三幕 鬼の生活

「ん~!やっぱ、子どもはいいね~!  あったかいし…かわいいー!」

「いいなぁー…俺も子どもだったら、姉さんにあんな感じにさせてもらえたのかなぁー」

「おまえには無理だろ!」

「あんた達は下心が見え見えなんだヨ!!」

「姉さんかわいいからな~」

ギャハハハ!

鬼達は楽しそうに笑いあっていた。


「ん…?この気は…」

「ん?」

楓は振り向いて上を見上げた。

「あら…帰ってきたわね」

「だれが…?」

「この鬼ヶ島にはなぁ…?三頭つう、鬼の頭と…四天王がこの島を守ってんだ…」

そのとき、何かが楓目掛けて飛び出してきた…!

その手になにか力を溜めて楓へ…!

バコォンッ!!

大きな音と土煙が辺りに広がった…

「きゃっ!!」


土煙が晴れるとその中から楓を攻撃をした赤毛の竜の様な角の鬼とそれを受け止める楓の姿が見えた。

私は敵かと不安になったが…その不安は次の瞬間さっぱりと消え去った

「よ!元気だったか?」

「あぁ…元気だったよ。三日未満も出かけやがってよー…暇だったんだぜ?」

「たく…姉さんがいんだろ?」

「姉さんの戦い方は俺の求めているもんじゃない…お前みたいに派手にやってくんなきゃ」

「はぁ…わがままな奴だ…」

とても親しげだった…

二人は話し終えその手を下ろした。


「ちょっとちょっと…なんか失礼な言葉聞こえたんだけどー?」

華澄さんが凄く不服そうな顔で二人に駆け寄る

「おーっと…まずい…まずい……」

「この人は?」

「ん?あぁ…こいつは“駒丸”」

「三頭が1人!“八瀬 駒丸(はせ こままる)”面白い事が大好きだから、お前のこといっぱい話せよな~?」

駒丸さんは明るい笑顔で私に挨拶をした。


しばらくして、その鬼の後ろから長髪の赤毛を下ろした一本角の鬼が歩いてきた。

「?あの人は?」

と…私は楓に聞く。

「ん?あぁ~あいつは“牛若”」

牛若と呼ばれた鬼は何本もの坂瓶を運んでいた…

「うひぃー……!うひぃー!キッツ!!八瀬さん!!自分で運んでよ!!」

「えぇ~……お前力持ちだしいいだろ~?」

私から見ると牛若さんは黒熊さん見たいに鬼みたいな外見には見えないし、意外と若そうに見えた。

けど…鬼だし見た目じゃ解らないのかな?


「牛若。紹介するぜ?こいつは椛…新しい家族だ」

「へ…へぇー…こりゃまた小さいのを連れてきたね…伊吹……!」

凄いつらそう…

「牛若ー!その坂瓶こっちに置いておいてくれー」

「えぇ……!は……はぁい……」

行っちゃった…

「あいつは“茨木 牛若(いばらき うしわか)”…。四天王の1人だ」

「…四天王?」

「あぁ…俺と駒丸と姉さんの三人が三頭で、この島で一番強いんだが……その次に強い四人の鬼を四天王つってな…」

ん?四天王ってことは……黒熊さんと牛若さん……あと二人いる?


「デヤァッ!!」

険しい山の間から黒くて大きな何かが飛び出してきた…!

「きゃっ!」

「うおっ!」

その大きな何かが着地したことで、大量の土煙が立った…

「おいおい…今日は一段と元気だなー!“力一”」

私の目の前には巨大な体の黒い鬼…角も口も大きく…昔から想像していた鬼の姿その物だった…

「…っ」

「アァ?ニンゲン……―だべか?」

「へ?」

その鬼の威圧感はその「だべか?」で一気に吹っ飛んだ。

「悪いねぇ…オラさ、力が強いもんでな…跳ぶだけで皆に迷惑かけちまうんだ…」

一番鬼っぽい見た目と裏腹にその性格は…なんと言うか……おじさんぽっい…

「こいつが四天王の“熊 力一(くま りきいち)”…。力は強いが俺らの中で一番心が優しい鬼だな…」

「伊吹さん…!そんな褒めてもオラはなんもやらんぞ!!」

「ハッハッハッ!はいはい…!解ってるよ!」


この島の鬼達は…皆楽しそうだ。

笑いが絶えなくて…皆笑顔で…私の今までの生活は…なんだったんだろう……

「…みじ……もみじ……おい椛!!」

「はいっ!」

楓が私に呼び掛けていた。


「なにぼーっとしてんだ?ほら、行くぞ?」

「どこに?」

「どこって…お前の部屋とか…風呂場の所とか見ないとわかんねぇだろ?」

「あ…うん!」

私は楓達の背中を追って城の中に入った。


なんやかんやあって、私は新しい家の見学を始めた。

最初は食堂

「ここが、皆で飯を食うところだ!」

食堂は石畳の床で沢山机が置いてある。…楓の話では隣が厨房のらしい

「ここで、宴や飯でやいのやいのすんだ…。あ、1人で食いてえ気分の時は自分の部屋で食っていいぞ?」

「うん!」


次にお風呂場。

お風呂場は二手に分かれいて、青と赤の暖簾に文字が書かれていた

「えー…っと。」

「あ。もしかして読めない?」

華澄さんが私に問いかけた。

「あ…うーん…文字なんて教えてもらったことなくて……」

「大丈夫よ。私が色々教えてあげるから…」

「変なの教え過ぎんなよー」

また、黒熊さんが野次を飛ばす。

華澄さんは私に目線をあわせて暖簾を指差した。

「青のが男。赤いのが女の子よ。」

「何で分かれてるの?」

「え?んー…恥ずかしいから?まぁ、私はそんなに恥ずかしくないけど…」

「こっちが恥ずかしくなんだよ…」

と…楓が。

「あら、そうなの?」

「まぁ…ひとそれぞれだけど…」

駒丸さんも賛同のよう…

私はよくわかんないけど…?


華澄さんはそんな彼らを無視して私の方を見た。

「…後で一緒に入ろうね~」

頬をぷに~っと触られて笑顔を見せられた。

…なんか気分良い。

「さぁーって、次は…お待ちかねの…部屋だな?」



少し上に上がって、広い廊下を進む。いくつも戸があってその一つの戸の前で楓は止まった。

「さて…ここが、お前の部屋だ」

「…」

「…開けてみ?」

私が固まっていると華澄さんが優しく声を掛けてくれ…私はその戸を開いた。

「っ……!」

戸の先は今まで見たことないくらい広くて、机も座布団もあって。…さらにふかふかそうな布団が襖の中にしまってあった。


その中は、私が今まで憧れていた部屋……

なんだか…視界が歪んできた……

「…」

「っ!」

華澄さんは私の顔を見るなり直ぐに私をぎゅ~っと抱き締めこう言った。

「…よく……頑張ったね…っ!」

華澄さんも泣いていた。私はさらに感情が込み上げて来て声を上げて泣いてしまった。


この後のことはよく覚えて無いけど、いつの間にか食堂にいて皆とご飯を食べていた。

「でさぁー黒熊がさー」

「やめろって!!」


「ハッハッハッ…!」

「伊吹ー!!飲み比べしようぜー!」


皆でどんちゃん騒ぎ…この時には私の気持ちもすっかり晴れていて…皆と楽しんだ

「良ければ…オラの魚分けてやるだ…」

「んっ!ありがとう!!」


「おいリキ!!お前も来いよ!!!」

「はいはい…解っただよー」


私は力一さんに別けてもらった魚の味噌焼きを食べた。

「ん~!おいしぃ…!!」

「うふふ…」


食事を終えて、食器を片付けた。

「椛ちゃん!食器片付けたらお風呂行っか?」

「お風呂?」


華澄さんに連れられて赤い暖簾の先へ行った。

中はちょっと薄暗く、湯気が立っていた。これがお風呂か…

私は椅子に座らされてお湯をジャバッと掛けられた。…温かい。

「よーし…!洗うわよ~!」

華澄は手に白いモコモコを付けて私の頭をごしごしと洗い始めた。

「あ。目閉じた方がいいわよ?」

言われた通り目を閉じた

ごしごしごし…洗われて段々気持ち良くなってきた…

「椛ちゃんは…好きな物ある?」

「んー…特にないよ」

「へぇ~…じゃあ今度…私と探しに行こっか…?」

「……町に?」

「ふふ…町が怖いの…?」

「………いや…今は怖くない」

「…じゃあ…お買い物…楽しめるわね!」



頭と体を洗ったあと、お湯に浸かった…

「はぁぁぁぁ………」

「あら、凄い気持ちよさそう」

「ん…気持ちいい…」

「良かった…。ここのお風呂はね…温泉なのよ~?だから、いつもお肌すべすべ…」

「…だから華澄さんは綺麗なんだね…」

「…それもそうだけど…色々お勉強して私はさらに綺麗になったのよ?」

「…お勉強?」

「えぇ……お化粧とか…お買い物とか…髪のお手入れとか……色々、勉強するの…!」

「へぇー…大変だなー…」

ちょっと、未来のことを考えるのは頭が痛くなる程…難しい…

「私は華澄さん見たいには…なれないかな~…」

「…大丈夫。あなたにお勉強を教えるのは…なんてたって…この私!」

「……じゃあ安心だな…」


「…うん。……さて!そろそろ上がろっか!」

バシャンッ!!

華澄さんが勢い良く立ち上がって水しぶきが立った

「っ!ちょっと華澄さん!」

「あっ…ごめんなさい!!」



そのあと、お風呂から出て髪を乾かして部屋に戻った。

「じゃあ、私こっちだから。何かあったら呼んでね?」

「はい…!」

華澄さんは廊下を進んで自分の部屋に戻って行く。

「………」

私は戸を開けようとした瞬間に少し止まった…

1人で寝るのは慣れているけど…今だけは……


「…っ華澄さん!!」

華澄さんを呼び止めた。

「ん?」

「あの……えっと………いっ…いっしょに…」

呼び止めたのは良いもののいざ言うとなると恥ずかしい…


「あぁー…もしかして……」

華澄さんは気付いた様だけどニマニマと恥ずかしがっている私を見ていた。

「えっと……!あの………」

華澄さんのいじわる!!

「うふふ…」


そして…

「いっ……!!いっしょに寝てください!!!」

言えた。

私は顔を真っ赤にして話した。すると華澄さんは


「うん!良いわよ!」

華澄さんは笑顔で答えて直ぐに私の方に来た。

「ほらほら!速く入りましょ!折角だし、お話しいっぱいしましょ!」

「もー…華澄さんのいじわる……」


…………………………

……………………………

そのころ、俺は城の高台に登って酒を飲んでいた。

「ゴクッ……ゴクッ………」

「よー!伊吹!月見酒か?」

駒丸が登ってきた。

「…あぁ…」

「なんだよ…辛気癖ぇな…折角の酒が不味くなるぞ?」

「…ハッハッ!そうだな。」

確かに…辛気癖ぇな……


駒丸は透明な盃を出してその中に酒を入れた。

「その盃…最初見たときビックリしたぜ…こいつなんだ?と思った…」

「羨ましいか?これは、特注品…!貴族出の俺の産物だ…」

「別に羨ましかねぇよ…まず、ガラス製の盃なんて飲みづらいだろ?」

「それと合わせて、傑作…だろ?」

「芸術家は解らねぇな…」

「てか…お前の酒入れの方がおかしいだろ!?」

駒丸は俺が掴んでいる金棒を指差す。

「金棒の酒入れの方が圧倒的に飲みづらいでしょ!!」

「…まさに鬼って感じがするだろ?」

「しねぇよ!!」


それから少し飲み続けて…

「……なぁ、駒丸…」

「ん?」

「椛のことどう思う…」

「………良い子」

「単純だなー!」

俺は笑った

そのあと、また暗い顔をして…こう話した…

「…………あいつの母親な…本当は…捨てた訳じゃねぇんだよ………」



――――――――――――――

あれから十一年後…

バッ!

ある鬼が巨鳥に乗り、鬼ヶ島を駆ける

「まずい!寝坊した!!今日は姉さんとお出かけなのにー!!」

その鬼は水色の綺麗な角を生やし、桃色の髪の毛をなびかせた…


彼女の名は―水無瀬 椛―。

「まずい…まずい…まずい!!!怒られる~!」

これは、鬼伝説を広めたある少女のお話し…


           続く

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