モンスターを倒して生活する職業があると聞いたことがあります。確か、ハンター、という名前の」
「ハンター……」
ニナの説明を聞いたエダは、ヤバい、と思った。そして、実際にヤバかった。
「そうか、モンスターを倒せば、お金になる……」
「お、お嬢様?」
ヤバいと思ったがすでに手遅れだった。
「そう言えば、モンスターは光の力に弱いって、家庭教師が言ってたわ」
「馬鹿な考えはおやめください」
馬鹿だ。本当に馬鹿だ。
そして、馬鹿は馬鹿だから止まらないのだ。
「モンスターを倒せばお金になる。それに光の力を使いこなす練習にもなる」
「お嬢様……」
「エダ! モンスターを倒しに行くわよ!」
「お嬢様!」
クリスティーナは止まらなかった。止まると言うことを知らなかった。
「ダメです危ないです危険ですおやめください!」
「いいじゃない! 光の力があるんだから!」
「全然よくありません!」
全然よくない。まったくよろしくない。
よろしくないが、止まりそうにもない。
「絶っっっっっ対にダメです!」
エダは必死にクリスティーナを止めようとした。
確かにクリスティーナはロクでもない子供だ。ワガママで自分勝手で自己中心的で周囲の人間のことなど考えようともしない子供だ。
けれど、だからと言って死んでいいと言うわけではない。モンスターなどと言う危険な存在にわざわざ関わる必要などないのだ。
だが、クリスティーナは止まらなかった。
「わかったわ。やめておく」
「わかってくださいましたか」
「一人で行くのはやめておくわ」
「お嬢様!」
もう、どうしようもなかった。
「さあ! モンスターを倒してガッポガッポ稼ぐわよ!」
クリスティーナはもう止まりそうにもなかった。
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