四幕 鬼と人
―賑やかな島。『鬼ヶ島』―
その昔、大江島を酒呑童子が支配し今では鬼達の住みかとなり人々に恐れられていた。
そんな島の中を大きな鷹の背中に乗り飛び回る鬼の姿があった…。
「まずいまずい!!姉さんに叱られる~!!」
―水無瀬 椛― 花や式神を使役し肉弾戦を主体とする鬼の少女。
彼女の髪は風に吹かれてさらさらと揺らいでいた…。その髪は昔の黒髪から桃色の髪に変色…あの小さかった水色の角は成長と共に伸びた。
さらには…身体中にあったあの斑点やアザは綺麗さっぱり消えて…色白の美しい少女へと彼女は育っていた。
これは鬼化の影響
「もっと、スピード上げて!!」
その一声で鷹は羽を縮めビュンッ!!とスピードを速めた。その速さで私を振り落とそうとする程風が全身へと伝わった。
「うううううっ!!」
大急ぎでその広い島を駆け食堂のある建物へ突っ込んで行った。
ドガンッ!!
その建物に付くや否や私と式はその床に突き刺さった。
「いてて…。戻っていいよ」
手を掲げ式を取り込んだ。
「あぁ…まずいまずい…!」
廊下を駆け大急ぎで華澄の待つ食堂へ向かう。
この廊下を走ると昔を思い出す。昔は食堂までが凄く遠く感じたが、十何年も経った今じゃ体も大きくなり歩幅も伸びた。昔の様に果てしなく遠くは感じなくなった。
それと、同時に鬼化も進んだのか大量も筋力も普通の人より多い。こんな廊下、屁でもない。
バァンッ!!
ドアを開けて大慌てで食堂に入った
「ヒィー!ヒィー!姉さんごめっ…」
大慌てで入ったものの…その中には華澄姉さんの姿は食堂には無く、楓達が席でご飯を食べていた。
「お?椛~!華澄ならまだ起きてねぇぞ?」
「え…?…そんなぁ~……!!」
その一言で一気に力が抜けてそこに崩れ去った…
「あんなに…慌てたのにぃ~…」
「ありゃりゃ…姉さんの奴…時間間違えたみたいだな…」
「こりゃ…あと一時間はこねぇな…」
駒丸さんと伊吹がそう話した……
「あぁ……姉さんなら良くあることだけど~…!」
「とりあえず…ご飯食べな?」
「うぅん…」
牛若が珍しく優しく手を差しのべてくれた…
と…なんやかんやあって…今はお魚を食べている…
「…床にまで突き刺さったのに……」
「…ま…まぁ…その分…急いだよって…華澄に自慢できるよ…」
「それ意味ある~…?」
牛若が親身になって話しを聞いてくれた…
それに比べて…この二人は
「…ごめん、床に突き刺さったって意味わかんないんだけど?」
「鬼らしくていいじゃねぇか!!」
とまぁ…姉さんを待ちつつご飯をちびちび食べていると…
「かぷっ!」
「…」
私の頭を何かが、かぷかぷと噛みついてきた…
「……はぁ」
頭の上には虎模様の入った金髪の鬼…
額には小さな角が二本…頭には虎耳……幼い見た目をした鬼が私の頭をかぷかぷと甘噛みしている…。
「…姫ぇー。やめて~」
「ん?あー…ごめんごめん!椛の頭が美味しそうだったから~」
彼女は『羅刹 虎子』(らせつ とらこ)。四天王の一人であの中では一番幼いらしい…。
かわいすぎて、他の皆はこの子のことを『姫』って呼んでる。
「ねーねーもみじ!遊ぼ!」
「ごめんね~姫ー。この後、姉さんと出掛けるのよ~」
「…んじゃ!私も行く!」
虎子がそう言うと伊吹達は顔をしかめた。
「んー…姉さんが見といてくれんなら…いいと思うが…」
その通り…虎子は四天王だけど、色々と幼い……。私より先に鬼ヶ島にいたはずなのに、いつの間にか下の妹みたいな立ち位置になっていた子だし……。
そんな話をしていると、やっと姉さんが起きてきた。
「ふぁ~…おはよー」
「あ!姉さん!待ってたよー!!」
「お姉ちゃん!虎子も一緒に行きたい!!」
姉さんが食堂に入ってきたとたん私と虎子は姉さんに飛び付く…
「え?あぁー…なになに?」
寝ぼけた顔で私達の顔を見る。
寝ぼけた姉さんに伊吹が…
「華澄!わりぃけど…虎子のこと任せたられるか…?」
…と、軽く聞いた。伊吹もどう返ってくるか解っているのだろう…。
「ん?いいわよ?」
予想通り。この人はだいたい何でも出来るから何か聞いても「いいよ」と軽く答えるのだ…。
「やったーー!」
虎子の波乱万丈ぶりを見ると…かわいいけど…人が多いあの町で虎子の面倒を見るなんて…さすがに…私には出来ない……。
…まぁ。姉さんだったら大丈夫だろうけど……
「…ふふっ。じゃあ、行きますよ…!」
バサッ!!
大鷹は羽を広げ私達を乗せて街へ飛んで行く。
ここの上空を飛ぶと毎回、あの日のことを思い出す。…あんなにも綺麗な景色をみて…とてもワクワクした…あの虹が掛かった雨上がりの空…。
今でも、脳裏に焼き付いている…
「ふぁぁー……むにゃ…。」
そんなことを思い出している最中…姉さんは後ろで眠たそうに目を擦る…。この人…昨日寝たのか?
「姉さん……昨日夜更かししたでしょ?」
「なっ!そ…そんなことするわけ無いじゃない!?お…お肌に悪いし~」
「…ぬぬぬ……!」
怪しいから変な声出しながら疑う。
「夜中にお菓子なんて食べてないし!勝手に食堂のご飯を盗み食いなんてしてないわよ!!」
いや…それもう…暴露している様なもとじゃ…
「お姉ちゃん、お菓子食べたの?夜中に盗み食いまで!?」
「しまっ…!」
分かりやす…
「いいなぁ~!今度、虎子も一緒によふかしする!!」
「えー…えぇ?ちょっと…それは~……」
「えぇ…!……だめ…?」
「うぐっ!わかった!じゃ…じゃあ伊吹達には…ナイショ…ね?」
「うん!!やったーー!」
「まったく…伊吹にバレたら大目玉ですよ~…」
虎子も上手い子だ…。自分の可愛さを理解しているし…どうすれば姉さんがデレるか解ってる…。
まぁ…姉さんがちょろすぎるだけだけど……
…と話していたら、あっという間に着いた。
「二人ともー…人気の少ない森に着陸するから捕まって」
高度を落として、町外れの森の方へ降り立った。
「ふぅー…」
「んーーっ!あぁ…。ついたついた…」
「わーい!!楽しかった!!」
さっそく、虎子が町の方へ走り出した。
「虎子!角隠して!!」
「おっと!忘れてた~」
「まったく……」
「うふふ…そんなにお買い物が楽しみなのね~」
「ちょっと…姉さんも気をつけてよ?伊吹に面倒見てって任されたんだからー…」
「大丈夫よ~!虎子は頭いいもん」
「えぇ…」
そんなこんなで…色々と不安事はあるけど…私達三人は町に入った。
「うわぁ~綺麗なのがいっぱい!」
虎子は頭上に吊るされた風鈴やお店に置かれている簪と言った綺麗な物を見ていた。
「むふふ…何食べよっかな~…」
「もしかして…食べ物目的??」
姉さんは信じられない物を見るような顔で私を見た。
「え!悪いですか!?」
食い気味に発した。
「いや…悪くは無いけど~……。と…虎子は何が見たい?」
「へ?別に無いよ??…あっ!だけど、猫さん見たい!!」
「?猫さん??」
「こっちこっち!!」
「あっ!虎子!!危ないわよー!」
虎子は一目散走っていった。
そして、ある店に止まった。
「ほら!!あれあれ!!」
「はぁ…はぁ……どれ?」
虎子が何かを指差し、私はその先に目線をやった。
そこにあったのは…『招き猫』。
「猫さんって…これのことかぁ~」
「虎子!あの猫さん欲しいんだ!」
「多分…あれは買えないんじゃ……」
あまり…虎子の悲しむ顔は見たくない……
「いらっしゃい!」
店内から、威勢のいい声が…。ツルツルの頭に白い鉢巻を巻いたいかにもな小太りのおじさんが出てきた……。
「なんか欲しいもんでもあんのかい?」
「いや…じつは…」
「虎子ね!あの猫さんが欲しいの!!」
「!!すみません!!あれは売り物じゃないですよね~?」
大慌てで虎子の口を塞いぐ…
「ん?あー!招き猫かい!確かに売り物じゃないけど」
「で…ですよね~!すみません!じゃ…じゃあここで…」
「…そんなぁ…」
虎子がうつ向いてしまった…。
「…ほら、お姉ちゃんが代わりに何か買ってあげるから…ね?」
「…うん……」
「…」
店主はそんな虎子を見て、招き猫へ目をやった…。何か考えているみたいだ…
「そうだねー…。よしっ!」
「へ?」
店主は招き猫を虎子の前に持って来た。
「これあげるよ」
「えっ!いやいや…売り物じゃないし、ましてや招き猫なんて貰ったら…!!」
「いいのいいの…!こいつがお嬢ちゃんと行きたいんだとさ!はい!」
そう言って店主は虎子の腕に招き猫を渡した。
「…。」
虎子は混乱したのか、一瞬とぼけた顔をした。
だけど、その顔は直ぐに目をキラキラと輝かせ笑顔へなった。
「わぁ~!!おじさんいいの!?」
「うん!いいよ!こいつも嬢ちゃんの笑顔が見たいんだとさ!」
「やった!!」
虎子は嬉しさのあまりその柔らかな肌を招き猫に擦り付けギュ~っと抱き締めた。
「おじさんありがと!!」
「うんうん…大事にしてね」
「うん!!」
「あ…ありがとうございます…!!」
私は深々と頭を下げる。するとおじさんは優しい笑顔で「いえいえ…」と言っていた。
見ず知らずの女の子に何故こんなことが出来るのか…正直私にはわからない…。
この優しい顔の裏では…何か良からぬことを考えているかも知れない…。こんな考えが過った瞬間…私は……「昔と変わらないな…私は…」と…思ってしまった…。
もしかしたら、目付きが怖くなっているかも知れない…「こんな優しい人間…本当にいるのか…?」と言う考えが頭から抜けない…。
この後、どう返せばいいか解らなくて…言葉が出ない……。
そう…困っている時…
「あらあら~。虎子、猫さん貰ったの?」
姉さんがやっと私達に追い付いて来た。
「姉さん…!!」
私は頭を上げ、姉さんの方を見つめる。
姉さんは私の顔を見るなり何かに気づいて、直ぐに話し始めた。
「ありがとうございますわ…。あら…いいお店ですわね~。商品も綺麗に手入れされてあって…お店も埃一つない…。そうだわ!折角だし…何か買って行こうかしらね~」
よく、こんなにすらすら話せるものだ……。
私は目を合わせただけなのに…姉さんはどうして私のSOSに気づいたのだろうか……。
私は姉さんの様にうまく喋れないし…虎子の様に周りに笑顔を振り撒けない……。
私は…今だにひとりぼっちの時のあの私と…変われていない……。
どうすれば…変われるか…どうすれば…もっと…楽しく…もっと…みんなの様に……どうすれば……
「も…じ?……もみじ?…椛!!」
「はっ!」
気づけば、姉さんが私に話しかけに来てた…。
「あっごめん!なになに?」
「この髪止め…どっちが似合う?」
「あぁ…えっとー……」
その両手には水色の百合の装飾の髪止め…もう一つは黄金色の蝶の髪止め……。
正直、どちらも姉さんには似合っている……
でも…「どちらも似合う」って言うと……
『えぇー!私はどっちが!って言ってるの!!両方はダメ!!』
って…言うのだろうなー……
「……うん」
強いて言うなら……
「蝶の方が姉さんには似合っていると思いますよ?」
「…なるほどね~。んじゃ!両方ください!!」
「へい!まいど!」
え?いやいや…両方買うんだったらなんで聞いたのよ…!
「ありがとうございます!!」
「うふふ~」
なんかウキウキで出てきた……。なんだあの笑顔…。
「お姉ちゃん。凄い嬉しそう」
カランコロンと下駄をならして私達の前に来た。
すると、姉さんは私の前にその包みの片方を渡した。
「ん?」
「はい!プレゼント!」
「へ?」
その包みを開くと、さっきの水色の百合の髪止めが……。
「これを…私に?」
「ええ…。だって私は椛が選んでくれた方を着けるからね?だから…椛も私が選んだ髪止めを着けなさい」
姉さんは何を…こんなおしゃれで高い髪止めが私に似合うわけが…
「これは…私には似合わないよ…。姉さんが着け…」
「だーめ…!これは椛が着けて」
「えー……」
なんでこの人…怒ってるの……。
姉さんはまさにプクーと擬音が聞こえてくる様に頬を膨らませて私を見ていた。
「……はいはい…わかりました…。」
さすがに観念してそのプレゼントとやらをおとなしく受け取った。
「椛はかわいい自覚を持ちなさい?てか…自信が無いと何も始まらないわよ?」
「……」
解ってはいるけど……昔の経験状…私は自分自身に自信や…誇りを持てない……。
自分なんて…泥水をすする様な…ゴミ…だと……。ネガティブな考えが過ってしまう…。
姉さん達の様にもっと明るくなれればな……もっとおしゃれの出来る人間になれればなと……思って…いつでも皆のことを憧れている……。
「もっと……色々…出来る様になりたいな……」
「ん?何か言った?」
「いや……」
うつ向いて、唾と一緒にこの重苦しい思いを飲み込む。
「髪止め……。……ありがとう……」
それから…
「あむ!」
私は紙袋いっぱいに食べ物をそれを食べた。
「んん~っ!!やっぱり肉まんね~!」
いつにも増して嬉しい声が口をついて出てくる。
「うん!おいしい!!」
「椛の目的は食べ歩きだったのねー…」
「そう言う姉さんは?」
「ん?私はねぇ~…………」
ぽんぽんっと指を頬に当てて焦らしてきた…
そして…
「……あっ!!」
何かを思い出した様にその目を開いた…
まさかだけど…
「ごめん二人共!!そろそろ時間だから!適当に食べてて~!!」
姉さんは大慌てでその通りをまっすぐ走っていった…
「あー!虎子と行くよ~!!」
と…虎子もそれを追いかけて行った。
「……適当に…って……」
それから…数十分程度経った。
とりあえず…色々と食べ歩いて…町中を歩いていた。
「…もぐもぐ……」
ここの通りも変わったなー……
上を見上げれば、吊るされた風鈴が風でなびいてリンっリンっ…と音を立てている…。
町のあちこちから聞こえる賑やかな声…
お客さんを呼び込む声や楽しく談笑している声……。昔は自分のことで手一杯で…あんまりこの町を見れてなかったな…。
そんな中歩いていると、ある裏路地が目に入った…
「………」
賑やかな町とは裏腹にそこは薄暗い。あの時を思い出す程の闇が私の目に入った……
「…っ」
嫌な気分になり目を反らしたくなって、私はそこを離れようとした。だけど…
―――「……離して…!!」――
「……っ!」
聞こえた…。微かにだけど、小さな女の子が叫んでいる……
周りの“人間”には聞こえていない…きっと“鬼”の私の耳にだけ届いた…。
それを聞いた私は躊躇無くその闇の中に飛び込んだ。
薄暗く入り組んだ路地を走り、声のした方角へ…
……――「…きゃっ!!」―…
―「やめろ!!離せよ!!」――
子供が二人…片方は男の子か……
あと一人は…大人の男…!!
声が近くなって来た。直ぐそこを曲がった先に!!
バッ!
そこを曲がると…私が予想していた様な…虫酸の走る光景があった……
図体のデカイおっさんが女の子の髪を掴んで連れ出そうとしている。女の子は痛そうな顔で…目から涙を流していた。
その男の腕を掴んで女の子を連れ出されまいと男の子が抵抗していた…。目にはアザ…殴られたのだろう…痛々しい程の跡が身体中に…
それは女の子の方も同じだ……
「たくっ!!しつけぇんだよ!!てめぇらは商品だろうが!!!てめぇらを引き取って育ててやってんのは誰だと思ってんだッ!!!大人しくこい!!」
女の子の長い髪を力一杯、引っ張る…
「行かせない…!俺達にろくな飯を食わせずに自分ばっかり……このっ離せ!!!」
「この野郎…っ」
拳を振りかぶった
「おい…」
「あ?んだよお前…?なに見てんだよ!!」
私に気づいてこっちを向いた。汚ねぇ顔だな……唾飛ばして喋んじゃねぇよ…
「おい!何睨んでんだよ…うせろよ…………。チッ」
男は女の子の髪から手を離して私の方へ来た。
近くで見ると思った以上にデカイことが解る。肉付きも良い…良いもん食ってんだろうなー……。
はぁ…私は今だに肋骨が見えているのに……
「…はぁ」
「よく見りゃ…良い体してるな…?こりゃ…良い商品になるなぁ…キヒヒっ…」
近づいて来た。…筋肉もあるな…なんの仕事してんだよ……
「……うるさいなー…」
「あ?んだと?」
何イラついてんだこいつ…。
「おい…なんだよその目は?」
「…」
人間のくせに…
「てめぇ…ふざけんじゃ…ねぇッ!!」
奴が腕を振りかぶった瞬間…私は怒りに任せて足を直角に上げた。
その足に顎を蹴られて、宙にうち上がった。
「ぐお…っ」
「…」
宙に舞った瞬間に私はそいつを蹴り飛ばして向かいの壁に押し当てた…
「あが…っ!」
バゴンッ!とデカイ音が出た。ぶつかった衝撃で木箱がバラバラと落ちた…
この音で誰かが来るかもしれない…
「…っ!てめっ…!」
「ア?」
生意気なこいつの顎をガシッと掴む…
男は私の顔を見るなり怯えた表情を浮かべた…。それもそうだろう…こんな人間程度、鬼の力を出さなくたって返り討ちにできただろうが…。
私はとてつもない怒りで鬼の姿になって、こいつをとことん怯えさせたくなった…
「…」
私は今、見たことない顔をしているだろう…
こいつの反応を見れば解る。
「ひっ…!」
「……なめてんじゃねぇぞ…。屑が…。消えろ」
「ひ…っひ~っ!!すみませんでしたぁ~!!」
みっともなく逃げた…
「…この程度か…。はぁ…(とっとと…ずらかるか…。でも…その前に…)」
あの兄妹の近くに寄る。
「っ!」
「な…なんだよ…!」
怯えてる………だよね…そりゃ、普通は鬼を見れば恐れる…
仕方ない…何か食べ物だけでも上げないと…
紙袋を手に取り、中を確認する…
激しく動いたせいで中はぐちゃぐちゃ…みたらし団子のせいで粘っこいし…袋に詰めてもらった物は飛び出している…。
「…。(これは…食えたものじゃないな……仕方ない…)」
私は袖の中から別の紙袋を取り出した。
これは、別で包んでもらったちょっと高い肉まんが入ってる…。
チャーシューって言う肉が入ってるらしい…
あとで、食べようと思ってたんだけどなー…
「…。はい…」
中からそれを取り出して二人に渡した。
ちょうど2個…
「…っ!」
警戒している…。けど、妹の方が恐る恐るそれに手を伸ばし受け取った…
「…」
中を割り…美味しそうな肉が姿を見せる。
それに見とれた少女は肉まんを一噛り…
「っ…!おいしい…!」
それを食べた瞬間、即座にその言葉が出た。
兄もそれに影響されて警戒を解いて肉まんを受け取った。
「……!……うまい…」
ガツガツと肉まんにかぶりつく…
「…」
不思議な髪色だな…
女の子の方が長い綺麗な白髪…。
男の子は紅色の髪の毛…。何か特殊な家系か…?
それにしても、美味しそうに食べるな…。
「……よいしょっ…」
紙袋を回収して立ち上がった。
「…(さて…この子達…どうしようかな……。役所にでも保護してもらって……)」
その時…
「………」
「っ…!」
刀を腰に差した、男が立っていた。
さっきの音で来たのだろう…。両目に傷を着けた、銀髪の男…。服装からして…―役所の人間―…!
「…貴様は…そこで何をしている…?」
―この国では鬼は恐れの対象…。役所の人間はそれを退治…取り締まるのが役目―
―鬼の敵だ―
続く
花と盃 くまだんご @kumadango
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