話し合い

市長は、女を誘拐した理由を語り始めた。


「わしは悩んでいるんだ」

「何を」

「人生を」

「……よく分からんが、それが女をさらった理由なのか」

「そうだ」

「ふぅん……」

「……」


会話は終わった。


「――おい。今の説明では何も分からないぞ!もっと詳しく話してくれ」


にゅうめんマンは要求した。


「よかろう」


市長は同意し、女を誘拐した理由を改めて語り始めた。


「貴様も知ってのとおり、わしは公務員じゃないですか」

「そうだな」

「それで、毎日3時間も4時間も、ひいこら言いながら働くわけだ」

「ひいこら言うには、ちょっと労働時間が短いんじゃないか」


「そんな風に、誰にも感謝されず、毎日へとへとになるまで働いて、1人暮らしをしているこのうちへ帰って来るんだ。そこで唯一わしを待っているものは何だと思う?」

「新聞の夕刊とか?」

「新聞なんかじゃない。――孤独だよ」

「……ふざけているのか」


「ふざけてなどない。その孤独を解消するために、わしはペットのカメを飼おうと思い、市民のボランティアに頼んで庭にカメ用の池を掘ってもらったり、かわいい嫁さんをもらったら人生が明るくなるかと思って、美奈子ちゃんを誘拐したりしたわけだ」

「あれはボランティアとは言わないぞ」


これで話は終わり、市長は、邪魔者のにゅうめんマンを追い返そうとした。


「分かっただろ。もう帰れ」

「分かるもんか。嫌がっている女の人を誘拐して無理やり嫁にするなんて、そんな事が許されるはずがない」

「何だと」


「お前は、人として大事な事を忘れているよ」

「大事な事とは何だ」

「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立するということだ」

「日本国憲法第24条を引用するのは、やめてもらっていいかな。思いやりとか倫理観とか、憲法の他に、多分何かもっと大事な事があるだろ」

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