市長邸

しばらく庭を歩くと、市長が住んでいる建物に着いた。庭はバカみたいに広いが、建物は普通の家の2倍くらいの大きさで、常識的なサイズだった。


さて、素直に「誘拐された女を連れ戻しに来ました」と言っても追い返されるだけだろう。そこで、にゅうめんマンは一計を案じ、宅配便の配達員のふりをして侵入を試みることにした。


正面の扉の脇に呼び鈴がついていたので、にゅうめんマンがそれを押すと、インターホンを通じて野太い声が応答した。


「誰だ」

「荷物を届けに来ました」

「何の荷物だ」

「それは……」


荷物の内容まで考えていなかったので、にゅうめんマンはごまかした。


「それは、見てのお楽しみです」

「なぜじらす?まあいい。今出る」


すると、すぐに家の中からノシノシと足音が聞こえ、扉が開いて、ワイシャツを着た、ひげもじゃで目つきが鋭い筋肉ムキムキの巨漢が姿を現した。星鬼松市長の地獄王猛丸じごくおうたけまるだ。


扉が開くやいなや、にゅうめんマンはすばやく中へ飛び込み、家の奧へ向かって廊下をダッシュした。


「何だ貴様は!待たんか!」


にゅうめんマンは廊下に面したドアの1つを開け、その部屋へ飛び入った。そこは居間で、テーブルの脇のいすに、頭を金髪に染めた女が1人で座っていた。にゅうめんマンは、被害者の家族からあらかじめ写真を見せてもらっていたので、それが誘拐された人物であることがすぐに分かった。


にゅうめんマンは女に言った。


「家族から依頼を受けてあなたを救出に来た、にゅうめんマンという者です。僕が来たからには、もう心配は要りません。さあ、一緒にここを脱出して帰りましょう!」

「まあ、助けに来てくれたの」


だが、すぐに市長も居間へ入って来て救出を妨害した。


「貴様。わしのかわいい美奈子ちゃんを連れ戻すために、配達員をかたったのか」

「そうだ。家族も心配しているし、被害者は返してもらうぞ」

「断る。せっかく、がんばって誘拐したのに簡単に連れ戻されては困る」

「そんな事言ったってダメだ」

「家族の依頼を受けたのか何だか知らんが、愛し合う2人を引き裂く権利はお前にはないはずだ」

「愛し合っているのか?」


「愛し合っていないし、早くおうちに帰りたいです」


女はコメントした。これを踏まえて、にゅうめんマンは市長に言った。


「本人もこう言っているじゃないか。黙って解放してやれ」

「まず落ち着け。実はこれには深いわけがあるんだ。それを聞けば貴様も納得するだろう」

「聞かせてもらおうか」

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