第3話 最悪のパーティー

 その日、クリスティーナの屋敷で誕生日パーティーが開かれた。


「おめでとうございます、お嬢様」

「おめでとうございます、クリスティーナ様」


 広間中から壇上のクリスティーナをパーティーの参加者が祝福している。その誰もが身なりのいい服や宝飾品を身に着けている。


 そして、クリスティーナも同様にフリルの付いた派手なドレスに身を包み、宝石まみれの贅沢なティアラなんかも付けていた。


「お嬢様!」

「クリスティーナ様!」

「おめでとうございます!」


 誰も彼もが彼女を祝福していた。


 けれど彼女はまったく気が付いていなかった。その場にいる参加者全員、心からクリスティーナの誕生日を祝ってなどいないことを。


 それは屋敷の使用人たちも同じだった。誰も彼女の誕生日など祝う気になれなかった。


 それにクリスティーナはそんな祝福の声など聞いてもいなかった。


「ちょっと何よこの飾り付けは! なんで私の指示に従わなかったの!」

「あの、ですが。これは、お嬢様が」

「うるさい! 今は気分じゃないの! やり直して!」

「お嬢様、今はパーティーの最中で」

「黙りなさい! 私に恥をかかせたいの!」

「ですが、お嬢様」


 クリスティーナはワガママだった。


「マズイ! こんな物を出して恥ずかしくないの! 今すぐ料理人をクビにして!」

「も、申し訳ありません、お嬢様」

「謝るヒマがあったら今すぐ作り直しなさい!」


 彼女はどんな時でも自分勝手で自己中心的だった。


「いつこいつも役立たずばかり! なんで私が嫌な思いしなくちゃならないの!


 クリスティーナは終始こんな様子だった。いつも、毎日、今までずっとだ。


 しかし、誰も彼女に意見する者はいなかった。なにせ彼女は上級貴族のひとり娘。しかも光の力に選ばれた聖女候補の一人。


 誰も彼女に逆らえなかった。逆らえばどうなるかわからないからだ。


「それにどうなってるの! 招待客の半分も来てないじゃない!」

「そ、それは無理でございます。国王様や王妃様まで、こちらへ呼びつけるなど」

「それをどうにかするのがあなたの仕事でしょう!」

「も、申し訳ありません、お嬢様」

「それにお父様はどうして来ないの!」

「だ、旦那様はお忙しく」

「うるさい! どいつもこいつも!」


 パーティーは最悪だった。クリスティーナはすべてが気にくわなかった。


「それもこれも、あの悪夢のせいよ……!」


 何もかもが気に食わなかった。そして、そんな傍若無人な態度のクリスティーナに誰もが呆れていた。


「あれが本当に聖女なのか?」

「勘弁してくれ」

「信じられませんわ」

「もし本物ならこの国は終わりだ」


 パーティーの最中だと言うのに使用人たちを責め立てるクリスティーナを見たパーティーの参加者たちはひそひそとそんなことを言っていた。


 もちろんそんなことなど彼女は気づきもしない。


「無能! 無能! 無能! どいつもこいつも!」


 夜が更けていく。屋敷の広間にはクリスティーナの声だけが響いていた。

 

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