第4話 赤ふんどし

祖父の最初に遭遇した困難を聞いたのが小学校の頃だったと思う。

小学4年の私は、アンネの日記を夏休みの読書感想文した事もあり、戦争に興味を持った事から

祖父に戦争体験を聞いたのである。


祖父は、若い時(多分18歳~20歳)海軍へ徴兵され、戦艦にのり無線傍受を担当する仕事をしたという。子供心に、海軍はカッコいいという先入観で話を聞き始め、武勇伝を聞かされると思っていたが、突然、祖父が一冊の本を探し、私に見せ、軍艦の写真を見せられた。


シオリが挟まったページを見せ、乗っていた軍艦を指さし、これがおじいちゃんの乗っていた船だと教えてくれた。


本の内容は細かく覚えていないが、軍艦の紹介及び撃沈された日、乗船員数、死亡者数が書かれていたと思う。

祖父は、言葉少なに説明してくれた。乗船した戦艦はアメリカ軍(空軍)と遭遇、戦闘の末、軍艦に穴が開き沈没したと。敵の飛行機から銃弾の雨がふり、周囲の人たちがみんな撃たれて死んだ人が沢山いたが、奇跡的に祖父には弾が当たらず、生き残る事ができたと教えてくれた。敵の銃弾が降り注ぐ中、当時死んだ人の位置と祖父の位置はそれほど変わらず、正に運だけで生き残ったと言っていた。


船が沈没する時も、非常に危険でありそのタイミング次第で船と一緒に海に引きずりこまれるとも聞き、聞いてて怖くなったのを覚えている。

更に恐怖を感じたのが、海に投げ出された後の祖父の体験であった。

船が沈没した場合、必ず味方の船が状況確認の為に来てくれるのだが、当然直ぐには来れない。

祖父の船が沈没した時も、救助船が来たのが次の日だったという。


救助船を待つ間に体力のない者は力尽き死んでしまったと聞いた。

祖父は浮いていた木に必死にしがみつき夜を明かしたとの事だった。


その時、海軍の人がはく褌(ふんどし)が赤い意味を教えてもらった事を覚えている。

海に放り出された時に、流れた血に誘われてサメが襲ってくる可能性が高いそうで、その時に

赤い褌をしているとサメが警戒して近寄ってこないためと教わったとの事だそうだ。

子供だった私は、無条件に信じた話だったが、科学的根拠があるかは確認していない。


漆黒の闇と祖父が表現した夜の海は、沈没した船から生きのびた戦友も容赦なく死へ引きずっていったとの事だった。死んでしまった人の多くが、救助を待っている間に、「お母さん、お母さん」と泣いていたと。泣くと体力が削られる為、泣いた人は必ず最後は力尽き死んでいったとの事だった。


祖父は、唯救助される船が来てくれる事を信じ、我慢してじっと待ったから生き残れたとの事だった。祖父は孫の私にその時教えたかったのは、我慢することの大事さだと思うが、今の私が想うのは、死んでいった戦友の人たちは、極限まで我慢して、体力の限界に気づき最後は泣いてしまったのではないかと想像してしまう。多分私がその場にいても同じ運命になっていたのではないかと思う。



乗員数 300名以上いた中で救助された人は50名以下であった。


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