朝日が割り込むまで踊りつづけたい
茉莉花-Matsurika-
第1話 出会い
片側三車線のうち二車線を工事関係車両が占め表参道通りに渋滞を作り出す。夜中の工事、車通りは減るが東京の忙しなさが深夜2時でも伝わる場所だ。深夜の肉体労働は給与もよく人間関係も気にならないので俺には向いている。
あの人に出会うまではそう思っていた。
一ヶ月前
タクシーから降りた彼女は羽衣のような柔らかいヴェールを落とした事に気づかず歩き出した。彼女の吐息が気になり落としたヴェールに駆けつけ彼女を追いかけた。
無我夢中で走った。
作業着姿で誘導灯を持ったまま、自分の汗の匂いが漂ってくる。それでも彼女を呼び止めなけばいけないという衝動で追いかける。
「すみません、すみません。これ」
適切なセリフすら出てこない。
「あっ、私のストール」
「落ちてました」
「そっか、わざわざありがとう」
「じゃあ、
ぼくはこれで」
「あっ、待って。ちょっと待って。
お礼しなきゃね」
「いや別に
そんなつもりで届けたわけじゃ」
「いいのよ。遠慮しないで。
このストールね母からもらった大事な物なのよ。本当に助かった」
お礼とは。言葉以外にこれ以上何か僕にしてくれるというのだろうか。淡い期待を脳内から排除しようとする理性が働く。馬鹿な事を口にするなとアドレナリンを抑制するものの言葉がペラペラと口から溢れ出す。
「やっぱり僕。
お礼ほしいです」
「そう、よかったわ。何がいいのかしら」
「僕の秘密を
聞いてほしいです」
「聞いてほしいって、それだけ?」
「はい、
それだけでいいです」
「あなたが、そういうなら。
いいわ。聞かせて。
あなたの秘密」
……。
僕の名前は渋木白玖(はく)彼女の名前は唐津未知瑠(みちる)7つ年上の35歳
僕らの出会いの瞬間は訪れるべくして起きた。
彼女は僕の秘密を真剣な眼差しで聞いた。表参道の裏路地の人一人すら、誰も通らない深夜2時に僕らは秘密を共有した。
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