にゅうめんマンは再び地下鉄に乗って「市長邸前」駅へ向かった。途中で盗賊の襲撃を受けるハプニングはあったが、難なく賊を蹴散らし、無事に目的地に着いた。


駅から地上へ出ると、目の前には広大な土地が広がっていた。ぱっと見たところ新宿御苑くらいの広さがありそうなこの土地が、市長の家の庭なのだった。


市長の敷地は思ったよりオープンで、囲いなどはなく、度胸さえあれば誰でも侵入できた。それで、にゅうめんマンが奥の方へと進むと、敷地の一画で、大勢の人たちが地面に巨大な穴を掘っていた。未完成だが、その楕円形の穴は深さが2メートルくらい、長径は200メートルくらいあった。


穴を掘る人たちは、恐い顔をした男たちに監視され、時々むちで打たれたりしているので、好きで掘っているわけではないようだ。


実際、穴を掘っていた男の一人が監視者に反抗するのを、にゅうめんマンは目撃した。


「こんな事もうやってられっか!なんで市長がカメを飼うための池を俺たちが掘らなきゃならないんだ!」

「黙って掘れっ!」


監視者は男をむち打った。


「あうっ」


だが男は反抗をやめず、引き続き監視者に文句を言った。


「そもそも、カメを飼うのになんでこんなでかい池がいるんだよ!池というか、もはや湖じゃねえか!」

「たくさんカメを飼いたいという市長のご要望だ」

「何匹飼うつもりだ!辺り一面カメだらけになってしまうぞ!」

「いいだろ別に」

「しかも、なぜ人力で掘る?重機を使った方が100倍速く掘れるだろ」

「多分愚民どもをいたぶるのが楽しいんだろ」


これを聞いた男はついに切れて監視者に襲いかかった。だが監視者は腰に下げていた刀をすばやく抜いて男の腹を刺した。


「ぐああああっ!」


男は、むき出しの土の上にどさりと倒れた。にゅうめんマンは仰天して監視者に言った。


「何をしてるんだ!死んでしまうぞ!」

「ああ?何だてめえは」


監視者は面倒くさそうにそう言ってから、にゅうめんマンを無視して、ふところからばんそうこうを取り出し、刀で刺した男の傷口にペタリと貼った。そしてこの男を放置し、他の穴掘り労働者の監視を始めた。


よく見ると、体にばんそうこうを付けた人が、他にもぽつぽつ地面に寝ていた。深手を負った労働者にはばんそうこうを貼って寝かせておき、傷が治ったら再び穴を掘らせるというシステムであるらしい。

星鬼松市民にとって刀で刺されるくらいは日常茶飯事だ。市民たちは体が丈夫なので、刀傷くらいは放っておけば治るのだった。

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