第10話 宣言
祖父は、85歳で亡くなった。夕食を居間でとり、トイレに行くと言って、いくら経っても戻ってこない祖父を心配してばあちゃんが様子を見に行くと、洗面所で倒れていたとの事だった。
私の父が駆け着けた時には、救急隊員の方も既に到着していたのだが、その時もばあちゃんは祖父に「父さん、何寝てる、早く起きれと」と何度も呼び掛けていたとの事だった。
アサ子ばあちゃんは、体が弱かった祖父との別れを若い時から何時も覚悟していたと思う。
気丈なばあちゃんは、この男を最期まで看取るのがオレ(※)の仕事だと思っていた事だろう。
しかし、その時はあまりに突然過ぎて、受け止めれなかったんだと思う。
※ばあちゃんは、親しい人、身内の前での一人称はオレだった。
ばあちゃんもコロナ禍の中一昨年、祖父と私の実の祖母が待つ場所へ逝った。90歳だった。
実の祖母とアサ子ばあちゃんと再会の会話はどうだったかを想像した事がある。
祖母は、当然祖父と二人の子供を守り抜いてくれたばあちゃんへ感謝の意を伝える筈だ、その時のアサ子ばあちゃんの返答は、「仕方ねえべ、オレしかいなかったんだもの。」とこれまた当然の様に応える事だろう。ばあちゃんはそういう女性(ひと)だった
自分の脳裏にある記憶を呼び起こし、祖父母の人生をかえりみると、自分の状況がどれだけ恵まれていることに気づかせられる。
先ず私は今健康なのだ。
そして独りでもない。私を心配し、電話をしてくれる家族がいる、また幸運な事に、私には過酷な人生をしっかりと走り切った先代達がおり、その人達を近くで見ていたのである。
こんな事でくよくよしていると皆に怒られてしまう。こうしてはいられないと思う。
娘と再会する日に備え、父親として今できる事をしっかりやっていこう。
娘に会えなくても、私は智花の父親なんだ。
そんな気持ちが心のそこから少しづつ湧いてくる・・・。
娘と再び会う日に、私は必ず伝えたい事がある。
「智花もパパも、我が家の命のバトンを受けたんだ。体が元気であれば何でもできる。体が弱かったひいじいちゃんでも立派に必死に生きたんだよ。難しいことだけど、環境のせいにしちゃだめだよ。
先ずは、パパが手本を見せてあげる。」
世界で一番愛する娘へ
手本を見せてくれた祖父母、今支えてくれている親愛なる家族のみんなへ
私は宣言する「私はゾンビ男にはならない、見てろ!!」
完
二人のゾンビ男 野松 彦秋 @koneri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます