第5話 シンボル

都会に緑地を作ると生産性が取れないと思いがちだが、視覚から入る印象による滞在時間の増加が見られる。人は気づかぬどこかで癒しを求めているのだろう。


交流の場になるような散歩道とシンボルツリーを新たにプランニングし直し倉庫的建築物から土地に根差し定着する建物へとデザインが変更された。猿渡氏から冷たいアイスブルーの吐息は消え色若葉のようなグリーンに変わっている。


「白玖Good job だよ。また助けてもらっちゃったね。」


「白玖って…」名前で呼ばれ照れが隠せず小さな笑顔がこぼれる。


「だって、猿渡さんが饒舌に話すことなんてなかったからもうこの企画は駄目かなって思ってたんだよね」


「お役に立てて良かったです」


「本当にありがとう、すごいよ白玖。

そう言えば、タクシーの中でもタブレットに何か書いていたけど、あれは何?」


「猿渡さんとその周りの吐息をオーラに見立てて絵にしていたんです。写真が撮れるわけではないので、絵にするしかなくて」


手元のタブレットを開き書いた絵を見せる。


未知瑠は一眼見た瞬間に心を奪われた。

その絵は朗らかな笑顔の猿渡氏とその周りに花びらのように方々に散りばめられた吐息のオーラが鮮やかに描かれていた。


「白玖には猿渡さんがこんな風に見えていたんだねー。素敵だよ。悔しいくらいに最高だよ」


両手にタブレットを受け取り、まじまじと細部まで花を見る。ブルーからグリーンにグラデーションした花びらが外郭を囲い内側に向かって暖かな色合いの花が描かれている。


誉められ事の喜びを噛み締めている白玖。

人のために動いた事で一つの結果を出す事ができた。あの日、ストールを拾うという行動を起こし秘密を共有し、未知瑠の為に働くことで新しい道が開き始めた。


いい事が起きると信じて待つ事よりも、行動を起こして自分から掴みに行く事の大事さに気付かされた。



「さぁ、大型案件決まった日は、飲むよー」



若手のスタッフが両手に飲み物の入ったビニール袋を下げ、デリバリーの食事が届く。


音楽をかけ、ラフな飲み会が始まる。



白玖は未知瑠に呼び出され部屋を移る。


「今回、白玖の秘密のチカラを使わせてもらって大きな仕事が掴めて私としても会社として白玖は戦力になると感じたんだけど、契約社員として6ヶ月間ここで働いて見ない?」


「えっー」


思ってもいない事を言われ、脳内が喜びと衝撃でパニックになっている。すぐにでもOKしたい気持ちを落ち着かせ、言葉を選びながら返事をする。


「もちろんです。僕にできる事があるか分からないのですが仕事がしたいです」


「よかった。これで服も無駄にならないわ」


今後を見越して僕を磨いてくれたのかと考えつつ更なるブラッシュアップが必要だと強い決意が生まれた。


ブルーノマーズのPOPな洋画が隣の部屋から聞こえてくる。選曲は若手スタッフなのか、クラブのようにリズム良く体を揺らしている。


「皆さん、本日から契約社員として働いてもらう渋木白玖君です。よろしくね」


未知瑠の紹介で拍手が起き、スタッフ4、5人が白玖の周りに集まってくる。認められ必要とされた心地よさと、周囲の笑顔に自然と心地よくなる。自己紹介や連絡先の交換で自分の場所が生まれた瞬間に感じられた。


ふと、未知瑠を見ると気持ち良さそうに体を揺らしてお酒を飲んでいる。年齢も、年収も差のある彼女から目が離せないでいた。

あぁこの人の為に、働きたい。

心からそう願う人に出会った。

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朝日が割り込むまで踊りつづけたい 茉莉花-Matsurika- @nekono_nomiso_

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