第2話 磨きあげ
「もしよかったら、明日私に1日付き合ってくれない?」
「えっ?1日?」
「予定ある?」
「えっとー
空けます1日」
「じゃあ、この場所に11時にきて」
受け取った名刺には
唐津設計事務所 設計士 唐津未知瑠
と書いてある。
名刺を渡した彼女は先程とは違う吐息でくるりと振り返り立ち去っていく。どうやら、好感触のようだ。
現場に戻り、彼女との会話を一語も漏らさず思い返す。
あっ、まずいぞ。何を着ていけばいいんだ。スーツか?私服か?
翌日、渋谷区にある唐津設計事務所を訪れた。
迷いに迷った末、スーツをきて訪問する事にしたが、これで正しかったのかはわからない。
「こんにちは、唐津未知瑠さんと約束をしています。渋木白玖といいます」
「はい。お待ち下さい」
ここまでは順調、問題なし。
「あー君、来てくれたのね。渋木白玖君っていうのね。
なるほどー、スーツね」
ん?間違えたか?
違う空気を感じ恥ずかしくなる。
「よし、行こう」
そういって、彼女は僕を連れ出すように先を歩く。彼女の一歩後ろをしばらく歩く。着いた先に現れたのは高級感のある重厚な門柱。艶黒のマーブル模様の大理石で覆われ、店の前を通るのすら憚られる洋服店だ。
「ここで、服買おう」
「いや、こんな高そうなお店無理です」
「大丈夫、あたしが着て欲しいだけだから、プレゼントする」
そういって、彼女は僕を入り口に置き去りにしてぐんぐん店内に入っていく。これ以上置いていかれると一歩も動けなくなるというところでやっと僕の一歩がでた。
試着する事十数回。
どこに腕を通すかもわからないようなデザインだけは遠慮し、一週間分のコーディネートを揃えて両手に紙袋を下げて店を後にした。
もちろん、新調したての軽やかなラインのジャケットを羽織っている。
「次、美容室だね」
「へっ?」
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